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荒鷲、西の空を舞う  作者: ひえん
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第16話 地獄の大空

 英国ではドイツのベルギー侵攻を受けて危機感が更に跳ね上がっていた。このままではドーバー海峡の向こう側にまで敵がやってくるかもしれない。

そして、いざという時の備えを増やすべく、各種兵器の増産を急がせる。しかし、戦力が充実するまでには時間がかかる。このままでは間に合わないかもしれない。こうなってしまっては外国に頼るしかない。

 だが、同盟先のフランスは軍縮の影響によって自軍の兵器が大きく不足、他所に回す余裕はない。同じくほぼ同盟関係の日本も戦争中の為、余裕が乏しくこれ以上の兵器購入は難しい。こうなってしまっては他の手段を使うしかない。


 英国は兵器や物資を手に入れる為に米国との交渉を開始した。


第十六話 地獄の大空


 青空へと飛び上がった九七式戦闘機は味方のフランス軍機と共にマジノ線上空を目指す。現地からの救援要請では、地上部隊と施設に激しい急降下爆撃を受けているというものであった。敵機はおそらくJu87、基地から反復で爆撃を行っているらしい。早く追い散らさねばならない。いくら要塞だからと言っても、外にむき出しになっている建造物や橋、道路等の爆撃で破壊できる物は破壊されてしまう。当然、人的な被害も出てしまう。

 味方は合計で20機前後。相手の数が不明である以上、油断できない。しばらく飛ぶと国境線沿いの要塞線が見えてきた。その上空には高射砲が次々と炸裂した煙がいくつも見える。


「タリホー!敵機だ!」


 中隊長機の無線が飛んできた。中隊の第二小隊二番機として飛ぶアンソニーは目を凝らす。マジノ線の上空に小型機が複数飛んでいるのが小さく見えた。いくつかの敵機が急降下を始め、地上で敵弾が炸裂する。一刻も早く阻止せねばならない。しかし、その刹那。自分の小隊長が叫んだ。


「直上にメッサー!旋回しているぞ!!」


 この場の全員の背に嫌な汗が流れた。数はおおよそこちらと同数、高度は1000m程離れている。敵機はJu87を餌にしているらしい。Ju87に喰いついた所を背後から狙い撃つのだろう。だが、今敵機に向かって突っ込んでも高度差によって状況は不利だ。上昇すると速度を失って狙い撃ちされてしまう。そこにフランス機から無線から無線が飛び込んだ。


「Ju87はこちらで引き受ける。メッサーはそちらに任せた!」

「おとりになるつもりか?」

「相手がこちらに食いつかなくともそのまま爆撃を阻止できるだろう?」

「了解、敵機が突っ込んだらこちらで阻止する」


 こちらの返信と共にフランスのMS406がJu87の編隊目がけて突っ込む。上空のBf109はこちらが二手に分かれたのを見て編隊を二つに分けた。片一方がMS406へ、残りは第700中隊へと降り注いできた。


「散開!来たぞ!!」


 一斉に九七戦が回避運動を行う。そして、機銃弾が雨あられと上から降り注ぐ。Bf109はそのまま下へと降下していく。いつもと違ってドッグファイトを挑んでくる気配がない。相手は急降下の勢いで逃げていく、九七戦では追跡困難なスピードだ。そして、諦めてMS406の援護に向かおうとした瞬間である。無線から悲鳴が飛び込んだ。


「くそ、操縦不能!被弾でやられた!!脱出する!」

「こっちも撃たれたらしい…燃料が漏れている!駄目だ、帰還する!!」


 無線に叫んだ一機は操縦系統であるワイヤーが敵弾で切断されてしまったらしく操縦不能、パイロットは落下傘で飛び降りた。そして、もう一機は燃料タンクを撃ち抜かれて燃料の白い煙を吐き出していた。とても戦闘できる状態ではない為、帰還していく。中隊は早くも二機失ってしまった。しかも、こちらは一機も相手を撃墜できていない…一方的な損失である。しかし、空戦はまだ終わってはいない。Ju87を攻撃すべく先行したMS406を支援しなければならない。無線からはフランス語の怒鳴り声が響き渡っている。そちらの方向を見るとJu87にMS406が喰らい付いて追い回している光景が見える。だが、先のBf109もその空戦に乱入し、MS406を追いかけていた。


「いかん、味方を守れ!」


 中隊長の無線を聞きつつ速度を増して空戦に飛び込む。その瞬間、目の前をMS406の機関砲弾を被弾したJu87が錐揉みになって落ちていく。だが、その後に続いてJu87を撃墜したMS406もエンジンから黒煙を噴いて落ちていく。そして、最後にBf109がロールしながら飛んできた。こいつが先のMS406を落としたのだろう。左旋回してその敵機に喰らい付く。勢いをつけた旋回の為、体にGがのしかかる。体中が座席に押さえつけられるが、歯を食いしばって耐える。そのまま目標を正面に捉えた。機銃弾を撃ち込む。胴体に当たるが、大したダメージを与えた様子は無い。敵機はそのまま急降下を始めて逃げていく。後に続いて急降下を行うが、相手のスピードは速くそのまま引き離されてしまった。また逃げられた。だが、Ju87は爆撃どころでは無くなったようで敵の攻撃を阻止する事にはとりあえず成功した。こうなるとJu87を一機でも多く撃墜するのみだ。手近な敵機を探す。だが、視界の隅に何かが見えた。敵機…Bf109だ。敵の増援か?しかし、それにしては編隊もバラバラで様子がおかしい。


「くそ、さっき急降下で逃げた連中が戻って来やがったか」


 無線からため息交じりの声が流れる。だが、相手はほぼ同高度。Ju87か残りのBf109の無線を聞いて慌てて飛んできたのだろう。味方を餌にした割にはお粗末な対応に見える。同高度ならドッグファイトに引き込めば何とかなるだろう。突っ込んできた敵機を旋回でやり過ごす。そのまま敵機に喰らい付こうとするが、相手はまたもや急降下して逃げていく。降下する敵機に機銃弾を撃つが当たらない。


「この敵さんは九七戦をよく知っているらしい」


 中隊長のぼやきが聞こえてきた。どうやら敵機はこちらの機体の得意不得意を把握しているらしい。いつの間にかJu87も消えている。今のBf109の突入に合わせて離脱したらしい。敵機は消え、空には静寂が戻ってきた。下では砲弾が飛び交っているらしく、国境線の両側で煙がいくつも立ち昇っている。

 被害が出ている現状、このままこの空域に留まるのは危険だ。味方機を集合させて基地である牧場を目指す。


 一方、フランス北東部では必死の遅滞戦が繰り広げられていた。途中まで順調に侵攻していたドイツ軍はここにきて各地の河川を防衛線とした強力な壁に悩まされた。橋は破壊され、橋が無い状態で川を渡るのは容易ではない。だが、先の奇襲的な空挺降下で確保した飛行場から爆撃機が飛び上がり、その防衛線に爆弾を反復で叩きつけて沈黙させていく。更に、輸送機で折り畳み式の小型ボート多数が前線へと運び込まれ、ドイツ軍の攻勢は激しくなった。フランス軍の防御が薄い個所を狙って突破していくのである。


 この航空支援の拠点となった飛行場は既にドイツ軍機甲部隊の一部が到達。強力な装甲車両と空軍戦力に守られて奪還は困難となっていた。現地の部隊がドイツ軍主力目指して南下している隙を突かれたのだ。

 英仏軍の希望はただ一つ、敵の突出している機甲部隊を孤立させる事である。果たして、ドイツ軍の戦車がパリに雪崩れ込むか、味方の陸軍部隊がアルデンヌ付近から伸びる敵の補給線と退路を粉砕するか。どちらが早く目的を達成できるかの時間との戦いだ。


大変遅くなりましたが、最新話投稿しました。

想定外に色々重なって急に忙しく…ホントついてない

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