第1話 欧州の危機
「前線の地上部隊が敵爆撃機に攻撃されている!緊急発進!!」
「急げ!味方が吹き飛ばされちまうぞ」
天幕の周りにいたパイロット達が前線地上部隊からの急報を聞き、機体へと駆けていく。そこはただの草を刈っただけの平地でとても飛行場と言えたものではない。だが、そこには戦闘機が並ぶ。正規の設備が整った飛行場は真っ先に爆撃され使用不能と化したのだ。焼け出されたも同然なパイロット達は仕方なくその平地を使う。
そして、その急造の飛行場に異様な光景が一つ、英軍戦闘機の中に妙な機体がいることだ。ここはフランスのど真ん中、その機体がいるのは本来ありえない。何故ならその機は日本生まれの戦闘機、九七式戦闘機であるから…
荒鷲、西の空を舞う 第一話
極東での異変、それは欧州各国の軍や政府の耳にも入っていた。上海での衝突直後に日本や中国国内にいる駐在武官や軍事関係者達がすぐさま報告を行ったのだ。中国で多数のドイツ兵器が中国軍の手によって使用されている、と。だが、各国とも大して脅威とは考えていなかった。1936年から始まったスペイン内戦にもドイツはかなりの兵力を送り込んでいた。それに比べれば、極東での衝突なんて対岸の火事も同然である。しかも、大兵力を送り込んだならともかく、軍事顧問と少数の義勇兵、後は兵器を売った程度。中独の良好な関係では大した疑問にもならない。
そんな情勢下であり、この事件に脅威を感じた者はごく僅かであった。世界大戦の悲劇の後、傷跡も未だ癒えぬ中で戦争なんて馬鹿らしい、欧州はそんな雰囲気に包まれていたのだ。こうして、極東の異常事態は平和で穏やかな欧州では忘れ去られていた。
恒久とも思えた平和は長くは続かない。早くも雲行きが怪しくなるのである。翌年、ドイツが拡大の動きを見せたのだ。各地を次々と併合。欧州全土がドイツの脅威を感じ始め、英国が圧力を仕掛けるも最早手遅れであった。そこで、英国軍部は来たるべき戦争に備える覚悟を決めた。
だが、今まで軍縮を続けてきたのだ。すぐに新しい兵器を増やすのは不可能だ。そこで、彼らは妙案を考えたのである。既に戦時中の国から買えばいい、と。
1939年9月1日、ついにドイツが動いた。隣国ポーランドに宣戦布告。異常な事態はここでも起きた。大量の新鋭Ⅲ号戦車を主力とし、車両が中心の機械化された大部隊がポーランド国内へと雪崩れ込んだのだ。その数、質ともにありえない。ドイツにそれらを揃えるような余力があるはずが無いのだ。各国の軍部がポーランドで起こった事態にショックを受け、対応に苦慮する混乱の最中、英仏がドイツへ戦線布告。こうして再び世界大戦が始まった。
戦争が始まっても仏独国境は両軍の地上戦力による対峙が続くのみで全く動きはなかった。双方が分厚い要塞線を構築していて迂闊に手が出せないのである。先の戦争の塹壕戦を連想させるかの様な状況であった。
だが、空の上は違った。ドイツ空軍は積極的に航空機を展開、国境上空の制空権を確保する動きを見せた。フランス空軍だけでは手に負えない。英空軍戦闘機軍団にフランス国内への出撃要請が下った。
数多くの戦闘機中隊と共に、2つの中隊がフランスへと渡った。第700中隊と第701中隊だ。この二つの部隊は英軍の妙案によって生まれた特殊な部隊であった。この部隊が特殊な理由、それは装備している機体だ。エンジンは単発で低翼、固定脚、イギリスで生産された機体ではない。戦争真っ只中の日本からはるばるやってきた戦闘機、日本陸軍の誇る九七式戦闘機である。
英国は兵器を入手するために日本へ取引を持ち掛けた。資源の安定供給、日中停戦交渉の調停、等々…日本で悪化した対独感情も利用し、兵器の輸入に成功したのだ。
イギリス人パイロット達は異国の戦闘機に乗り込み戦地へ向かう…
という事で、1話です。怪しい歴史知識で何とか形になりました。
怪しい所が多々あると思いますが、ご容赦下さい…(汗