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荒鷲、西の空を舞う  作者: ひえん
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第5話 海の狼を退治せよ

 欧州でポーランドが陥落する中、極東の中国戦線では陸に空に激戦が繰り広げられていた。


 日本陸軍航空隊は敵航空戦力の排除を目的とした航空撃滅戦を展開。積極的に敵航空機を叩くべく制空戦闘や飛行場への爆撃を実施。結果として中国空軍の戦力は大幅に減衰していた。しかし、それでもBf109やHe111が次々と補充されており、ある程度の数を維持していた。

 陸上でも、日本軍は中国軍を排除しながら徐々に前進。問題であるドイツ製兵器も中国軍全体に行き渡ってはおらず、兵の質もあってこちら側が有利ではあった。とはいえ、纏まった数の戦車が中国軍におり、新型の戦車(Ⅱ号戦車)も現れた事から前線では対戦車火器の需要が急増していた。よって、九四式37mm速射砲に続き、英国から急遽購入したQF2ポンド砲を前線に送っていた。この輸入した砲は榴弾が無い事以外は評判が上々であることからライセンス生産も検討され始めていた。

 また、英国が仲介役となり、米国から多数の民生品の購入も行われた。これらの民生品は主にトラックやバイクなどの自動車であった。広大な中国戦線を支えるべく、補給任務に多数が投入されていく。結果、補給や兵力の移動がスムーズに行われるようになり、前線の輜重は大喜びであった。


 上海での混乱から立ち直り、前述のような状況であることから戦線は日本側が有利であった。だが、中国軍のドイツ兵器の出所が全く掴めていない事が日本軍最大の悩みの種と化していた。海路は完全に封鎖、陸路でも運べる量は限度がある。それでもかなりのドイツ製重装備が前線に供給されている事が謎であった。


第五話 海の狼を退治せよ


 スカパ・フローでの実験により、空母航空隊での攻撃が可能と証明された。こうして、ドイツ海軍への攻撃プランは実施可能と判断され、攻撃実行への準備が行われた。攻撃は空母のみではなく、更なる打撃を与えてドイツ海軍を年単位で行動不能にすべく、他の方法も重ねて実施する事が決まった。イギリス空軍の爆撃機軍団や沿岸軍団へも共同作戦が提案されて承認された。この作戦に備えて、日本から導入した機体が更に活用される事となるのであった。


 作戦実行は9月30日と決定、開戦から1月あまりの短時間で準備を整えばならなくなり、参加艦艇の準備が急遽進められた。地中海艦隊からも空母を招集。纏まった数の護衛艦艇も用意、艦載する航空隊にも訓練が急ぎ行われた。そして、参加するのは空母のみならず戦艦も含まれる。そして、この戦艦隊には特別な任務が与えられていた。

 しかし、作戦準備中の9月17日、Uボートに対する哨戒任務に借り出された空母カレイジャスが撃沈され、貴重な空母戦力を一部喪失。作戦に急遽見直しが必要となるも作戦自体は実施される事となり、準備が進められた。そして、9月27日に作戦艦隊がスカパ・フローを出港。哨戒任務と誤認させるべく、それぞれ小艦隊に分かれて北海を目指した。そして、各艦隊はノルウェー沖で合流。3つの艦隊に分かれた。

 作戦に参加する主力艦は航空母艦4隻、戦艦2隻。護衛艦艇がその周りを固めていた。第一艦隊は空母ハーミスとグローリアスから編成され、第二艦隊は艦載機を多く搭載可能な空母アークロイヤルとフューリアスを中心とする艦隊である。そして、第三艦隊は戦艦ネルソンとロドニーの二隻が中心となる。各艦隊に与えられた任務はそれぞれ分けられていた。第一艦隊はヴィルヘルムスハーフェンへの航空攻撃と第三艦隊の支援、第二艦隊はキールへの航空攻撃、そして、第三艦隊はヴィルヘルムスハーフェンと周辺港湾への砲撃任務であった。無論、最も危険なのは沿岸まで接近する第三艦隊である。

 そして、それに空軍の爆撃隊も作戦に加わる、彼らの目標はUボートの造船所のあるブレーメン。艦隊による攻撃の3時間前に航空攻撃を行う。早期に攻撃を行う理由は造船所の破壊と周囲の迎撃機の引き付ける目的である。


 そして、攻撃当日。各艦隊が攻撃隊発艦位置に達する頃、ドイツ沿岸部にホイットレイとウェリントンからなる爆撃機が殺到し、目標地点に爆弾をまき散らした。それに対するドイツ空軍の迎撃は凄まじく、爆撃隊は多数の損害を出した。そして、戦果に酔ったドイツ空軍戦闘機隊は弾薬をまき散らし、燃料ギリギリまで飛び回って基地に帰還。パイロット達は「やれやれ、昼飯にしよう」と機体から降り休憩を始めた。だが、彼らが基地に降りる頃、北海とバルト海では大規模な作戦が始まり、多数の艦載機が空へ放たれた。

 各空母から攻撃隊とぢて日本製の九七式二号艦上攻撃機、九六式艦上戦闘機、英国製の艦爆スクア、艦攻ソードフィッシュ、艦戦シー・グラディエーターが次々と発艦。ドイツ海軍を叩く為にドイツ各軍港へと進路を向けた。

 足の速い九六艦戦と九七式二号艦攻が先行、他の機体が後に続いた。この攻撃には先の実験を率いた日本人義勇パイロット達も作戦に参加していた。なお、日本海軍もこの作戦の結果に注視していた為、観戦武官を派遣した。空母運用の方針と国産艦載機の実力が問われる任務だからである。


 そして、事前の爆撃から3時間後、正午過ぎに目標の各軍港へ英軍航空機が押し寄せた。


 義勇パイロット田沼少尉は第一艦隊より発艦、ドイツ海軍水上艦隊の拠点であるヴィルヘルムスハーフェンへ向かった。緊張しながら飛ぶ。護衛戦闘機隊がいても不安なものは不安である。攻撃機は戦闘機に狙われればひとたまりもない。自分たちを守る武器は旋回機銃がたった一つ。生きて帰れるかどうかは戦闘機隊の活躍次第だ。そんな事を考えながら目標を目指す。この機は魚雷を抱えている、低空で敵艦に肉迫する雷撃は極めて危険だ。よって、安全に攻撃するには奇襲するのが一番である。敵に気付かれずに目標へ突入できる事を祈りながら飛び続ける。


「まもなく目標!」


 後ろから伝声管を通じて声が響く。雲の切れ間から軍港が視認できた。各種艦艇がうようよしており目標には事欠かない。


「突撃開始!予定通り雷撃機を先行、戦闘機隊は位置につけ!!」


 指揮官機からの無線が響く。田沼少尉は機体を降下させ海面ギリギリまで降下する。敵はまだ気づいていないらしいらしい、対空砲火は一切上がっていない。絶好のチャンスである。そして、機首を敵大型艦へ向ける。あれは恐らく戦艦…シャルンホルスト級だろう。ぐんぐん目標が近づく。だが、相手も気づいたらしい。一部の艦が撃ち始めた。だがもう遅い…


「目標敵戦艦!よーい、撃てっ!!!」


 魚雷を切り離し、軽くなった機体が浮き上がる。そして、戦艦の主砲塔の上を飛び越えて旋回、どうなるかと後席の搭乗員の報告を待つが、その刹那、轟音が響く。


「命中!!」


 振り返ると、敵艦から大きな水柱が上がっていた。攻撃は成功したのだ。内心喜びながら他の雷撃隊と集合。敵が攻撃を始めた為、長居は無用である。母艦目指して進路を変える。

 爆撃任務に付いた艦攻が、雷撃隊が離脱した直後に突入。港湾施設と艦艇に対して水平爆撃を行った。そして、軍港内が大パニックになっているところにソードフィッシュ率いる攻撃隊が突入、混乱に拍車をかけた。次々と港湾施設が炎上、破壊され、小型艦艇が機銃掃射で損害を受ける。魚雷を受けた艦艇は航行不能に陥り、次々と着底。港内で爆弾が各所で炸裂。そして、港湾内に設置された燃料タンクが大爆発を起こして広範囲に轟音を響かせると、攻撃隊は帰路に付いた。


「第一艦隊攻撃隊、攻撃成功」


 指揮官機から無線が発信された。


 第二艦隊の攻撃隊も同じくキール軍港を攻撃、こちらは小型艦と潜水艦が配備されていると判断された為、艦攻の多くは爆弾を装備していた。

 そして、軍港へ攻撃隊が突入。停泊している潜水艦「Uボート」を最優先目標とし、攻撃を開始した。港湾内に800kgの大型爆弾が次々と着弾。衝撃波と爆発によって発生した強烈な波により、小型艦は直撃弾を浴びずともダメージを受けていく。そして、被害は陸上の港湾施設にも広がっていく。各種施設が被弾し炎上、大火災が発生したのだ。艦爆隊は燃料タンクを集中的に攻撃し、大爆発を引き起こす。更に火災が広がった結果、軍港施設の一角で大爆発が発生。火災によって魚雷庫が吹き飛んだのである。

 攻撃隊は見事に戦果を収めて母艦アークロイヤルとフューリアスへと帰還した。


 大混乱に陥った軍港からの空襲被害に、燃料と弾薬の補給を終えていないドイツ空軍戦闘機隊が急いで飛び上がった。攻撃地点が二か所である為、迎撃機の誘導でも混乱が生じた。やっと軍港へ迎撃機が着いた時には攻撃隊がすでに攻撃を終えており、帰路についていた。慌ててBf110が追いかけるも、頭上から九六艦戦が奇襲を浴びせた。双発で機体の重いBf110はそのまま不利な格闘戦に引き込まれて損害を出してしまった。結局、迎撃は空振りに終わり、炎上する各軍港のみが残された。

 だが、攻撃はこれだけでは終わらない。更に1時間後、炎上するヴィルヘルムスハーフェンはやっと落ち着きを取り戻し、復旧作業に当たっていた。後始末に追われる水兵達が走り回る。だが、彼らは突如大きな風切り音を聞いた。そして、次の瞬間には軍港各所が大爆発を起こして吹き飛んだ。一体何が?軍港内の皆が疑問に思い頭上を見上げるが、上空に爆撃機の姿は無い。何が何だか分からないままに皆が防空壕へと転がり込んだ。

 この攻撃を行ったのは第三艦隊の戦艦ネルソンとロドニーの2隻であった。港から30km程離れた地点から40cmの巨弾を撃ち込む。長距離であり弾着観測も無い為、精密な攻撃は望めない。だが、目的は艦砲射撃により敵にパニックを与える事である。2隻の戦艦は20分間砲撃を行って、そのまま移動。更に前進し、次の目標へ砲撃を始めた。英空軍の事前空襲を受けたブレーメン郊外の港に砲弾が降り注ぐ。目標は港湾と造船所、先ほどと同じく命中は期待していない。敵に混乱を起こすのだ。砲弾によって港に巨大な爆炎と大穴が次々と作られる。港から艦の姿は確認出来ない為、艦艇からの砲撃を空襲と誤認させた。


 再びの空襲の知らせを受けたドイツ空軍はパニックに陥った。二度の時間差攻撃によって迎撃機の準備が全く整っていないのだ。なんとか飛べる機体を準備が出来次第バラバラと飛ばす始末。この状況で組織的な迎撃戦が出来るはずもなく、他所の方面から戦闘機の応援を呼び寄せた。内陸からBf110が長い距離を飛び駆け付けるも、纏まった数の戦闘機が飛んできた時には上空に敵影は無かった。


 その直後、沿岸哨戒中の飛行艇から急報が入った。


「北海上にネルソン級戦艦が二隻を中心とする艦隊、西へ向かって高速航行中」


 この報告で謎の攻撃の正体が判明した。軍港の仇を討つ為、急遽爆撃機と攻撃機が飛び上がった。しかし、位置を報告していた飛行艇からの無線は途絶えた、撃墜されたのかもしれない。よって、正確な位置は掴めなくなっていた。攻撃機が索敵しながら飛行すると、水平線上に艦隊を発見。敵艦隊発見と打電し、爆撃すべく艦隊へと接近した。しかし、その直後。戦闘機が頭上から襲い掛かってきた。攻撃機は慌てて雲の中に逃げ込んで難を逃れたが、敵戦闘機が艦隊上空にぴったり張り付いている為、攻撃は不可能であった。護衛戦闘機を向かわせるにも長距離進出可能な戦闘機は全くなかった。そのまま攻撃機を突入させるのは極めて危険である為、可能な限り接敵して位置を報告させるのみにとどめさせるしかなかった。


 結局、攻撃に参加した各艦隊は損害をほぼ出さずに母港へ帰還した。損害は攻撃隊の艦載機に若干の損害を出したのみであった。英空軍の事前爆撃により、ドイツ空軍を引き付けた点と敵の意表を突いて奇襲となった点が功を奏したのである。一方、ドイツ海軍は大打撃を受けた。水上艦隊は雷撃や爆撃により多くの艦艇が被害を受け、キール港のUボートも多くが水平爆撃による至近弾によって艦体に損傷を負った。更に、2つの軍港の港湾施設が大きな被害を受けた点は海軍の活動全体に大きな影響を与える事となった。


 攻撃の報告を受けた総統は激怒した。そして、海軍に厳命を出したのである。


「今回の攻撃に参加した敵空母と戦艦を片っ端から海に沈めよ!」


 そして、ドイツ海軍の大西洋で活動中だったポケット戦艦隊は沿岸防衛の為に呼び戻された。更に数少なくなった稼働可能なUボートは報復戦力として北海に送られ、英海軍攻撃任務も任される事となって通商破壊戦の大きな足かせとなった。


 そして、このロイヤルネイビーの働きによって英国が力を蓄える為の最大のチャンスが生まれたのである。

第五話です

文章が長々となってしまいました。2話に分けた方がよかったかなあ、と


欧州方面の海軍はあまり詳しくないので突っ込みどころが多くないかちょっと心配だったり

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