第13話 激闘続く
大戦の最中、欧州の交易点として好景気に沸くイタリア。連合国は地中海を維持する為に資金を大量投入し、イタリアが敵側に回らないよう押さえつけていた。一方でイタリア国内にはドイツのダミー貿易会社が多数出店していた。米国の禁輸処置で輸入が難しくなった物資を手に入れる為だ。主にドイツ国内で人気の嗜好品であるコーラやコーヒー豆、各種希少資源を入荷する為の貴重な窓口となったのである。ドイツはその見返りとしてイタリアへ現金以外にも航空機用エンジンのライセンス権を与えていた。それらの戦争当事者のみならず、ソ連もイタリアに海軍戦力増強の為に接近していた。その他にも多くの国がイタリアと軍事的な関係を持っており、様々な物資や情報がイタリアに集まり、世界各地へ送られていくのである。
イタリアはそういった事情から各国のスパイが多数入国し、諜報戦の戦場と化していた。
第十三話 激闘続く
英戦闘機の奇襲攻撃から始まった大規模航空戦は、その日のみに留まる事は無く翌日以降も続いていった。生じた損害の多さにより、双方収まりが付かなくなり激化したのである。とはいえ、大型機による白昼の攻撃はあまりにも損害が多く、損害を避ける為に連合軍とドイツ軍は互いに敵機に襲われにくい夜間爆撃を繰り広げた。しかし、夜間爆撃は成功率が極めて悪い。目標から数キロ離れた位置に爆弾が落ちる事も多々あるのだ。よって、互いに安眠妨害を繰り返す程度になっていた。
一方、フランス各地の戦闘機隊は戦力回復が急務となっていた。これまでの戦闘で大量の航空機を失ってきたのだ。フランス空軍の戦闘機補充は国内の生産では間に合わない状況であった。しかし、イギリス空軍上層部はフランスへの戦力補充に対して冷ややかであった。これ以上、フランスに戦力を投入するとイギリス本土の防衛が疎かになってしまう為である。イギリス側も政治的配慮でなけなしの戦力を投入したのだ。これが精一杯なのである。
このような背景から、フランス空軍は戦力の立て直しとして、後方で訓練を重ねてきた輸入機を運用する部隊を最前線に投入する事となった。主な機体はアメリカ製のP-36輸出型、更に急遽パイロット込みで入手したイタリア製の戦闘機CR.42ファルコである。機体はともかく、イタリアからスペイン内戦の実戦経験を持つパイロットを招く事が出来たのは僥倖であった。彼らはドイツ空軍のコンドル軍団と共に戦い、生で彼らの戦い方を見てきたのである。アドバイザー及び教官として極めて有用であった。
フランス各地に配備されたイギリス空軍の各中隊は基地が攻撃された事により、運用上の問題が数多く発生していた。問題の大規模航空戦の際、事前の空襲警報によって空中退避を行い、幸運にも機体や人員の温存に成功したケースが多々あったものの、基地にストックしていた部品や弾薬、更に燃料等が施設ごと破壊され、航空機の稼働率に深刻な影響を与えていた。更に、前線に近い基地は足の速いBf110による散発的な攻撃を受け続けており、施設復旧の目処が立たない基地もあった。その為、運用に手間のかかる一部の攻撃機や爆撃機は後方やイギリス本土に後退し始めていた。しかし、戦闘機隊は損害を受けつつも後方に下がることは許されない。今、彼らが後退するとフランス空軍が瓦解してしまう為である。
第700中隊の九七戦が広大な牧草地でエンジンの轟音を響かせる。数日前まで牧場だったここは今や野戦飛行場として戦闘機の巣と化していた。牧場内のあちこちに大小様々なテントが立てられ、車両と人員が忙しなく動き回る。更に、無線用アンテナや電柱が設置され、フランス陸軍の対空火器が擬装網を被せられて空を睨んでいる。大きな指揮所のテントには地図が広げられ、無線や電話から逐一入ってくる情報が地図や黒板に書き出される。今の所、敵機が飛んできた様子は無い。地図上には味方機が展開している位置が記載されているだけだ。ここ数日、連続でBf110が白昼堂々と低空から侵入を仕掛けて来ている為、対策として英仏の戦闘機が警戒飛行を行っている。地上待機からの緊急発進では間に合わず、攻撃を許してしまうのだ。その為、国境線の地上部隊が敵機を確認次第、上空の機が迎撃に向かう手筈となっている。
上空を飛ぶのは第700中隊のパイロットであるアンソニーと僚機の二機、事前に指定された空域を旋回し、ひたすら待機する。警戒飛行の時間は2時間、それ以降は交代で上がって来た隊に任せて牧場に帰還する。同じ場所を繰り返し飛ぶだけである為、とても退屈なフライトである。このまま退屈なだけで終わればいいのだが…そう思った途端に無線が鳴った。
「敵双発機2機が低空で国境線を突破!警戒中の各隊は至急迎撃に迎え!!」
「お客さんだ」
「やれやれ、面倒事が降って来たか」
針路を北東に向ける。地上からの報告では敵機はそちらの方向から突っ込んでくるらしい。狙いは復旧中の基地を荒らすつもりだろう。高度を少し下げ、下方を見張る。晴空の為、
視界は良好。他の味方戦闘機も集まって来たのが見える。報告が正しければこちらは6機、向こうは2機だ。見えた!見慣れない機体…Bf110ではない。
「タリホー!1時方向下方に2機!」
とりあえず、無線で味方機に敵機発見を知らせる。機種は分からないが、機体を見る限り爆撃機らしい。敵機の斜め上方から覆い被さり一撃を仕掛けようとした瞬間である。
「メッサーだ、上に8機!!突っ込んでくるぞ!!」
無線の叫び声を聞いて、本能的に操縦桿を引き左旋回を始めた途端にBf109が降って来た。恐らく動作が遅れていたら喰われていただろう。落ち着いて見張っていた味方に感謝しつつBf109を追う。だが、相手が優位な位置から襲ってきた事からこちらは完全に主導権を奪われていた。連携が取れずにバラバラに飛び回る状態で、僚機の姿を見失ってしまった。相手はしっかり連携を取っているらしく、2機ペアで攻撃してくる。しかもこちらより数が多い。こうなっては敵の真っ只中から離脱するしか手はない。いくら九七戦の運動性能が良くても数の不利はどうしようもない。しかし、相手に隙は無く、味方機も自機の事で精一杯。とても連携できそうにない。地上待機の機が飛んで来るまで耐えきれるか?そんな考えが頭の中によぎった時である、この乱戦に航空機が突っ込んできた。
上空から殴り込みをかけたその機体のシルエットを見た途端、目を疑った。
なんと複葉機だったのだ。
ということで13話投稿です
参戦してないイタリアが何故かうまくいってます
最後の複葉機の正体は如何に!