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荒鷲、西の空を舞う  作者: ひえん
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第4話 空を舞うのは猛禽だけにあらず

 イタリアは好景気に沸いていた。イギリスから軍需品や貨物船の発注、フランスからも軍需品や爆撃機の発注を受けていた。それだけでなく、ソ連からは艦艇の発注、日本も爆撃機購入…製造する製品は軍事関連中心であるが、そこから各種産業に消費が波及。連鎖的に好景気が広がっていったのである。

 とはいえ、浮かれてはいられない。欧州では大きな戦乱が幕を開けており、そちらへも注視せねばならない。隣国ドイツへ味方するか、それとも経済的に接近してきた英仏の味方に付くか…イタリア首脳陣は大いに悩んでいたが、世界恐慌による傷を癒す最大の機会である今、下手に戦争に介入するのは得策ではないと考えた。


第四話 空を舞うのは猛禽だけにあらず


 フランス国境での睨み合いが続く中、活動しているのは英空軍だけではない。栄光のロイヤルネイビーも動いていた。

 前の大戦で大いに英海軍を悩ませたのはドイツ海軍の潜水艦、かの有名なUボートである。その活躍は世界に名を轟かせ、英国の海運にとてつもない被害を与えたのである。これを繰り返してはならない、その為の会議が連日開かれていた。だが、船団を守り切るには圧倒的に護衛艦艇の数が足りない。こればかりはどうしようも無いのだ。艦艇は一日二日で作れるものでは無い。それに乗組員の訓練も必要だ。そうなると、別の手段でUボートを無力化するしかない。


「敵軍港で沈めればいいのでは?」


 多くの人々が頭を抱える中、こんなアイデアが英海軍内から飛び出した。そして、直ちに検討に移された。確かに、広い大西洋で敵潜を探し回るよりは確実であり効果的だ。だが、果たしてどのように軍港を叩くか、という最大の問題が浮上する。

 ドイツ国内を攻撃するには大型爆撃機という選択肢がまず浮かぶ。だが、護衛戦闘機も無く、命中精度の低い水平爆撃による攻撃は困難を極める。それに爆撃機には他の任務も山積みであり、確実に命中するとは言い切れない軍港内の艦艇攻撃を優先できる状況ではなかった。

 そこにもう一つアイデアが出てきた。だが、それは前代未聞の攻撃方法であった。


「空母を使おう」


 確かに空母なら艦載機を多数飛ばすことができる。それに攻撃機だけでなく戦闘機も飛ばすことが可能だ。爆撃機だけで出撃させるよりは安全だろう。だが、問題がある。空母から航空機を飛ばしてまともに軍港を攻撃することができるのか?それは誰にも分からない。空母の運用自体がほぼ手探りな昨今、かつて経験のない攻撃を行って成功するだろうか、海軍内の人間は皆そう考えたのだ。

 それならば、という事で実機を用いて実験を行う事となった。場所はイギリス北部、スカパ・フロー泊地。機体は日本から入手した九七式二号艦上攻撃機。この機体は三菱製であり、同時に採用された中島製の九七式一号艦攻と甲乙つけがたい性能を持っていた。だが、機体の先進性等の面で中島製が優先的に配備され、この機体は半ば干されていたのである。そこで、中途半端なこの機体がイギリスへ真っ先に売られたという経緯があった。だが、性能的には決して悪いものでは無く、旧式な機体が多くを占めていたイギリス海軍空母航空隊には大きな戦力となっていた。


 そして、実験当日。エンジン音を唸らせて飛行甲板から魚雷を抱えた航空機が飛び上がる。実験内容は練習空母アーガスから飛び上がった九七艦攻により、スカパ・フローに停泊中の艦艇を標的に模擬魚雷を用いて雷撃する。というものである。この攻撃機のパイロットには日本海軍のパイロットも含まれていた。義勇兵という名目で派遣されているのだ。中国での戦闘では大規模な海戦は起こらないため、母艦航空隊はパイロットを持て余していた。その為、友好国の支援と実戦経験を得るためにイギリスへ人員を送り出したのである。無論、ドイツへの報復という面もあったが…

 飛び上がった九七艦攻は上空で編隊を組む。日本海軍義勇兵、田沼少尉が小隊を率いて先導する。英海軍パイロットはまだ日本機に慣れていないことから念のためであった。チャートを見ながら進路を決める。そして、泊地の入り口が見えた。指揮官が無線に力強く叫ぶ。


「タリホー!突撃開始!!」


 各機が一斉に高度を海面ギリギリの超低空まで下げる。そして、速度を上げて突撃を開始。目標は黒々とした大きな戦艦だ。田沼少尉が伝声管で後席に指示を出す。いよいよ雷撃の準備だ。目標の艦はぐんぐん大きくなる。まるで吸い込まれているようだ。


「よーい…撃て!!」


 確実に当たる距離まで近づいたところで魚雷を切り離し、目標を飛び越えて離脱。高度を上げて上空で旋回し、雷撃を終えた各機と編隊を組む。下からの無線が入る、結果が知らされた。


「複数の艦艇に命中弾。おめでとう、実験は成功」


 それを聞いた艦攻隊は翼を振り、歓喜しながら帰途へと着いた。


 こうして、ドイツ海軍無力化作戦の目途は立った。

続きが出来ました

九七戦以外の出番も増やしていきたいなあ、という回でした


次回はドイツへ反撃開始の予定です

ロイヤルネイビーは何を始めるか、ご期待ください



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