第4章「カレハ・A・セプテンバー」【挿絵済】
「秋」
それは死にゆく「枯葉」の季節
しかしその様は「紅葉」と語り継がれた。
「漆」「丸葉」「楓」「橄欖」「団栗」
それは「針葉樹林」をも焼き尽くし
慈悲もなく「芋の木」を灰色に染める。
刻む「年輪」の数だけ、澄んだ「森林」は「燃え盛り」
世に「み」を墜とせば、「枯れ落ちて」ゆく。
あなたはこの「秋の葉」をなんて言いたい?
カレハ・A・セプテンバー「カレハの日記」より。
第4章【カレハ・A・セプテンバー】
???
「カレハ!いい加減起きなさい!」
カレハ
「うぅ、あと5分…まだ食べられるよ:…」
???
「早く!こんな良い天気なのにタオルケットが干せないでしょ!」
体を揺さぶられ重い目蓋を開くと見知った女性の顔がぼんやりと映る。
カレハ
「やだ。」
???
「あっそう。なら私も勝手に部屋を掃除するわね?」
カレハ
「勝手に触んないで、あっち行って。」
私が頭を出した蓑虫の姿で抵抗するもシスターは掃除をし始める。
シスター
「はぁ…銃の整備をするならちゃんと片付けてよね」
カレハ
「あとでやろうと思ってたの。」
シスター
「それでこの有様でしょうに、いつになったらあなたは女の子らしくなるの?」
カレハ
「…るさいなー」
シスター
「なにこれ?」
シスターは床から何かを拾い上げる。
シスター
「あなた胸も無いのに下着なんて買ったの?口を開けば狩に行くしか言わないあなたが?」
カレハ
「私だってそろそろ必要かなって思ったんだよ。」
シスター
「なら付ければいいじゃない」
カレハ
「サイズが合わなかったの」
シスター
「また試着せずに買ったのね?だからいつも服のサイズがワンサイズ大きいのよ」
カレハ
「はいはい」
シスター
「色気付くのは別に良いけど、まずはこの汚い部屋をなんとかしなさいな、あと頭に寝癖ついてるからこっちに来なさい。」
言われた通り前に座るとシスターはぼやきながら私の髪の毛をとかす。
シスター
「はい!完成!あなたちゃんとしてれば可愛いのだから身嗜みにも気を使いなさい」
カレハ
「はーい」
シスター
「私はお祈りに行ってくるから帰って来るまでに部屋を片付けておきなさいよー?」
シスターの小言に生返事をしながら、私は洗面台に行き顔を洗い歯を磨く。
口を濯ぎ、自分の部屋に戻ると愛銃の「レミントンM1879」を手に取り、
お気に入りの上着に袖を通し、床に転がってる弾をいくつかポケットに突っ込む。
玄関に向かいお気に入りのブーツを履くと大きな声で
カレハ
「いってきまーす!」
シスター
「夕…までには帰りな…いよー…」
シスターが何か言っている気がするが私は構わず玄関の扉を開け、
照りつける日差しを吹っ切る勢いで家の前の坂を駆け上がり裏山へと向かう。
ここは欧州の西の果てにある「 I 」ルランド王国の離れ島、ディングル島。
私はこのディングル島の丘の上にある古い礼拝堂に住んでいる。
赤子だった私は礼拝堂の扉の前にゆり籠に入れられ置かれていたらしく、
礼拝堂の主であるシスターの慈悲で拾われ今に至っている。
カレハ
「おっと、獲物だ…。」
私は茂みに身を潜めると息を殺して、引き金に手をかける。
ローリングブロック式は「単発銃」故に装填するのに
そこそこの時間がかかってしまう。つまり一発勝負だ。
カレハ
「ふぅ…」
力を抜く様に息を吐き出し、出し切った所で息を止める。
そして引き金に指をかけゆっくりと遊びが無くなる所まで圧力をかけ、
引き金が重くなった所で一気に引き切ると
山に銃声が鳴り響き、その直後獣は驚いた様な声を短く発すると
その場にパタりと倒れた。命中だ。
目視にて獣が地に伏すのを確認した私は足早にその場へと向かい、
早速獣の血抜きをする。
カレハ
「随分痩せてるウサギだなぁ。」
ボヤきながらも獲物の処理をし終えた私は今日の成果の悪さに
もう少し狩を続けようかと思ったのだが、
ぼちぼち日も傾き始めるので山を降りる事にした。
その足で市場に到着した私は早速獲物を換金し小銭を手に入れると
市場の出店を見て歩く。
カレハ
「うーんどれにしようかなー…」
目当ての物がなかなか見つからず首を捻って歩いていると声をかけられる。
おじさん
「カレハちゃんじゃねぇか!どうしたそんなにムスっとしてぇ!べっぴんさんが台無しだぞ!」
カレハ
「こんにちはおじさん!プレゼントにネックレスとかイアリングを探してるんだけどなかなか良いのが見つからなくて」
八百屋のおじさん
「すまねぇ。うちは八百屋だからそういうもんは置いてねーな。そうだ!代わりと言ってちゃなんだが、今朝獲れた林檎があるんだ持ってきな!」
おじさんはそう言うと一個また一個と林檎を積んで行き、
最終的に私の腕にはリンゴのピラミッドが完成していた。
カレハ
「こんなに貰っちゃって良いの?」
八百屋のおじさん「いいんだよ!カレハちゃんには前に鹿肉を貰ったし、シスターにも世話になったからな!見てもらった腰もこの通り絶好調さ!」
こういったサービスは私にとって日常的だ。
それは決して私が人気者だからと言うわけでは無い。
辺鄙で医者が居ないこの島でシスターがお医者さんをしてるからだ。
シスターは神に祈ると人を癒す不思議な力が使えるので、
その力を使ってよく島民の病気を治している。
故にその感謝から八百屋のおじさんだけでなく島民から
いろいろな物を頂く機会が多いのだが、いくら感謝と言えど
流石に貰い過ぎだと思った私は林檎をおじさんに返す事にした。
カレハ
「今年は不作だって聞くしやっぱりいいよ…気持ちだけ受け取っておくね。」
八百屋のおじさん
「おいおい!そりゃ無いぜカレハちゃん!受け取らないなんて寂しいじゃねーか」
お互いの気持ちの譲り合いに林檎を押し付けあっていると、
その姿をみかねたのか八百屋の奥から女性が出てくる。
???
「いつまで口説いてんだいあんたは!カレハちゃんが困ってるでしょ!」
と言うとその女性は八百屋の店主の頭を軽くはたく。
カレハ
「おばさん、こんにちは!」
八百屋のおばさん
「こんにちはカレハちゃん!また大きくなったんじゃ無いかい?相変わらず綺麗ねぇ」
おばさんは私の髪を両手でわしゃわしゃと撫でついでにほっぺをむにむにと弄ぶ。
カレハ
「おばひゃんむにむにしないでぇ〜」
八百屋のおじさん
「ったりめーだ、ここらじゃ狙った獲物は逃さねぇ!百発百中の『碧眼のカレハ』だぜ?もう北の奴らに【南の腰抜け】なんて言わせないぜ!」
八百屋のおばさん
「あんた女の子に何言ってんだい!ごめんねぇ?カレハちゃんこのバカ店主には後で私がうんと言って聞かせるとして、林檎は貰っていっておくれよ。このバカ店主の腰もシスターのお陰で本当に調子が良くなってね、確かに今年は不作だけど最近は帝国からの配給もあるから生活には困ってないからさ。」
カレハ
「おばさんがそこまで言うなら…貰おうかな。ありがとね。」
おばさんは私がそう言うと返そうとしていた林檎を紙袋に入れて渡してくれた。
八百屋のおばさん
「それよりカレハちゃんも気を付けてね?本島、特に北の方で原因不明の疫病が流行ってるらしいのよ、この島ではまだ出て無いけどだんだん南下してきてるって港の漁師達が言ってたわ。」
カレハ
「そうなんだ、気をつけるよ。」
私がこくりと頷くとちょうど客の声がかかりおばさんは店に戻って行ったので帰路に着く。
丘の上にある教会に着くと、自分から少々汗臭 i …では無く
女の子の匂いが強いのでそのまま井戸場へと向かう。
カレハ
「ぷはぁー!」
頭から勢いよく水を被り、一日の疲れと女の子の匂いを流す。
シスター
「カレハ!なんて事してるの!?しかもそんな格好で!」
カレハ
「なにって水浴びだけど?肌着も着てるし」
シスター
「衝立がそこにあるでしょうに!なんで使わないの!?村の人の目だってあるんだから!透けてるわよ!?」
カレハ
「す、透けてるたって、私の胸なんて在って無い様なもんだし。」
シスター
「下着くらい付けなさいよ!」
カレハ
「だからサイズがぶかぶかだったの!」
シスター
「え?でもあれって確か65Aよね?あれより下のサイズなんて無いわよ?」
カレハ
「だぁあ!なんで知ってんの!いいんだよ私に「無乳」を突きつけてきた布切れなんて無くなればいいんだ!」
シスター
「多少ぶかぶかでもいいから付けなさいな!小さい方が色々と目立つのよ!」
カレハ
「小さい方が目立つ!?私に喧嘩売ってんのか!自分がたゆんたゆんだからって言って良い冗談と悪い冗談があるんだぞ!」
この手の話題には敏感な私はムキになって反論する。
シスター
「ばっ!馬鹿!小さい方が…そ、その…突起が目立つのよ、自分で見て見なさいな。」
カレハ
「突起って何?突起って…とっk …。 」
・・・。
その夜シスターは私の大好きなじゃがいもがたっぷり入ったシェパーズパイを作ってくれた。
なんでかな…。
今日のシェパーズパイは妙に塩味が効いていた。
追伸
ワンサイズ大きいブラも今日から付けることにしました。
夕飯を食べ終えた私はシスターに最近教えてもらったコーヒーを淹れる。
カレハ
「はいシスター、コーヒー」
シスター
「あら、気が利くじゃない。」
私は飲めもしないブラックコーヒーを一口飲むと苦みを我慢して話を切り出す。
カレハ
「シスターさ、何か欲しいものとかある?」
シスター
「どうしたの急に。もしかして道に落っこちてる物でも食べちゃったの?」
カレハ
「私を何歳だと思ってるんだ!」
シスター
「もしかしてさっきの胸の話まだ怒ってるの?確かにあなたは年齢の割には慎ましい方かもしれないけど、女の子はおっぱいだけじゃ無いわよ?小さくても可愛げがあって私はいいと思うの!大っきくたって重いだけなんだから。」
カレハ
「あんたは私に対する思いやりは無いのか!」
私はキッチンへ向かいこの思い共々、苦さを緩和す為に
飲めないブラックコーヒーにミルクと砂糖を入れる。
カレハ
「いいんだ、私はまだ成長期だから。ミルクをいっぱい飲んで大っきくなってやるんだ…」
シスター
「成長期って…。で?、なんで急にそんなことを聞いたのよ、カレハ。」
カレハ
「シスターそろそろ誕生日でしょ?私も今年で12歳になるし、自分でお金も稼げる様になった、だからさ、ここまで女手一つで育ててくれたシスターに何かプレゼントをあげたいんだ」
シスター
「そう…。私はその気持ちだけで十分嬉しいわ。」
カレハ
「だからさ欲しい物教えてよ!なんでも買ってあげる!私その為にたくさん貯金したんだ!」
煮え切らない答えをするシスターを私は言及する。
シスター
「うーん。私はカレハから貰った物だったらなんでも嬉しいわよ?」
カレハ
「なんでもいいが一番困るんだよー。」
シスター
「じゃあ、私はあなたが私に渡したい物が欲しいかな、それにはきっと目には見えない、大切な何かが沢山詰まっていると思うの、あなたが自分で考えて選んだプレゼントであれば私はとても嬉しいし必ず大切にするわ」
こういった大切な話をする時必ず言うシスターの殺し文句が飛んでくる。
カレハ
「うーん…そこまで言うなら…自分で選んでみるよ。」
殺し文句に私が口を尖らせるとシスターは「えぇ。」と言いながら優しく頭を撫でてくれた。
その夜、ベッドに横になった私は10歳の時に生まれて初めて一人で狩を成功させ、
その獣を自分で捌いて食べた日の事を思い出す。
シスター
「泣いてるの?カレハ。」
カレハ
「シスター…とってもおいしかった。なのに涙が止まらないの。ねぇシスター、わたしは何で泣いてるの?」
シスター
「きっとあなたは今、目には見えない大切な「何か」が見えているのよ。」
カレハ
「わかんないよシスター、見えないのに見えてるの?でもいまは何も見えないよ。」
シスター
「それはあなたが泣いてるからよ、ほらこっち向いて。」
シスターは私のほっぺに手を添えると、指で涙を拭う。
カレハ
「おしえてくれないの?」
シスター
「自分で考えて出した答えがあなた自身を助けるの。あなたは誰よりも優しく純粋で困っている人に対して無償の愛を差し伸べる事が出来る。けれど優しさは時に利用され裏切られる事がある。」
カレハ
「うらぎられる?」
シスター
「そう、あなたの優しさが利用され、裏切られ、人に失望し人を嫌いになった時に、もう一度「他人を、自分を、」好きになる事が出来なくってしまう。それはあなたが心から愛している人に好きって心から言えなくなってしまう事なの。」
カレハ
「そうなの?でもよくわかんないよ。」
シスター
「今はそれで良いの『わからないと悩める』のはあなたが人で有る証拠、それにね?カレハ、あなたにとって私の言う事だけが正解になってしまったら、私が居なくなってしまった時あなたはどこにも進めなくなってしまうわ。だからあなたが自分で出した答えがあなた自信を救うの。」
カレハ
「シスター居なくならないよね?」
シスター
「私はいつだってあなたのそばにいる。ほら泣いていないでこっちに来なさい。」
あの日シスターは自分のベッドに私を入れ、
私が泣き止むまでずっとぎゅーっと抱きしめてくれた。
私はこの日のこと、今日みたいな日によく思い出す。
シスターは博識だがこれだけは教えてくれない。
そう、それは「目には見えない大切な物」。
私は未だにこの言葉の本当の意味が分からない。
曖昧には分かるのだけれど、明確にはわかっていないと言う感じだ。
カレハ
「はぁ…。今日はこの辺にしよう。」
私はモヤモヤとした気持ちを抱えながら、諦める様に目を閉じた。
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翌朝、慌ただしい音に起こされた私は音の発生源で有るキッチンへと向かう。
カレハ
「ふわぁ…シスター…何してんのー?」
シスター
「あら、カレハ起こしちゃった?今朝村の人が慌てて訪ねてきてね、どうも噂の流行病にかかっているみたいなの。」
カレハ
「そ、そうなんだ。」
シスター
「これから祈祷に行ってくるから、悪いんだけど芋がテーブルの上にあるからそれを蒸して朝ご飯はそれを食べて。」
カレハ
「わかった、シスターも気を付けてね。」
シスター
「えぇ、カレハも今日は家で大人しくしていなさい。」
昨年から「 I 」ルランド本島の北方では、原因不明の疫病が流行っている、
徐々に南下しているとは聞いていたが、どうやらこの離れ小島も他人事では無い様だ。
といってもシスターの祈祷は万病に対する良薬どころかなんでも直せる万能薬だ、
医者の居ないこの島においてシスターはこういった時によく頼りにされている。
なんでもシスターは、私を拾う前「 I 」ルランド本島の首都ダーブリンにある教会で
この島を守る天啓を受けて古い礼拝堂に来たらしい。
その為シスターは、家族を「 I 」ルランド北部に住む親友に託して来たと酒が入った時に
一度だけ話をしてくれた事がある。
妹は頭が良くこのご時世で医学を学ぶ学校に入る程だと、そして「自分に似ている」らしい。
下の子は私と同い年で可愛らしい。昔私は遊んだ事が有るそうだが私は覚えていない。
月に一度元気に暮らしているというシスターの親友からの手紙とポストカードサイズの絵が一枚届く。
シスターは親友を信じているとは言っていたが本当はとても心配だと思う。
一回だけこっそり宛先を見た事があるが名前は確か「マルバ?」だったかな?
それ以来シスターは家族の話をしてくれ無いため尋ねてみたことがあるんだが。
「だってカレハ、私の家族の話をしたら嫉妬しちゃうでしょー?」と適当に流された。
私の想像だがシスターの家族はきっとシスターと同じ白金色のブロンドヘアーにルビーよりも綺麗な紅玉の
様な緋色の瞳に決まってる、シスター自身が自分に似ているというんだから間違い無いだろう。
「いつか会って見たいなー」とぼやきながら私は配給で貰った芋を蒸して口にする。
シスターに家で大人しくしろと言われていた私は狩りにも行けず、やる事が無いので昼から惰眠を
貪ろうとしていたが目が冴えて眠れないのでずっとゴロゴロしていると、
ガタン、と教会の扉が開く音が聞こえた。
カレハ
「シスターおかえり!」
シスター
「えぇ。」
カレハ
「なんか今日はやけに疲れてるね、もしかしてうまく行かなかった?」
シスター
「治療は上手くいったわ」
カレハ
「なら良いけど、芋残ってるけど食べる?」
シスター
「私は遠慮するわ、ちょっと疲れてるみたいだから先に少し休ませて貰うわね」
と言うとシスターは足早に自分の部屋へと行ってしまった。
カレハ
「やけにテンション低いなー。そうだ!」
私は思いついた事を早速実行し、自分の部屋へと戻り急いで支度をする。
カレハ
「あれ?どこ行ったっけ?確かここにあったと思うんだけどー…あ!あった!」
私は財布とある物を持って、とある場所へと向かった。
目的地へ到着し、またもやウロウロと散策していると
八百屋のおじさん
「カレハちゃん!いいところに!今教会に行こうと思ってたところなんだ!」
カレハ
「おじさん!こんにちは!教会に?」
八百屋のおじさん
「今日は本島からの卸しの日でな!香具屋が露店を出してるんだ!」
カレハ
「香具屋?」
八百屋のおじさん
「昨日カレハちゃんが欲しがってたじゃねーか!」
私は頭に疑問符を浮かべる。
八百屋のおじさん
「早く行かねーと目ぼしいもんが無くなっちまう!」
おじさんに手を引かれその「香具屋」とやらの露店の前にたどり着くと
私は香具屋が何屋売っているのかようやく理解する。
カレハ
「これはっ!」
風呂敷一面に並べられた金や銀。
これこそ私がシスターにプレゼントしたかった物。
カレハ
「おっちゃん!ロケット!ロケットはある!?」
香具屋
「いいのがあるぜ。」
香具屋が手にとってのは金のロケット型のペンダント。
カレハ
「これ!これにする!」
私は香具屋に勧められた物をそのまま購入する。
香具屋
「嬢ちゃん可愛いからサービスしてやる。中に何か入れるかい?」
カレハ「いいの!?でも写真を入れたいから中は空がいいんだよね…」
香具屋
「なら背面に名前を入れるのはどうだ?それなら中には何も入れなくても特別な一品になるぜ」
カレハ「いいねそれ!入れる!えっとじゃあシスター・ルーシーって入れて!」
香具屋
「ははっ!わかったちょっと!待ってろ!」
香具屋のおっちゃんは陽気に笑うと早速トンテンカンと
心地良いリズムを刻み始め、それに合わせ私が鼻歌を歌っているとあっという間に完成した。
帰路、想像以上の出来栄えに思わず鼻歌を辞められずフンフンいいながら坂道を駆け上がる。
その気持ちのまま教会の扉を勢いよく開ける。
カレハ
「ただいまー!」
シスター
「カレハ!どこに行っていたの?今日は大人しくしてなさいと言ったでしょう!」
【そこには今までに見た事ない程の剣幕でシスターが仁王立ちしていた。】
カレハ
「ごめんシスター…、軽く外を散歩してただけだよ…。」
シスター
「神の使徒を前に嘘を付くのですか!カレハ!正直に答えなさい!その手に小包を持っているわね?市場へ行かないと物は買えないわよ!見せなさい!」
カレハ
「やだよ!シスターにだけは見せない!」
シスター
「良い加減にしなさい!」
カレハ
「なっ!なんだよ!シスター元気が無いと思ったから、プレゼントを買ってただけなのに!嘘つきってなんだよ!シスターの馬鹿!」
あまりにも横暴な怒り方に我慢できずにプレゼントをシスターに投げつけバタン!と
勢いよく扉を閉め入って来るなと扉に鍵をかけた。
二時間。
いや三時間近くふて寝をした私は流石に自然に目が覚めた。
今だに言い表せないモヤモヤに口を尖らせタオルケットに包まっていると
シスター
「カレハ…起きてるかしら?さっきはあんな言い方をしてごめんなさい、少しで良いから私の話を聞いてちょうだい。」
カレハ
「やだ。」
シスター
「後でシェパーズパイ作ってあげるから。」
カレハ
「やだ。」
シスター
「じゃあ、今日は特別に私と一緒にゆっくり話でもしながら寝ましょう?」
カレハ
「ぎゅーして寝ても良いなら。」
シスター
「今日は特別に良いわよ?なんならおやすみのキスもおでこにしてあげる。」
私は音を立てて開くドアの隙間から尖ったままの口をした顔をひょこっと出す。
カレハ
「鼻をほっぺにスリスリしていい?」
シスター
「えぇ」
一緒の布団に入った私は一頻りシスターに甘え終えると、
先ほどまで尖っていた口もいつの間にか猫の口の様になり、
むふふー!と鼻息も鳴らしていた。
シスター
「カレハ、さっきは決めつける様な言い方をしてごめんなさい。」
カレハ
「うん…、私も投げつけてごめんなさい…。」
シスター
「大事な話があるのだけれど、良いかしら」
カレハ
「大事な話?」
シスター
「今朝私が祈祷に行ったのは覚えているわよね?」
カレハ
「覚えてるよ、そんで帰って来た時にやけに疲れた顔をしてた。」
シスター
「そう、でもその話をする前にあなたに私の「祈祷」について詳しく話して置く必要があるの、少し長くなるけれど良いかしら?」
私が真面目な顔つきでうなずくとシスターは話を続けた。
シスター
「私がダーブリンの教会から派遣されたシスターと言うのは以前話したわよね?」
カレハ
「うん。」
シスター
「私は神話の中に存在する女神のうちの一人、「キルデアのヴリギッド」に選ばし者なの、それを教会では「聖女」と呼んでいるわ。」
カレハ
「聖女?じゃあシスターはシスターじゃ無いの?」
シスター
「厳密に言うと、シスターの上位互換に当たる人間、何故シスターで無いのかと言うと命が尽きた時に魂が導かれる場所が違うの。」
カレハ
「魂の導かれる場所…?」
シスター
「本来命が尽きると、魂は天か地のどちらかに導かれるだけれど、「聖女」だけは天か地では無く、「キルデアのヴリギッド」の元へと導かれ天使となり、永遠に女神に仕え続ける。それが女神に選ばれた者の運命であると言われているわ。その代わりに女神は聖女たちに恩恵を与えるの。」
カレハ
「恩恵?」
シスター
「それは一つだけ願いを叶える能力。それが恩恵、その言葉通り聖女が願いを叶える為に必要な能力を一つだけ与えるの。」
カレハ
「それはなんでも良いの?」
シスター
「えぇ、私が女神に願ったのは、【自分の目の前にいる、自分の手の届く人間を助けたい。】そうして私は祈祷による「治癒の奇跡」を手に入れたの。」
カレハ
「うーん…ちょっと難しくてわからないけど、シスターはシスターじゃないなら私はシスターの事をこれからなんて呼べば良いの?」
シスター
「別に今まで通りシスターで構わないわ。」
カレハ
「わかった。でもシスターはなんでこの話を私にしたの?」
シスター
「ここからが本題、私が今朝となり村のお婆さんに「治癒の奇跡」を使用した時、明らかな悪意を感じたの。」
カレハ
「お婆さんは悪い人だったって事?」
シスター
「いえ違うわ、風邪や不意の事故による怪我は、不可抗力でなる物なのだけれど、今回は明らかな悪意を感じたの、これは気のせいじゃ無い。なぜなら人はたとえそれが女神であっても「神」に嘘は付けない。つまりこれは何者かが悪意を持ってお婆さんを疫病にかけたと言う事なの。」
カレハ
「島民の誰かがお婆ちゃんを病気にしたって事?」
シスター
「私も最初そう思ったけれど、そもそもとなり村には人が少ない上に呪いは人に触れなければ発動しない、お婆さんに誰かが触れるか、又はお婆ちゃんが呪われた物に触れてしまったのかのどちらか、けれどお婆さんは今日誰にも会っていないと言っていたし、家に呪われた物の痕跡や形跡も見受けられなかったの。」
カレハ
「犯人が判らないって事?」
シスター
「えぇ、だからあなたが居なくてとても心配だったの。呪いが使用できる人間がこの島にいるとは思えないけど、カレハに何かあったらと思うと気が気じゃなくて。」
カレハ
「そうだったんだ。私も事情も知らずにシスターに怒鳴ってごめんなさい。」
シスター
「もういいのよ、もしかしたら私の考えすぎかもしれないし。今日はゆっくり休みましょう。」
カレハ
「シスター、私怖いよ。」私はそのままシスターに抱かれながら眠りについた。
シスターは一人呟く。
「長い話に付き合わせてごめんなさい。全くあなた「達」は……。私はこんな幸せがずっと続いて欲しいと女神に願ってしまいそうになるわ、カレハあなたがもしもこの能力を手に入れたとしても……ーー…。」
つづく…。