第2話 侍の初陣
中国大陸での航空機運用について
・爆撃機は制空権の無い状況下では極めて脆弱である。
・我がBf109は迎撃戦闘機として活躍。しかし、侵攻作戦に使うには航続距離に難がある、対応の検討余地があると考えられる。
・設備が貧弱な航空基地での運用に何らかの対応を早急に要す。
・日本航空戦力の能力は高く、運用戦術も高度であり、極めて脅威。
詳細は報告書の各項を参照する事
-ドイツ空軍 軍事顧問団報告書-
第二話 侍の初陣
1939年9月後半
第700中隊がフランスに渡り、仏独国境を守るマジノ線に近いオート=ソーヌの航空基地へと展開。早速、フランス防衛のための任務に就いた。この中隊は他の中隊を同じく英本土よりフランスへ派遣されたのだ。他の英戦闘機中隊がハリケーンを装備する中、この中隊は異質であった。
機体はTYPE-97…日本の中島飛行機で生産されたばかりの新品の九七式戦闘機である。イギリスが航空戦力増強のために購入した34機の内、12機がこの中隊に配備されている。これらの機体は装備品や表記を改修し、英空軍での運用を容易にしていた。パイロット達は数ヶ月の慣熟訓練を終え、機体を自由自在に操れるようになっており、ドイツ空軍との闘いにいつでも臨める練度となっていた。
基地に降り立った第700中隊のパイロットにフランス空軍のパイロットが訪ねた。
「日本製の戦闘機だって聞いたが、まともに戦えるのか?」
「ああ、いい機体だ。試してみるか?」
「いや、遠慮しておくよ。まあ、メッサーに喰われないように気をつけろよ」
第700中隊のパイロット、アンソニー・スクワイア少尉は朝早くに目が覚めた。今日からいよいよ実戦である。知らず知らずの内に興奮していたのだろうか。と言っても起床時間にはまだ早い。再びうとうとしている内に起床時間となり飛び起きた。朝食を済ませ、パイロット達の待機所に入る。同僚達はポーランドの戦況の話題で盛り上がっているらしい。どうやら、向こうの戦況は芳しく無いそうだ。フランス戦線は今の所、マジノ線という壁の存在があり、ドイツ軍も攻めあぐねている。だが、ポーランドを攻略した兵力がこちら側へやってきたらどうなるか、また先の大戦の様な砲弾降り注ぐ地獄が繰り広げられるのだろうか…。そんな事を考えていると出撃命令が下された。
「敵戦闘機隊が国境を越えて前進中!」
直ちに愛機へと駆け出す。整備員達がすでにエンジンを始動している。後は機体に乗って飛び上がるだけである。ブレーキを離して滑走路へ、そしてスロットルを上げて速度を上げる。離陸速度まで加速したら操縦桿を引いて大地から旅立つ。
上空で中隊各機と編隊を組む。無線機の調子も良好、準備は万全である。中隊は敵戦闘機を求めて進路を変える。眼下はのどかな風景が広がる、とても戦時とは思えない。そう考えつつも敵機を探す。先に発見されて奇襲されては元も子もないのだ。
「敵機発見、2時方向下方!!」
無線が叫ぶ。僚機が発見したようだ。そちらへ目を向けると12機のメッサーシュミットBf109が見える。直ちに攻撃すべくそちらへ機首を向ける。こちらも敵と同じ12機、苦しい戦いになることは容易に想像できた。相手も気づいたらしい、こちらへ機首を向けてきた。敵機のサイズがぐんぐん大きくなり、機体のあちこちが光るのが見えた。撃ってきたのだ。そして互いに撃ち合いながらすれ違う。相手の背後に喰らい付くべく左旋回。相手の姿を見失わないように視線で追う。敵機も旋回を始めた、自信があるのだろうか?ドッグファイトを挑んでくるらしい。
相手はこの機体を知らないのだろう。この機体の運動性能は極めて高い。ドッグファイトはまさに得意中の得意なのだ。数度の旋回で相手の後ろを捉えた。敵パイロットは驚いているだろう、だがもう遅い。機首の7.7mm機関銃が火を噴いた。エンジンを狙って機銃弾を叩き込む、Bf109のエンジン外板がズタズタになるのが見えた。ぐらりと機体が傾き地面へ吸い込まれていくのが見えた。
「やった!一機落とした!」
無線機に戦果を叫ぶ。回りを見渡すと敵味方が入り乱れた混戦となっていた。敵は編隊が崩れてバラバラになっている。狙うなら今だ、次の敵機へ機首を向ける。
戦闘は続く。
という事で2話目になります。やっと戦闘まで書くことが…