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荒鷲、西の空を舞う  作者: ひえん
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第17話 パリの悲報

 フランス侵攻開始の直前、最前線のドイツ軍戦闘機隊には一つの通達が届いていた。


「イギリス軍の単発単座、低翼で固定脚の戦闘機との格闘戦は避けよ」


 そして、問題の機体に遭遇したパイロット達は忠実にそれを守って行動したのである。そして、この通達を作成したのは中国大陸で日本軍機と戦った経験を持つ元義勇パイロット達であった。彼らは日本軍戦闘機が得意な状況に引き込まれる事がいかに危険であるか、身をもって知っていたのである。


第十七話 パリの悲報


 先の欧州大戦において、鉄道はその大きな輸送力とスピードで戦争を支え抜いた。それは物資の輸送だけではない、兵士や兵器の輸送の面でもその活躍は大きかった。損耗した前線へ速やかに補充戦力を送り込むことが出来た。更に、纏まった戦力を移動する事で、陸軍戦力の機動力を大いに高める事が出来たのだ。

 この戦訓によって、今回の侵攻作戦においてドイツ空軍は積極的にフランス国内の鉄道網を狙った。マジノ線付近に集まった連合軍陸上戦力の移動手段を奪う為である。その為、各所で線路や駅、鉄橋が破壊され、ドイツ軍の侵攻を阻止すべく北へと急行する陸軍部隊にとって、鉄道を使う兵力移動は極めて困難となっていた。そして、各部隊は鉄道を諦めて幹線道路で移動を開始する。だが、更なる問題が発生し、移動スピードは大きく低下した。地中海側を目指して移動する大量の避難民が主要な道を埋め尽くしていたのだ。


 一方、パリを防衛すべく構築された各地の防衛線では、必死の防戦によってドイツ軍の侵攻スピードを鈍らせることに成功していたが、連日続く航空攻撃の激しさに損耗が増え続け、防衛線の維持は困難に近づいていた。そして、脆くなった防衛線は次々と破られていく。なんとか敵側面にたどり着いたフランス軍戦車師団が阻止攻撃を行ったものの、突き出された槍の穂先の如き機甲部隊の勢いを止めることは遂にかなわず、先頭の部隊がパリの目と鼻の先にたどり着いた。パリに配置された数少ないフランス軍陸上戦力はバリケードを街の各所に配置して、ドイツ軍に備えた。しかし、ドイツ軍はそこで動きを止めた。パリの市街地に入ろうとする気配は無く、そのまま街の包囲を始めた。パリを無血占領し、フランス国民の戦意を完全に叩き折る狙いであった。


 この事態に焦ったのはイギリス軍である。このままフランスが降伏すると、フランス国内に残された貴重な戦力が孤立してしまう。そして、その最悪の事態を避けるべくフランス政府に可能な限りの時間稼ぎを要請した。それと共にフランス国内に派遣した全部隊に撤退命令を下す。マジノ線方面の部隊は南下を開始、地中海沿岸から英仏の海軍艦艇や商船で中東・アフリカへと脱出を目指す。一方、フランス北部の状況は深刻であった。目と鼻の先にドイツ軍がいるのだ。下手をすると各所で分断、包囲されてしまう可能性が大きい。孤立する前に各地の港へと急ぐ。英仏の戦闘機隊は全て北部の撤退戦の支援に当てられた。これにはフランス国内の部隊だけではなく、温存されていたイギリス本土の部隊も動員される。

 そして、第700中隊も北を目指す。短い間世話になった牧場に別れを告げ、九七戦が飛び上がる。残された整備員等の地上要員は、飛行不能の機体や運ぶことのできない装備品を破壊。そして、トラック等の自動車に乗って他の飛行場を目指した。そこで輸送機に乗り後方を目指すのだ。一方、飛び上がった九七戦は敵機との接敵を避ける為に西へ飛び、内陸奥深くへ飛んだ後、針路を北へと向けた。そして、英本土に近いフランス北部の飛行場で燃料を補給した。だが、彼らはここを拠点とするのではない。この部隊が使う九七戦はイギリス機でもフランス機でも無い日本機だ。つまり、補給と整備の点で難がある。この機体を知っている整備員はここにはいない。よって、設備と人員の整ったイギリス本土まで後退せねばならないのだ。補給と休憩を終え、同じく本土に後退する爆撃機と攻撃機を護衛しながら九七戦の編隊はドーバー海峡を飛ぶ。暫くすると護衛している爆撃機から無線が飛び込んだ。


「おい、白い崖が見えたぞ!」


 ドーバー海峡の向こう側、イギリス本土にそびえる白い崖が見えたのだ。その上空には哨戒中の友軍機が見える。その機体は単発機だが、コクピット後部に丸い銃座が見える。複座の戦闘機のようだ。中隊長が無線で呟く。


「おや、デファイアントだ」


 そのデファイアントが翼を振りながら近づいてくる。こちらも翼を振って挨拶を返す。そして、護衛の爆撃機や攻撃機が本土上空でそれぞれの基地を目指し始めた所で護衛任務は終了。第700中隊はロンドン郊外のホーンチャーチにある飛行場に着陸した。パイロット達はホッとした表情を浮かべながら約半年ぶりの本土の土へと機体から降り立った。


 一方、フランス沿岸各地ではあらゆる艦艇が兵員を収容すべく走り回っていた。

 イギリス海峡上空は常にハリケーン等の戦闘機が上空警戒を続けている。だが、敵は空だけでは無い。恐れていたUボートの活動が遂に活発になってきたのだ。先のドイツ各地への軍港攻撃でドイツ海軍の戦力は大きく削がれ、今まで艦艇の活動は低調であった。北海で哨戒中の主力艦を狙うUボートが若干数出没する程度で、大西洋の輸送船団を狙ってくる事は殆ど起きなかった。だが、稼働可能な艦の数が増えたのか、Uボートがイギリス海峡に出没し始めたのである。だが、対処しようにも敵機の脅威が大きい状況下でイギリス海軍が哨戒機を飛ばすのは非常に危険であり、ほぼ水上艦艇のみで対処せざるを得なかった。しかし、ドイツ軍は各地へ侵攻を続けており、危険な海域であっても艦艇を送って兵力を収容するしかない。危険を承知でイギリス海軍艦艇や商船隊は任務を果たすべく何度も海峡を往復する。


 イギリス軍の苦難は続く。


やっと続きが出来ました。

フランスは追い込まれ、遂にイギリス本土に危機が迫ります。

果たして、取り残された陸軍部隊を無事に救い出すことはできるのか…


次回をご期待ください。


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