表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒鷲、西の空を舞う  作者: ひえん
14/34

第12話 牧場の飛行場

 中国大陸に大規模な兵器工場の存在が疑われ、日本軍は焦りを感じていた。兵の質では日本側が上回っているものの、敵の全てにドイツの兵器が行き渡ったらどれほど損害が増えるか見当がつかない。更に増え続ける戦費が官民問わず負担となっていた。この戦争を終わらせるには敵の虎の子である兵器工場を叩き潰す必要がある。この認識が軍部で広がり始め、工場を探す為の大規模な諜報・偵察活動が各地で実行されていた。

 そして、試作中のある機体に注目が集まった。あの九七式司令部偵察機の後継機であった。


第十二話 牧場の飛行場


 先の空中退避と敵機との空中戦を終え、不時着場に指定された牧場に着陸した第700中隊の主力。牧場には既にフランス陸軍の部隊が展開し、受け入れ準備を整えていた。だが、一つ問題があった。陸軍部隊の持ってきた燃料はあるものの、整備の為の部品や弾薬が無いのである。これは一刻も早くなんとかしなければならない。そこで基地に電話で連絡し、整備員を呼ぶ事にした。だが、電話で基地は徹底的に爆撃され、とても使用できる状態でないことが判明。その為、無事な機材をまとめてこちらに運び込む事となった。よって、暫くはここが基地となる。

 更に時間が経つと、行き場を失った英仏の航空機もちらほら降りてきた。幸い、牧場は広い為にまだ余裕はあった。日が沈み、辺りが暗くなる中、機体から降りたパイロット達が集まって今日の戦いについて語り合っていた。すると、近所の住民たちが夕飯を用意してくれるとの一報が流れ、パイロット達が飛び出していった。皆この一日の戦いで疲れ切っていたのである。食事を食べて少しでも回復したいのだ。


 片田舎の集会所のような建物に腹を空かせたパイロット達が雪崩れ込む、長テーブルには料理とワインが並ぶ。住民たちに感謝し、皆喜んで料理に手を伸ばす。今までにない大規模な戦闘で緊張していた神経がやっと解れたのか、笑い声も飛び交うようになってきた。彼らの人生でかつて無い程の死地を潜り抜けた反動か、普段静かな人間も羽目を外して騒ぐ。堅いパンをちぎり、煮込み料理と共に食べ、ワインを流し込む。すると、空襲警報が表で鳴り響いた。それを聞いたパイロット達は本能的に表へと飛び出した。真っ暗な空を見るが、機体は見えない。遠くでHe111と思しきエンジンの爆音が響くだけである。音のする北の方向を見ると、地上付近に閃光が見えた。爆弾が着弾したのだろう。遅れて炸裂音も聞こえてきた。町の住民達は恐怖に震えていたが、パイロット達はこちらに爆撃が来ないと判断するや「やれやれ、ただの嫌がらせか」と言って、宴会の続きを始めた。なお、この宴会は深夜まで続いた。

 翌朝、牧場近くの空き家や倉庫からパイロットが出てくる。昨晩に羽目を外し過ぎ、酒が残ったのか顔色が悪い者もいる。だが、そんな状態でも機体の点検を始める。いつ飛ぶことになるか分からない。備えておかねばならないのだ。更に第700中隊所属以外で降りた機体の中には基地に戻らねばならない機体もいる。しかし、整備員がいない為、あくまでも簡易的な整備や点検に留まっていた。これで飛ぶには不安であるが、ここには航空機の整備が出来る人間がいない。牧場に展開した陸軍部隊も航空機の燃料を持ってきた程度であり、出来ても車両の整備が関の山、航空機の整備は無理であった。

 不安な状態ながら飛ぶ事を決意したパイロットが出る中、牧場に数台のトラックと乗用車が到着した。昨日の内に呼んだ第700中隊とフランス空軍の整備員達であった。トラックの荷台には整備道具や部品類、弾薬と分解した予備の九七戦やMS406が載せられていた。そして、牧場に降り立った整備員は離陸が必要な機への支援を始めたのであった。


 第700中隊では気がかりな事があった。戦闘前にフランス内陸へと退避した機体の行方である。なかなか連絡が付かず、どこにいるか確認が取れていないのだ。ただ1機のみ電話でパイロットと連絡が付いたが、残り3機の所在が掴めない。彼らはどこに行ったのか。中隊内では不安が広がっていた。捜索機を何機か飛ばそうという案が出始めた頃、頭上を3機の航空機が飛び抜けた。単発低翼、固定脚のシルエット…見間違えようがない、九七戦である。3機は一度上空を旋回してから、牧場に滑り込んだ。降りてきた機からパイロットが降りてきた。ホッとした中隊長と喜ぶ隊員達が出迎える。

 早速、降りてきた彼らから話を聞くと、戦闘前に退避した彼らはそのまま南へと進んだが、1機のみエンジンの状態が悪く途中の飛行場に滑り込んだ為、そこで分かれたのであった。3機は安全な地中海沿岸まで出た後に、最終的にマルセイユ付近の飛行場に降り立った。そして、機体の整備と簡単な補修を行って戻って来たが、基地は甚大な被害を受けており、無線で問い合わせてここに来たのであった。これで全機確認が取れた。中隊長はホッとして力が抜けたのか座り込んでしまった。

 整備員が走り回り、機体の整備と修理が続く。離陸できるようになり、所属する基地へと戻る機が次々と牧場から飛び上がって行く。この牧場に残るのは第700中隊と同じ基地に所属するフランス空軍機のみであった。機体があらかた片付いた頃、陸軍部隊の兵士達が草木を使って擬装の為の網を作っていた。暫くここに展開する機体に被せる為だ。上から見つかって攻撃されてはたまったものではない。そうして、牧場は一日のうちに臨時飛行場となったのである。


 ただ、飛行機の飛ばない暇な時には牛や馬が歩き回っているが。

12話投稿です。


なんだかんだで投稿まで時間がかかってしまいました。

どうにも戦闘が無いと勢いが…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ