第19章「結婚」は人生の。【済】
「秋」
それは死にゆく「枯葉」の季節
しかしその様は「紅葉」と語り継がれた。
「漆」「丸葉」「楓」「橄欖」「団栗」
それは「針葉樹林」をも焼き尽くし
慈悲もなく「芋の木」を灰色に染める。
刻む「年輪」の数だけ、澄んだ「森林」は「燃え盛り」
世に「み」を墜とせば、「枯れ落ちて」ゆく。
あなたはこの「秋の葉」をなんて言いたい?
カレハ・A・セプテンバー「カレハの日記」より。
第19章「結婚」は人生の。
私は袖に手を通す。
カレハ
「祝いの席に軍服ってどうなんだ?」
クレハ
「確かに少し窮屈だけど私達の正装はこれでしょう?」
カレハ
「アイルランド国防軍は私達の所属部隊では無いぞ…?」
クレハ
「聖女ラーファイアやヴァルトヴァーデン大佐の厚意を無下にするのは悪いじゃない」
カレハ
「それはそうだが…。」
私が記憶を失っている間に世界は大きく変動していた。
まず一つは十二聖女統括会議「コンクラーヴェ」にて十二聖女第一席ラーファイア・ジャーニーが、
先日帝国派の十二聖女第四席ディフォリエイト・アヴリールの戦争条約違反に関する訴えと、
使用されたブリタニアの福音書による被害の賠償に加え、4年前に帝国が配ったとされる
配給による疫病の蔓延について糾弾した。
帝国は今回の一件に関して
・この戦争は十二聖女第4席ディフォリエイト・アヴリールの独断専行によるもの。
・ブリタニアの福音書に関しても右に同じく十二聖女第4席ディフォリエイト・アヴリールが無断で持ち出し使用した物である。
・配給品に関しては、あくまで善意による物で病の元となったのは不可抗力であった。
と訂正するも。ラーファイア・ジャーニーがこれに対し反論
・十二聖女第4席だろうと帝国派についていた者の行為。下の物の責任はその上位国家の監督責任にあると反論した。これにより帝国は以下の条件を提示した。
・十二聖女第4席ディフォリエイトと「 K」ュプロス国家を帝国の同盟から追放。
・今回の戦争における損害の賠償。
・今回の戦争により戦死した兵士の家族への給付金と低下した国力に対し、聖女カレハ・A・セプテンバーとその中隊約60名を非常戦闘員として貸与すると公表した。
ここからはクレハやルーアイス達に聞いた話だが、「G」マニー国家は私達を
【絶対悪である帝国から離反し一泡吹かした英雄が仲間になるぞ!】と発表したらしい。
これで私達は晴れて「G」ルマン国家の傭兵になるのかと中隊員全員が思った矢先、
十二聖女マルバと十二聖女ラーファイアの公式会合が行われた。
先の戦争の事もあり各国家、いや世界に注目されていたこの会合で聖女ラーファイアは
今回の戦争に関係するここ数年の重要書類や機密情報などを一般公開した。
そこには聖女マルバが姿を晦ましていた数年間の記録や今回の計画の経緯と内容などが
記載されていた為、長年席を外し「 I 」ルランド国民から裏切り者とまで言われていた
聖女マルバの株は急上昇した。
私もその書類をヴァルトヴァーデンに戴いて軽く読ませて貰ったが…。
【愛する家族と国民を守る為ならば裏切り者の烙印を押されても構わない】
みたいな事が書かれた議事録ばかりだった。会合は最終的に聖女マルバと聖女ラーファイアの
反帝国派十二聖女の宣言と「G」ルマン国家と「 I 」ルランド国家の和平同盟と連合軍の結成表明にて
幕を閉じる事となったのだが…。
更に後日和親の為に行われた食事の場で聖女ラーファイアは「 I 」ルランド国家出身の英雄が
今だにふるさとの土を踏めていないのは納得できないと言いだし、
付け加えてこれから苦楽を共にする友である聖女マルバが家族と暮らせないのは忍びないと、
私達を「 I 」ルランド国家と「G」ルマン国家の親善大使にする事を条件に私達をカエデさんが
運営しているこの「 I 」ルランド国防軍直下オグリーナヘレン連合軍病院に運び込まれたらしい。
なんというかこれだけを見ると私達「 I 」ルランド国家側しか得をしていないんじゃないか?
と見舞いに来てくれたヴァルトヴァーデンに私が訪ねると。
「反帝国十二聖女」の「連合軍」の結成こそが聖女ラーファイアのメリットだと
ヴァルトヴァーデンは言った。元々反帝国派のラーファイアは圧倒的戦力を持つ帝国に対し
防衛する事しか出来ず歯痒い思いをしていたという。そんな所に帝国最強の聖女「皇帝」と同格の
聖女マルバが助けを求めに来たので、終わったら同胞を誓わせる事を条件に
聖女マルバの事を陰ながら支えたのだと言う。
以上を話し終えたヴァルトヴァーデンは私に一通の手紙を渡した。
【「G」ルマン親善大使聖女カレハ・A・セプテンバーへ】
それは十二聖女第一席ラーファイア・ジャーニーからのものだった。
「すまない事をした…」と謝罪の一文から始まるその手紙にはラーファイア・ジャーニーが最後の聖戦に加わらなかった理由が書いてあった。端的に言うと聖女マルバが立てた作戦の都合上、「G」ルマン国家は防衛する以外は戦争に関与してはならず、その関係で国家の代表である十二聖女の自分が直接君を助けに行くことが出来なかったので、代わりに頭の切れるカエデさんを送ったのだと書いてあった。
カレハ
「カエデさんってそんなに頭がいいんですか?」
という質問にヴァルトヴァーデンが口を開くその瞬間。
カエデさん
「カレハちゃーん、調子はどうですかー?」
ヴァルトヴァーデン将軍
「っ、このねこっかぶり」
カエデさん
「なんですかー?最近昇格して調子に乗っていると噂の将軍様?」
ヴァルトヴァーデンは舌打ちをする。
なんか妙にこの二人の雰囲気が悪いような気がするけど、気のせいかな?
私が黙り込んでいるとヴァルトヴァーデンが話し始める。
ヴァルトヴァーデン将軍
「聖女オータムよ、君は我が軍に手を下した事をまだ気に病んでいると見受ける。」
カレハ
「あぁ、少なくても「G」ルマンの兵士は数えきれないほど殺した。」
正直この手紙をもらった私の方が聖女ラーファイアに謝ることが有ると感じている。
幸い作戦が上手く言ったとはいえど彼女は辛い決断の罪を一人で背負っている。
「そう言うだろうとラーファイアは言っていたよ。
そしてその言葉に対してこう述べるようにラーファイアから伝言を預かっている。
ヴァルトヴァーデン将軍
「君の境遇を知っている上で君を利用したのはこちら側だ。それに私達も君の隊員を死を与えている」ってね。」
カレハ
「私はその詭弁を口にする度にあなた達が傷ついているのだと自覚しよう。」
ヴァルトヴァーデンは私のその言葉に眉毛をハの字にしてため息をつく。
ヴァルトヴァーデン将軍
「君は妹に似ている…。」
カレハ
「私が聖女ラーファイアに?」
ヴァルトヴァーデン将軍
「今度君に合わせたい奴がいるんだ」
ヴァルトヴァーデンは一枚の写真を私に渡す。
そこには墓の前に大佐と並んで一人の少女が写っていた。
カレハ
「この子は…ルーアイスの…。」
それはあの時ルーアイスにいびられていた少女だった。
ヴァルトヴァーデン将軍
「この子の名は、バウム・クーヘン。君にあの時救われた事を感謝していてね、とても会いたがっているんだ。それに今はルーアイス少尉に懐いているよ。亡き姉バックアイバールと重ねている部分があるんだろう。」
カレハ
「私は救ったのでは無く。事実を述べたんです。」
ヴァルトヴァーデン将軍
「事実…か、では君は嘘つきだな。」
カレハ
「なんでっそれをっ!」
ヴァルトヴァーデン将軍
「あの子が撃った流れ弾がマニーホット・ノーヴェンヴァー特装兵に当たってしまった事を、あの子が君たちの中隊員達に一人ずつ懺悔して。頭を下げたんだ。」
カレハ
「そうだったんですか。」
ヴァルトヴァーデン将軍
「やはり君は妹に似ている…。この作戦が成功し祝賀会が開催されてね出席していた私は熱気に当てられて外の風に当たりに行ったんだ。そしたらラーファイアが花束を持ってどこかに行くのが見えてねこっそり後を付けたんだが。妹は今回の作戦で亡くなった兵士達の墓、一人一人に花を添えて、蹲って泣いていたんだ。」
カレハ
「それは…。」
ヴァルトヴァーデン将軍
「いや君を責めたくて言っているんじゃなくてね、祝賀会で騒がしかったからあの子の泣き声は聞こえなかったけど、きっとラーファイアは大声で泣いていたんだろうなと。いや違うな泣きたかったんだろうと思ってね。そんな優しくて弱いくせに強がりなところが君に似ていると思ったんだ。」
カレハ
「………。」
ヴァルトヴァーデン将軍
「君も大声で泣いていいさ、その時は私の肩くらいは仮そう。」
「くっさ」とカエデさんが茶々を入れ二人が言い争っている間に私は筆をとる。
ヴァルトヴァーデン将軍
「この!性悪女!全部バラすぞ!」
カエデさん
「あっそう。あなたそんな事言っちゃうの?じゃあ今度ラーファイアちゃん主催の親睦を兼ねた懇談会に貴方は呼ばないけどいいのね?」
ヴァルトヴァーデン将軍
「なに?なんだそれ!聞いてないぞ!」
カエデさん
「だってあなたお馬鹿さんじゃない。」
「なーにー?」おでこに擦り付ける勢いでヴァルトヴァーデン大佐はメンチを切る。
カエデさん
「ほらカレハちゃんが書けたみたいよ?」
カレハ
「これを聖女ラーファイアにお願いします」
ヴァルトヴァーデン将軍
「おぉ!任せてくれ!おっともうこんな時間か!あまり病室に長居するのも悪いので、おいとまさせて貰おう。」とヴァルトヴァーデンは帰り支度をする。
ヴァルトヴァーデン将軍
「そこの性悪異端者ではないが、君はもう少し我儘になっていいと思うぞ」
カレハ
「そうですかね?」
ヴァルトヴァーデン将軍
「そうだとも!家族には我儘を言うものさ」と彼女は部屋を後にする。
???
「…レハ!カレハ!」
記憶にトリップしていた私の肩をクレハが揺らす。
カレハ
「あぁ」
クレハ
「どうしたのぼーっとして」
カレハ
「すまん。ここ最近いろんな事があって頭の中を整理してた。」
クレハ
「もうしっかりしてよ、今日は二人にとって大事な日なんだから」
カレハ
「そうだな。」
クレハ
「もぅネクタイ曲がってる。」
カレハ
「…すまん。」
クレハは私のネクタイを直すとついでに軍服についた私の勲章を綺麗に重ねる。
クレハ
「じゃあ行きましょうか!」
私達は迎えの車へと向かう。
カレハ
「あいつらも来るのか?」
クレハ
「えぇ、ルーアイスも先日リハビリが終わって退院したからね、あの子の悲鳴が聞けないと思うと少し寂しいわ」とクレハは落胆する。
カレハ
「鬼だな、でも病み上がりに申し訳ないな」
クレハ
「オリヴィアがついてるし大丈夫でしょ」
雑談をしながら病院の階段を降りていると手を降っているルーアイスが目に入る。
ルーシアイス
「おーい隊長方ー!おせーよ!」
オリヴィア
「ルーアイス!クレハさんは陸軍中将。カレハさんは陸軍大将よ?」
オリヴィアが私達に見本の様な敬礼をしながらルーアイスを叱る。
ルーアイス
「えぇー、なんだよオリヴィア。今日ぐらいはいいだろー?ねぇ隊長?」
カレハ
「あぁ、今日くらいはあいつらも喜ぶだろう」
私達は車に乗ると、目的地まで揺られながら談笑する。
ルーアイス
「聞いてくださいよ隊長!最近オリヴィアが私に厳しいんだ!」
オリヴィア
「それはルーがあのバウムとか言う子に鼻の下を伸ばしてるのが悪い。」
クレハ
「最近ルーアイスの世話係に志願したあの子か!名前えーっと」
オリヴィア
「バウム・クーヘンですよ。」
オリヴィアは罰の悪い顔で答える。
ルーアイス
「いやぁ、最初はなよなよしてて好きじゃなかったんですけどねー、意外と根性があって熱い奴なんですよ!」
この様子だとヴァルトヴァーデンの言っていた事はどうやら本当みたいだ。
ルーアイス
「どうしたんすか?隊長?」
カレハ
「いや、今日はいい天気だと思ってな。」
クレハ
「確かにそうね、今日がいい天気でよかった」
オリヴィア
「私もです。」
「着きましたよ」と言う合図で降りた私達は目的の場所まで少し歩いて行く、
そしてある場所に足を踏み入れると私達は一斉に黙り始める。その場所の名前は。
【フォール・オブ・リーヴス】数分歩き目的地に辿り付くと早速。
「ぐっ…っ…うぅ…っ…」
ルーアイスが溢れんばかりの涙を流す。
「…っ…」
オリヴィアは鼻を鳴らし。
「…」
クレハは一筋の涙を顎先に垂らす。
カレハ
「オータム傭兵中隊!敬礼!」
【エイコーン・F・ノーヴェンヴァー】
【マニーホット・L・ノーヴェンヴァー】
「二人とも…。結婚おめでとう。」
つづく…。