第15章「D r 」カエデ ・M・オクトーヴァー【済】
「秋」
それは死にゆく「枯葉」の季節
しかしその様は「紅葉」と語り継がれた。
「漆」「丸葉」「楓」「橄欖」「団栗」
それは「針葉樹林」をも焼き尽くし
慈悲もなく「芋の木」を灰色に染める。
刻む「年輪」の数だけ、澄んだ「森林」は「燃え盛り」
世に「み」を墜とせば、「枯れ落ちて」ゆく。
あなたはこの「秋の葉」をなんて言いたい?
カレハ・A・セプテンバー「カレハの日記」より。
第15章「D r 」カエデ ・M・オクトーヴァー
ガタガタと揺れる寝心地の悪い地面に私は直ぐに意識を覚醒させる。
メープル
「はっ!オータム!」
ヴァルトヴァーデン大佐
「気がついたか」
目を開けた先には腹部に包帯を巻いたヴァルトヴァーデン大佐がいた。
メープル
「ここは!?」
ヴァルトヴァーデン大佐
「もうすでに護送車の中だ。行き先はこの森を抜けた先にある軍病院だ。」
メープル
「戻して下さい!オータムが」
ヴァルトヴァーデン大佐
「それは出来ない。聖女間それも十二聖女同士の闘いに君が…いや例え私が行ったとしても邪魔になるだけだ!」
(これは私とこの子の問題だ)
義姉さんは確かにそう言った。つまりオータムがマルバさんの本当の。
メープル
「あの闘いはオータムが間違い続けたが末に起こった闘いなんです!止めなければ!」
ヴァルトヴァーデン大佐は私のこの一言に歯軋りをすると。
ヴァルトヴァーデン大佐
「聖女オータムがいない今!この中隊の長は貴様だ!貴様はこの子達をほったらかしてどこかにいくと言うのか!」
オータム傭兵中隊・衛生兵
「オリヴィア伍長!オリヴィア伍長!クソっ!出血が多過ぎる!」
衛生兵がそう叫ぶとオリヴィアがビクンビクンと体を跳ねさせる。
オータム傭兵中隊・衛生兵
「まずいショック症状だ!病院はもう直ぐだ!もう少し耐えろ!オリヴィア伍長!」
ルーアイス
「おい…私なんかに点滴を使わないでオリヴィアに…オリヴィアに…。」
オータム傭兵中隊・衛生兵
「黙っていて下さい!貴方も重傷なんです!」
護送車の中では、負傷したルーアイスやオリヴィアが横たわり衛生兵が必死に応急処置をしている。
オータム傭兵中隊・衛生兵
「クソ!心肺が停止している!お前は人工呼吸をしろ!」
オータム傭兵中隊・衛生兵
「はい!」
衛生兵がオリヴィアに心臓マッサージを始め、もう一人が直ぐに人工呼吸をする。
オータム傭兵中隊・衛生兵
「はっ!はっ!はっ!病院は目の前だ!もう少し踏ん張れよ!オリヴィア伍長!」
無事に生き残った中隊員達は皆、無言で私の顔を見ている。
ヴァルトヴァーデン大佐
「君は君のするべき事をするんだ」
メープル
「わかり…ました。」
衛生兵がオリヴィアに心臓マッサージと人工呼吸をするも蘇生しない。
オータム傭兵中隊・衛生兵
「クソ!クソぉ!」
万策の尽きた衛生兵が項垂れたその時、護送車が急停車しハッチバックが開く。
???・?・???????
「各自バイタルチェック!」
その声は聞き覚えのある声だった。
しかし私よりも先にヴァルトヴァーデン大佐が先に口を開く。
ヴァルトヴァーデン大佐
「貴様は異端者の!それに聖女親衛隊のお前らまで!」
白衣の異端者
「トリアージ開始!脚部損傷の負傷者には輸血液を用意!私はこの子を見るわ!」
オータム傭兵中隊・衛生兵
「はい!」
異端者と言われたその女性は私の真ん中の姉カエデ姉さんだった。
カエデ姉さんはオリヴィアの元に駆け寄ると衛生兵に質問する。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「心肺停止から何分?」
オータム傭兵中隊・衛生兵
「30秒が経過しました。」
落ち込んだ表情で衛生兵が口にする。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「まだ助かるわ!」
カエデ姉さんはオリヴィアの心臓マッサージをすると衛生兵に命令する。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「どいて!気道の確保が先よ!」
カエデお姉さんが息を吹き込むと先ほどよりも大きくオリヴィアの胸が膨らむ。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「心臓マッサージ!」
衛生兵が心臓マッサージをしている間カエデ姉さんはオリヴィアの口元に耳を当てる。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「戻った!トリアージはレッド!この子を最優先に!輸血液を持って来なさい!あんたもぼーっとしてないで手伝いなさい!」
カエデ姉さんは私にオリヴィアの包帯を巻き直す様に命令する。
ヴァルトヴァーデン大佐
「おい!異端者!なぜ貴様が私の親衛隊を率いてここにいるのかと聞いている!」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「ここは命を救う場所よ!何も出来ない聖女とやらは引っ込んでなさい!」
カエデ姉さんはヴァルトヴァーデン大佐を一喝してすぐに治療に戻る。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「この子もベッドに寝かせて」
カエデ姉さんはヴァルトヴァーデンが抱えていたバウムを取り上げると衛生兵に渡す。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「戦場でも救急のA B Cは順番通りに落ち着いて確認しなさい!心臓マッサージや人工呼吸よりも気道の確保が先よ。」
ヴァルトヴァーデン大佐
「だから!ここは聖なる戦ば、うぐっ!」
カエデ姉さんはヴァルトヴァーデンの腹を肘鉄する。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「あんたも治療が必要なら奥にベッドがあるわ。衛生兵さっきの左腕損傷の子は私が執刀するわ。」
カエデ姉さんが正確に指示を出し続け衛生兵や「G」ルマン野戦病院のドクター達が
次々と処置を施すおかげで日が暮れる頃には野戦病院にも静けさが訪れていた。
そして今しがたオリヴィアの治療にあたっていたカエデ姉さんがテントから出てくる。
メープル
「カエデ姉さん!オリヴィアとルーアイスは?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「二人とも一命は取り留めたわ。緑髪の子もさっき意識が覚醒して軽く話した感じだと後遺症の心配も無いでしょう。今は疲労からぐっすり眠っているわ。」
メープル
「そう…、少し様子を見ても?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「寝ているから起こさない様にね」
メープル
「わかった。」
二人のいるテントへと入ると起きていたルーアイスがこちらを見る。
メープル
「ルーアイス…起きていたのか。」
ルーアイス
「メープル小隊長…」
ルーアイスは涙を浮かべていた。
ルーアイス
「オリヴィアは…オリヴィアは助かったんですよね?オリヴィアの顔が見れなくてオリヴィアはそこに、そこにいるんですよね?」
私は虚空に差し出されたルーアイスの手を両手で掴む。
メープル
「お前とオリヴィアが無事で本当によかった…。」
ルーアイスは私に抱きつき滴を私の服に滲ませる。
ルーアイス
「なんで隊長は私達を撃ったんだよ…。なんで私たちを…。」
メープル
「それは…。」
ヴァルトヴァーデン大佐
「その質問には聖女である私が答えよう。」
ルーアイスの話に割って入ったのはヴァルトヴァーデン大佐だ。
ヴァルトヴァーデン大佐
「ここまで巻き込んだんだ、君達には色々と知る権利があるだろう。」
横で寝ていたヴァルトヴァーデン大佐は起き上がると私とルーアイスの横にある椅子に座り語り始める。
ヴァルトヴァーデン大佐
「あれはおそらくディフォリエイトの魅了の能力の所為だろう。」
ルーアイス
「でも魅了の能力は十二聖女には効かないのでは?」
ルーアイスはすかさず質問をする。
ヴァルトヴァーデン大佐
「「魅了」とは例外を除く条件付けた下位者に偶像崇拝させる能力だ、それ故にディフォリエイトはキュプロス国家代表の十二聖女に選ばれたのだ。」
これを聞いただけでルーアイスはすぐに閃く。
ルーアイス
「そうか…ディフォリエイトが十二聖女に選ばれると言うことはそれすなわち自分含め十一人以外の人間全てにこの「下位者」が当てはまると言う事になるのか。まてよ?それだったら十二聖女第9席に座る隊長は対象外なんじゃ?」
ヴァルトヴァーデン大佐
「いや君達は見逃している点がある。故に君の隊長はディフォリエイトに堕ちたのだ」
ルーアイス
「なんだと?」
私はヴァルトヴァーデン大佐の言葉に怒るルーアイスの口を手で塞ぐ。
メープル
「いいから話を続けてくれ」
ヴァルトヴァーデン大佐
「君達の隊長はどういう身分の人物だ?」
この言葉にルーアイスはムキになる。
ルーアイス
「馬鹿にしてんのか?私達の隊長は十二聖女第9席!聖女オータム様だ!」
ヴァルトヴァーデン大佐
「違う正確に答えて見せろ。」
メープル
「十二聖女第9席【代理】」
ルーアイスに代わって私が「正確」に答える。
ヴァルトヴァーデン大佐
「そう彼女はあくまで【代理】なのだ。先ほど君達は本当の第9席を見たのだからそれが真実だと認めるだろう。」
メープル
「それで下位者にあるオータムは魅了されたと言う事なのか…。」
ヴァルトヴァーデン大佐
「その通りだ。」
ルーアイス
「しかしお前の言う事が仮に本当だとしたら何故お前は魅了されないんだ?」
ヴァルトヴァーデン大佐
「それは私が他の十二聖女の直属の下位者に該当しているからだ。ラーファイアの部下である私は魅了の対象にならないが、私の部下は私という【セントセカンド】の下についた下位者の為バックアイ達はディフォリエイトに魅了されてしまったのだ。」
メープル
「それが先ほど言っていた、例外という事ですか。」
私がそういうとルーアイスは黙り出す。
ヴァルトヴァーデン大佐
「長くなったが、君達の隊長はあくまでディフォリエイトに操られてあの行動をとっているんだ。」
ルーアイスがその言葉を聞いて何かに閃き起き上がる。
メープル
「どうしたルーアイス!まだ傷も癒えていないんだ寝ていろ!」
そんな私の言葉も構わずルーアイスは私達に質問する。
ルーアイス
「じゃあ何故ディフォリエイトはこんな回りくどいやり方をする必要性があったんだ?いつでも隊長を魅了出来てなんなら私達だって懐柔出来た筈じゃないか。なのになんでこんな大掛かりな戦争紛いな事をしてまでする必要性があったんだ?」
ヴァルトヴァーデン大佐はルーアイスのこの言葉に対する返答が出来なかった。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「はぁ…全く「G」ルマンの左腕が聞いて呆れる知性ね…。」
カエデ姉さんがそんな事を言いながらテントの中に入ってくる。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「それにルーアイスちゃん?まだ大人しくしないとダメよー?」
カエデさんはお盆に乗っていたコーヒーカップを私達に配る。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「はい、どうぞ。」
ルーアイス
「あ…ありがとうございます。ドクター・カエデ」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「カエデでいいわよ」
ルーアイス
「はい…カエデさん…」
ルーアイスが珍しく他人にたじろいでいる。気のせいか顔も赤くしている気がする。
オリヴィア
「るぅ…るぅー。」
寝ているオリヴィアが急にうめき声を上げる。
ルーアイス
「オリヴィア!気がついたのか!痛っ!」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「はぁ…全くどの子も元気なことで。オリヴィアちゃんはただの寝言だからルーアイスちゃんは大人しく寝てなさい」
カエデ姉さんがルーアイスを寝か背つけるとオリヴィアの様子を見る。
ヴァルトヴァーデン大佐
「異端者…。貴様私のテントであまり大きな顔をするなよ?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「その異端者は一応あなたの妹に許可を得てこの地にいるんですけど?」
カエデ姉さんはヴァルトヴァーデン大佐に一枚の羊皮紙を見せつける。
ヴァルトヴァーデン大佐
「それは!何故貴様がラーファイアの贖宥状を持っているんだ!」
贖宥状…確か他国家の人間がその国家の地で自由に行動する事が許されると言う免状付のことだったか?
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「ほら、あなたの妹のサインと母音と印章もあるわよ?」
ヴァルトヴァーデン大佐
「ラーファイアよ…何故異端者にこんな物を…」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「じん命救助よ。」
ヴァルトヴァーデン大佐
「フィフイットヴァー…。」
カエデ姉さんが「G」ルマンの十二聖女であるラーファイア・ジャーニーの贖宥状を持っている。
と言うのは王族の来賓と同意義。
いくらヴァルトヴァーデンが大佐の階級であろうとカエデさんに対して文句など言えないのだ。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「このアホ聖女は置いといてルーアイスちゃんの質問には私が答えてあげるわ。何故こんな周り口説い方法をディフォリエイトが使ったのかでしたっけ?」
ルーアイス
「はい。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「あくまであなた達の話を聞いた上で消去法を使った仮定になるのだけど。あなた達がディフォリエイトの魅了の【条件指定外】に当てはまったからではないかしら?」
ルーアイス
「条件指定外ですか?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「ディフォリエイトのレギオンに所属するのは生娘に限られているのよ。」
カエデさんの言葉にヴァルトヴァーデン大佐は赤面し私に質問をする。
ヴァルトヴァーデン大佐
「まさかきみ達の中隊員はみんな経験済みなのかい?」
メープル&ルーアイス
「「違います」」
私とルーアイスが顔を真っ赤にして否定しているとカエデさんは話を続ける。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「あなた達がレギオンに所属した時の条件を正確に教えて貰えるかしら?」
ルーアイスは未だ毛布を顔まで被っている為代わりに私が答える。
メープル
「共に孤独と闘い。生き残った先で家族になる事を誓ったわ。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「明らかにそれが原因ね。」
それを聞いてカエデ姉さんは納得した表情をする。
「?」私とヴァルトヴァーデンが首を傾げているとルーアイスが毛布から顔を出す。
ルーアイス
「私達は隊長の家族になる事を誓った。単純に考えれば配偶者だけどディフォリエイトとのこの現状を考えるにすなわち婚約と同意義の状態にあるという事ですか?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「正解!流石ルーアイスちゃん貴方本当に頭がいいわね!うちに来ない?」
カエデ姉さんの言葉にルーアイスがたじろいでいるとオリヴィアが魘される。
オリヴィア
「うーあいす…を…とらないで」
カエデ姉さんの裾をオリヴィアが引っ張る。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「あはは、これは手を出さない方が良さそうね」
ルーアイス
「でも小隊長の姉さんのおかげで謎が解けました!」
カエデ姉さんはヴァルトヴァーデンを睨みつけると大佐は罰が悪そうに顔を逸らす。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「でも、こんな大掛かりな戦争になったのにはもう1つ理由があるの。」
ルーアイス
「まだあるんですか?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「主に二つの勢力の抗争にあなた達が巻き込まれたと言えばいいかしら」
ヴァルトヴァーデン大佐
「おい!異端者!それは国家の重要機密だ!」
カエデ姉さんはヴァルトヴァーデンの目の前に贖宥状を突き出す。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「膿みは早めに出すに限るわよ?」
贖宥状を突きつけられ凄まれたヴァルトヴァーデン大佐は大きくため息をつく。
ヴァルトヴァーデン大佐
「わかったよ…。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「よろしい。福音書どうのこうの言っているけどラーファイアの話を聞いた限りこの戦争は20年前の二人の聖女の争いの延長線上にあると言うのが真実なのよ。」
ルーアイス
「二人の聖女?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「この話をする上でそもそも聖女というものについて話す必要性があるのだけど、そこに関してはここにいる聖女に説明してもらいましょう。」
ヴァルトヴァーデン大佐はカエデ姉さんに話を振られ渋々聖女について話し始める。
ヴァルトヴァーデン大佐
「………要は聖女とは女神に選ばれ、払うべき代償を払ってその恩恵を行使しているという訳だ」
話を聞き終えた私達は言葉を失った。
メープル
「それは、まるで呪いと言った方が良いのでは…?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「確かにそうかもしれないな。」
ヴァルトヴァーデンは私の一言にうつむく。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「なに被害者ぶってるのよ。そもそも聖女はどんな理由であれ女神によって願いを一つ叶えているのだから文句の言える立場ではないのよ」
カエデ姉さんが大佐をからかって場をなごますとルーアイスに質問する。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「ここまで聞いて私は一つの疑問が生まれた。ルーアイスちゃん答えられる?」
ルーアイス
「女神がどういった基準で聖女を選んでいるのか?なぜ女神は死んだ後に小間使いにする筈の聖女にここまで恨まれる様な事をするのかですね?」
「正解!」カエデ姉さんは親指を立てる。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「そもそも聖女とはどうやってなるのかについてはまず分かっているのは強い願いを持ってなければならないという事。そして何故ここまで恨まれる様な事をするのか?これに関して私は女神では無いので正解かどうかはわからないのだけれど…どう考えても女神の行動は聖女から嫌われようと、それこそ殺されようとしていると捉えるのが一般的でしょう」
ルーアイス
「殺されようとしている?ですか?」
ルーアイスはこの答えに納得できない表情をする。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「まぁこれに関してはルーアイスちゃんが知らない事があるから私が分かっている事を補足するわね?この話のきっかけ「二人の聖女による戦争」が私のこの仮定を裏付けているのだけれど、聖女の存在理由とは【女神を殺す】為にあると私は推測しているわ」
全員
「「「女神を殺す?」」」
私達三人はカエデ姉さんのとんでも発言に驚く。
ヴァルトヴァーデン大佐
「貴様その発言!いくら異端とは言え私の妹を愚弄する事は断じて許さんぞ!この作戦にはそんな明記はなかった!デタラメを言うのも大概にしろ異端者!」
ヴァルトヴァーデン大佐が憤慨するもカエデ姉さんは真剣な眼差しで見つめ返す。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「16年前に一度だけ一人の聖女が女神殺しをし。奇跡を残したからよ…正確にいうと命を奪ったが正しいのだけれどね」
ヴァルトヴァーデン大佐
「聖女が女神を殺した…だと?」
私はカエデ姉さんの言葉に嫌な予感がした。
ルーアイス
「その奇跡とは?世界は16年前からあまり変わっているとは思えないんですが…。」
ルーアイスが当然の質問をする。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「それはとても小さな奇跡だったの、これに関しては十二聖女でもたったの三人しか知らない出来事。とある生娘が愛する人の子供が欲しいと女神に願った。何故なら生娘と愛する人との間には子供が出来無い関係だったから。」
そうか…。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「女神は自分を超えたその生娘に小さな奇跡を与えた…。」
やはり…。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「女神はその生娘に半神半人の子供を授けた。」
ルーアイスは口を塞ぎ、ヴァルトヴァーデン大佐は動揺から声を荒げる。
ヴァルトヴァーデン大佐
「女神の子供!?嘘そんなものは存在しない!存在してはならない!だってそれは!」
カエデ姉さんは大佐の言葉にうつむく。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「その子は女神の子で有り。聖女でもある少女。」
私はその人物を誰よりも知っている、世界で最も間違え続ける女の子。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「カレハ・A・セプテンバー。あなた達の中隊長よ。」
ヴァルトヴァーデン大佐は開いた口が塞がらない。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「これにより女神を殺すと願いを一つ叶えられるというのが証明された。」
ヴァルトヴァーデン大佐
「そんな…ばかな…」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「ヴァルトヴァーデン大佐…。あなたに与えられた任務は?」
カエデ姉さんはヴァルトヴァーデン大佐に質問する。
ヴァルトヴァーデン大佐
「先日帝国に派遣していた内通者から、近々帝国軍が戦争条約に違反した行為を行い福音書の起動をする可能性があると報告が入った。福音書の破壊は聖女マルバが試む事とし、聖女ラーファイアは帝国の不正行為をコンクラーヴェにて摘発。そして行く行くは十二聖女連合同盟の解体を目的とした作戦だと聞かされた。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「けれど誤算があった。帝国が使用した福音書が失われた筈の磔の詩が記された12冊目の福音書だった。」
ルーアイス
「しかしここまで聞いていてやはり疑問を抱くのは、そもそも何故帝国は福音書を必要としたのでしょうか?手っ取り早く体調を魅了して仲間にすれば良い話では?」
あっけに取られる私や大佐とは対照的にてルーアイスは冷静に考察する。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「あなたもうその回答にまで頭が回転しているのね。原因としては二つ。一つは福音書を読むのがディフォリエイトだったと言う事。もう一つは先ほども話した20年前の二人の聖女の争い。これは一部人間のエゴによって仕組まれた物で、カレハちゃんは完全に利用されただけ…。」
ルーアイス
「福音書とは人が生み出した聖女が女神へとなれる聖書だとするのなら、すでに半分とは言え女神である隊長に福音書を起動すれば」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「一つしかない肉体に二つの女神が依り代となる事に彼女が耐えきれず暴走を引き起こす。だけどそれさえも帝国にとっては思惑通りだった。ブリタニアの福音書は古代に行われた複数の聖人を供物に48時間かけて一人の神を生み出したとする異端の聖書。それにあたり詩を発動するのには多大な生贄が必要だった為最大のレギオンを持つ聖女ディフォリエイトを口車に乗せて起動させ成功すれば女神であるカレハちゃんを完全に帝国の支配下に置くことが出来る。仮に失敗したとしても、そんな事をすれば姿を晦ましていた第9席は必ず姿を現し止めに入ると分かっていた、なぜなら聖女マルバはこの3年間あの福音書を探していると帝国は分かっていたから。」
メープル
「義姉さんが…そんな事を?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「しかし聖女マルバは帝国がその様に動く事が内通者の報告で事前に分かっていた為、カレハちゃんの身に一度福音書を起動させ、自身の能力で女神になったカレハちゃんを殺し女神を殺した事で与えられる願いの権利にその殺したカレハちゃんそのものを生き返らせる事で福音書のみを破壊するという作戦を考えた。」
ルーアイス
「少々無謀では?聖女マルバが女神に勝てる保証は無いじゃないですか」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「負ける保証も無いの。」
ルーアイスの質問にカエデさんは食い気味で返す。
ルーアイス
「何故ですか?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「カレハちゃんの願いと聖女マルバの能力が完全に矛盾を生んでいるからよ」
そしてヴァルトヴァーデンは口にする。
ヴァルトヴァーデン大佐
「不死の病。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「そう。聖女マルバが世界最強の防御礼装を使うために与えられた能力それは【自身が望むまで一生死ぬことが許されない】と言う不死にして不治の病。そしてカレハちゃんの望みは自身の母親を殺したマルバを殺す事。」
ルーアイスは現状を完全に理解する。
ルーアイス
「そっか!福音書によって隊長が女神になった時点で隊長は望みを一つ叶えられる権利を手にしてる訳だから聖女マルバは既に死んでいる筈。しかし聖女マルバが未だ生きているこの結果からお互いの願いが矛盾を生んでいる事が証明されたんですね!」
この回答を導き出したカエデさんはルーアイスをいい子いい子と頭を撫でる。
メープル
「待ってよカエデ姉さん、それってつまり。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「マルバ義姉さんはあの丘でカレハちゃんに半永久的に殺され続ける事を選んだの」
点と点が繋がり始める。
メープル
「そんなの間違ってるよ…。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「えぇ、私もそう思うわ。」
メープル
「なら私はっ!」
カエデ姉さんはその言葉を待っていたと言わんばかりに私の顔を見つめ問いかける。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「貴方は彼女を救う為であればここにいる仲間を捨ててあの子の元に行くと言うの?」
私はマルバ義姉さんに言われた事を私は思い出す。義理の姉に教わった心理。
(心から愛する人が出来てその人を守りその人と一緒にいたいのなら、その人以外の全てを捨てる覚悟を持て。それがお前の願いと望みを叶えると言う事なんだ。)
メープル
「私は行きます。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「ならばこそあなたに問います。あなたはカレハ・A・セプテンバーに健やかなる時も病める時も喜びの時も悲しみの時も富る時も貧しい時もカレハちゃんを愛し敬い慰め合い共に助け合い命ある限り真心を尽くす事をここで誓えるかしら?」
そんなの決まっている。
メープル
「誓います。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「ならカレハちゃんは、貴方が助けなさい。」
メープル
「私が?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「カレハちゃんを助ける方法は二つあるの。一つはカレハちゃんを一度女神として扱い女神のカレハちゃんを殺す事で聖女マルバが【女神の願い】を手に入れその願いでカレハちゃんを救う方法。もう一つはディフォリエイトの魅了の能力に堕ちてしまった貴方達が共に過ごしてきた人間としてのカレハちゃんを貴方が堕とす方法。それは【福音書】の影響を受けている女神のカレハちゃんを救うのでは無く聖女ディフォリエイトによって【魅了】されてしまった人間のカレハちゃんを救うのよ。」
ヴァルトヴァーデン大佐
「しかし何故メープル副隊長だけが聖女オータムを救えるんだ?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「この子がクレハ・M・オクトーヴァーだからよ。」
ヴァルトヴァーデン大佐
「オクトーヴァーだと?であればその姉である貴様もっ!ぐっは!」
ヴァルトヴァーデン大佐はカエデ姉さんに腹を殴られる。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「余計な詮索はしないのが淑女の嗜みよヴァルトヴァーデン大佐」
ヴァルトヴァーデン大佐
「貴様その立場でありながらその道を選ぶとはまさに異端その者というわけか。」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「口が減らないわね」
ヴァルトヴァーデン大佐
「いだだだだだ」
カエデ姉さんはムッとした顔でヴァルトヴァーデン大佐のほっぺをつねる。
メープル
「それでカエデ姉さん結局その方法はなんなの?」
催促をする私にカエデ姉さんは作戦内容について話始めるのだが、
姉さんが内容を説明すればする程ヴァルトヴァーデン大佐とルーアイスは目を丸くしていた。
そうして草木も眠る頃にやっと話し合いの幕は閉じた。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「というわけでクレハちゃん?貴方はこの天才ドクター・カエデ・M・オクトーヴァーが必ず生きて帰すから安心して死んで来なさい。」
ルーアイスとヴァルトヴァーデンはこの作戦内容を聞いてとうとう言葉を失う。
ヴァルトヴァーデン大佐
「お前は天才や異端などでは無い。ただのキチガイだ」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「聖女だとか女神だとか私はどうでもいいの。私達一家は私達一家が生み出してしまった、あの少女を救う事こそが使命なのよ。」
この作戦に一抹の不安を抱えた私は口にする。
メープル
「オータムは乗り越えられると思う?」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「それはカレハちゃんにしか分からない。まさに神のみぞ知ると言う所ね」
メープル
「相変わらず天才なのにジョークのセンスはからっきしだね。」
カエデ姉さんのドヤ顔に私は皮肉で返すと明日の作戦の為に仮眠取る事にした。
2時間ほどで目は覚め朝方私は自分の装備の点検をする。
グロッグ17もレッグホルスターに装着し借りたバイクに跨がると死地へ向かう私への手向なのか野
戦病院の前に花道が出来ていた。
昨日怪我で熟睡していたオリヴィアは片手を失った状態で参列しており、
片足を失ったルーアイスも松葉杖を付いて並んでいた。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「これより現時刻をもってオータム傭兵中隊副隊長!クレハ・M・オクトーヴァーに「 I 」ルランド国防軍直下オグリーナヘレン連合軍!軍医総監!カエデ・M・オクトーヴァーが作戦名【フォールオブリーヴス】を命じます!」
メープル
「はっ!」
昨日までは白衣姿だったカエデ姉さんも今日は軍帽を被り軍服に身を包んでいた。
そしてルーアイスが吠える。
ルーアイス
「オータム傭兵中隊!副隊長に敬礼!無駄にするな!値する人間となれ!」
オータム傭兵中隊及び野戦病院ドクター
「「「Earn this! Earn it!」」」
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「しっかりカレハちゃんを堕として来なさい。クレハ。」
私はカエデ姉さんに親指を立てバイクのスロットルを思いっ切り捻る。
Dr.カエデ・M・オクトーヴァー
「神命救助作戦!フォールオブリーヴス!状況開始!」
つづく…。