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第10章「バーン」って一発。【済】

「秋」


それは死にゆく「枯葉」の季節


しかしその様は「紅葉」と語り継がれた。


「漆」「丸葉」「楓」「橄欖」「団栗」


それは「針葉樹林」をも焼き尽くし


慈悲もなく「芋の木」を灰色に染める。


刻む「年輪」の数だけ、澄んだ「森林」は「燃え盛り」


世に「み」を墜とせば、「枯れ落ちて」ゆく。


あなたはこの「秋の葉」をなんて言いたい?


カレハ・A・セプテンバー「カレハの日記」より。

第10章「バーン」って一発。


空はとっくに真っ暗になり時計の針が天辺を過ぎる頃だが私のテントにはうっすらと明りが灯っていた。


私はぶら下がったランプの下にテーブルの椅子を持ってくると、片方に座りもう片方の椅子には


今日亡くなった者達の認識表を広げる。


オータム

「ふぅ…。」


一枚一枚丁寧に磨いていく。


オータム

「くそ。取れないな…。」


時間経過で認識表に付着した血が固まってなかなかに拭き取りづらいのだ。


最終手段の爪を使って削ぎ取っていると、誰かが起きたのか足音が近づいてくる。


メープル

「眠れないの?」


オータム

「すまん起こしてしまったか?」


メープルは首を横に振ると飯盒を取り出し火にかけるとテーブルの椅子に腰を下ろす。


オータム

「あいつらはもう寝たか?」


メープル

「上陸作戦で精神だけでなく身体的にも疲れていたみたいね。」


オータム

「エイコーンとマニーホットの事もあったしな。」


メープル

「えぇ。」


椅子に座るメープルの太腿にはレッグホルスターが装着されていた。


オータム

「いくらなんでもテントの中くらい外したらどうだ?」


メープル

「これはお守りみたいなものよ」


メープルはホルスターから銃を取り出す。


メープル

「グロッグ17…9ミリ口径、パラベラム弾、マガジン装填弾数は17+1」


オータム

「よくそんなおもちゃみたいな銃使えるな」


メープル

「あんたこの良さがわからないの?グロッグ社が開発した大ベストセラー!軽量かつ、この綺麗に角ばったさいっこうにイカしたデザイン!ぽりま?とかいう素材が使われたこの銃は最新鋭の金属探知機にも引っかからないとまで噂されているのよ?」


オータム

「はぁ…んなわけないだろ…お前は脳みそまでもそのご自慢のポリマーとやらで出来てるのか?」


メープル

「私は最新式が好みなのよ、あんたの古臭い獲物なんて一発ずつしか撃てないでしょ?前時代ってのにも限度があるでしょう」


オータム

「ローリングブロック式は偉大な発明だ!それに私は聖女だから礼装武器以外は使えないんだ」


メープル

「そんな物を礼装武器に選ばなくても、弾を撃つごとに手動で詰めなきゃいけないなんて、マガジンすらないし、ショットガンですらない、デメリットしかないじゃない」


オータム

「うるさいなー、これは私にとって思い出の銃なんだよ、だいたいマガジンどうのこうの言う割には、お前だってその銃を戦場で使っている所を見た事ないぞ?」


メープルは戦場で「M4A1」しか使ってない、いくらサブウェポンといえど一度くらいは使う物だろう。


メープル

「いいのよ、これはお守りだから。」


メープルは銃を撫でるとホルスターに戻し、話している間に沸騰したお湯に粉を入れると、


たちまちコーヒーの香りがテントの中いっぱいに充満する。


メープル

「あんたも飲む?」


私が頷くとメープルは自分の飯盒に淹れたインスタントコーヒーを半分私の飯盒に移しかえる。


メープル

「ブラックでいいわね?」


オータム

「あぁ、ありがとう」私はメープルから渡された飯盒を受け取りある事を思い出す。


オータム

「そういえば昔少女傭兵だった頃お前とエイコーンとマニーホットの3人で今日みたいに夜更かしをした事があったな。夜に4人でコーヒー飲んで眠れなくなってさ」


メープル

「あったわね、それで夜通し4人で国や戦争の愚痴をぶちまけたわね」


メープルは思い出す様に微笑む。


メープル

「オータム、二人の顔はもう拝んできたの?明日の朝には埋めるわよ?」


オータム

「拝まなくたってあいつらの顔はよく覚えてるよ。そう言えばエイコーンの奴の所為ですっかり口癖になった言葉があったな、今日みたいな日にぴったりな言葉。」


メープル

「フィーヴァーね。」


オータム

「あぁ、それだ。フィーヴァー。」


インスタントに誇張されたコーヒーの匂いを嗅ぎながら私とメープルは今は無き戦友の話に花を咲かせる。


オータム

「なぁ、メープル。私が戦争で失った部下や同胞は何人か知っているか?」


メープル

「95人。そして今日で127人ね。」


オータム

「流石だな。」


メープル

「何年あんたの部下をやっていると思っているのよ。」


メープルはコーヒーの湯気を鼻で笑い飛ばす。


オータム

「そして今日少女傭兵時代の同胞、エイコーンとマニーホットが旅立った。」


メープル

「………そうね。」


オータム「少女傭兵時代から生き残っているのはとうとう私達だけになってしまった。」


私はエイコーンから別れ際に渡された手紙をメープルに渡す。


オータム

「お前は知っていたのか?」


メープル

「……えぇ。」


オータム

「そうか…。」


二人の認識表を手に取り、こびり付いた血を爪で擦る。


メープル

「何度か言おうとおもったのだけれど、あなたは」


オータム

「いいんだよ、別に責めてるんじゃない。」


中隊では皆名前のファースト・ミドル・ラストネームのどれか一つしか名乗らない。


なぜなら私がそう命じたからだ。


それが私のレギオン「オータム傭兵中隊」でのルールだ。


それ故に私が部下の本名を知るのは部下の認識表を回収した時なのだ。


何故こんなルールがあるのか?


これは今は無き少女傭兵部隊の同胞達と契った約束なのだ。


5年前マルバを追って北「 I 」ルランドに訪れていた私は、北「 I 」ルランドの教会に保護された


天涯孤独の少女達と「ある場所」で出会い、あの日から私達は武器を持ち、命を懸けてお互いを守り、


必ず生きて帰った先で本当の家族になろうと約束したのだ。


私は磨き終えて綺麗になった二人の認識表を見て呟く。


オータム

「やはり、そういう事だったのか。」


【エイコーン・F・ノーヴェンヴァー】


【マニーホット・L・ノーヴェンヴァー】


マニーホットの認識表のラストネームはヤスリで削られその上に【ノーヴェンヴァー】と


油性ペンで上書きされていた。


オータム

「私は何度約束を破れば気が済むのだろうな」


メープル

「オータム…」


私はこの約束があるから人を殺せる。


自分は人を殺したい訳では無く大切な人守っているだけなのだと。


オータム

「うぐっ…」


そんな大義名分があるからこそ、私はこの戦場を生きていられる。


オータム

「あたしは…っ…また…ぁっ…また守れながっだんだ…ゔぐ…っ…あだしが」


メープルは私を優しく抱き寄せる。


オータム

「少女傭兵の生き残りはもうお前しかいない!私はお前を!お前まで失ってしまったらもう生きていける気がしないんだ!」


メープルは私の頭をゆっくりと撫でる。


メープル

「オータム?私は生きる。なんならあんたよりも長く生きてやるわ。」


オータム

「でもっ!私はもう何回も約束を…違う!一度だって守れた事が無い!」


メープルは涙でぐしゃぐしゃになった私の顔を両手で掴む。


メープル

「私はまだあなたの名前を知らない!もし仮に私が先に死んであんただけ私の名前を知るなんてのはこの私が許さない!逆にあんたが私より先にくたばったりしたら二階級特進したあんたの墓の前に座ってあんたの名前を酒のつまみしてやるわよ。」


オータム

「傭兵に二階級特進なんて言う贅沢は無いよメープル」と私が言うと


「この減らず口」と言わんばかりに私の頬を掴んでひっぱり変な顔になった私をメープルは笑う。


なんだろう…彼女とのこういうやりとりは昔の記憶を…シスターを思い出す。


メープル

「オータム、今は私以外にも守るべき人間ができたでしょう?」


オータム

「あぁ、そうだったな。」


オリヴィアやルーアイス、この中隊にいる全員が今の私が守るべき対象だ。


メープル

「60人ちょっとなんて軍隊で考えれば吹けば飛んでしまう人数かもしれない、けれど家族だったら?」


オータム

「大家族だな。」


メープル

「上官が部下に泣き言なんて言わないでよね、私があなたに愚痴を零せないじゃ無い」


オータム

「違いない。」


私は涙を吹いてコーヒーを口に含むと吹き終わった認識様を一つずつポーチにしまう。


オータム

「大分夜更かししてしまったな。」


メープル

「そうね…明日もあるし。もう寝ましょうか、……今日くらい一緒に寝る?」


オータム

「馬鹿にするな。私をいくつだと思っている?」


メープル

「泣き虫で、弱虫で、甘えん坊、そして誰よりも兵士を大切にしてるから部下が亡くなる夜は必ず寝ずに泣き続ける優しい心を持った中隊長さんじゃないの?」


オータム

「昼間の件ルーアイスの口よりも、お前の意地の悪さの方が原因だと私は思うぞ」


メープル

「恩を仇で返すあいつが悪いのよ、オリヴィアを見習って欲しい所ね。あの子は良いわ、冷静沈着、気も聞くし、判断も早い!ちょっとタバコ臭いのがアレだけど…それに比べてルーアイスは年下のくせに生意気なのよ!全く誰に似たのかしら!」


メープルが愚痴を零すとテントの奥の方で物音がした。…様な気がする。


確かにオリヴィアは非常に優秀な兵士だ。人が嫌がる様な死体の処理や、


ドッグタグの回収なども率先して行っている事から周りの兵士からも厚く信頼されているし。


伍長という立場で第二小隊の小隊長を任せられるのは彼女の人徳のなせる技だ。


オータム

「ルーアイスはお前が育てたんだから少しは褒めてやったらどうだ?あいつだって口は悪いが存外頭は切れる。分隊長という立場で第3小隊をまとめられるのはあの天性の勘の良さで幾度と小隊の危機を救っているからだ。」


メープル

「確かに実力が無いとは言わないわ。けどあのサングラスが気に食わないのよ!戦場で拾ったサングラスを付ける気概のある女とか言って、だから言ってやったわ!だっさーってね!」


ガタンッ!


またテントの奥の方で物音が…したな確実に。


オータム

「明日は私がいないんだから仲良くしろよ?私はこれ以上ディフォリエイトに借りを作りたく無いぞ?」


メープル

「借り…ね。」


メープルは呟くと私の隣に添い寝する。


オータム

「おい、こっちに来るなよ!」


メープル

「もう!観念しなさいよ!」とメープルは強引かつ問答無用で私を抱き枕にする。


オータム

「ったく、この枕、寝心地が悪いな」


メープル

「あなたのまな板と一緒にしないで欲しいわ?私はこの隊で一番でかいのだからふかふかに決まってるじゃ無い。」とドヤる。


オータム

「枕が変わると眠れないタイプなんだよ」


メープルは私の口を塞ぐ様に抱きしめる。


オータム

「苦しい…。」


メープル

「オータム」


オータム

「なんだ?」


メープル

「あなた、私達に何か隠してる事があるんじゃない?」


オータム

「何の事だ?」


私のその発言にメープルは寂しそうな顔をする。


メープル

「そう…あなたはいつだってそう」


オータム

「……。」


メープルは黙る私に話を続ける。


メープル

「私はあなたに救われたあの日から共に罪を背負う事を選んだ。達の手はもう綺麗じゃ無いけれど心まで汚れず「人でありたい」と思えるのはあなたのおかげよ。私達はただの人間だけれどもしあなたが聖女の力では無く人間が必要な時が来たら迷わず私達を頼って欲しい。」


オータム

「お前は性善説の信者だったのか?」


メープル

「はぁ…。茶化さないでよオータム、今言った事は私よりもあなたの方が知っている事だわ。」


もう一度茶化して誤魔化そうかと思ったが暗闇で映る彼女の瞳を見て私は誤魔化すのを辞めた。


オータム

「わかったよ…。もし私が人の道から外れそうになった時はうんと叱ってくれ。」


メープルは私の答えに満足したのか微笑むとすぐに「すぅすぅ」と寝息を立てる。


オータム

「もう寝てるし…。」


気持ちよさそうに寝てるメープルの胸を枕に目を閉じると自分でも驚くほど直ぐに眠りにつき、


私はこの戦いに参加して以来初めて熟睡する事が出来た。

つづく。

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