第10話 夜明けの襲撃
「くそ、今日は一段と寒いな!」
ドイツ空軍の整備員は夜明け前の寒空の中、兵舎から出てくる。真冬の独仏国境近く。戦時下ではあるが、具体的な命令が来ない為、今日もひたすら緊急発進に備えた待機である。だが、機体はしっかり整備して朝には飛べるようにしなければならない。どうせ、今日も夜に爆撃機がやって来る程度だろう、そんな事を考えながら朝飯を食べるために食堂へ向かう。パイロット達はまだ布団の中で眠りこけているだろう。
整備の朝は早いのだ。
第十話 夜明けの襲撃
まだ暗い飛行場から飛び上がったイギリス空軍の各戦闘機中隊は空中で合流。九七戦とハリケーンが編隊を組んで国境を目指す。一方、地上でも動きがあった。国境線に展開した砲兵隊が動き出したのだ。準備を整えた野砲の砲列が並び、すぐに移動できるように牽引車が準備をしていた。そして、予定時刻になって砲列が一斉に吼えた。この航空作戦の為の陽動である。ドイツ軍陣地へ砲弾が降り注ぐ。着弾した砲弾は炸裂、発煙弾から煙が立ち昇り、上空には照明弾が煌々と輝いた。不意を突かれたドイツ軍は混乱に陥っていた。慌てて各所の陣地から砲が引き出され、準備を整えて砲撃を開始。混乱の中、陣地の頭上を何かが飛びぬけたが、爆発音と喧騒にかき消され気づく者は殆どいなかった。
前線の異変はすぐさま各地へ報じられた。前線の飛行場ではぐっすり眠るパイロット達が叩き起こされた。航空機は出撃準備を整えるべく、格納庫からエプロンへと引き出された。最近まで中国戦線で義勇兵として飛んでいた士官が走って機体に駆け寄る。
「前線で敵の砲撃が起きた!味方は航空支援を要請している!!」
「武器弾薬の搭載急げ!!」
車両と整備員が走り回り、Ju87やBf109の暖気運転が始まる。飛行場に轟音が響き始める。が、突如轟音が響く。皆、驚いて空を見上げた時には遅かった。
「見えた!敵飛行場だ。各機攻撃準備」
「了解、九七戦各機は爆撃と銃撃を行え!航空機を潰すんだ!」
「ハリケーンは上空で警戒、対空火器の牽制も行え!」
「投下!投下!」
イギリス空軍の戦闘機3個中隊が飛行場に殴り込みを仕掛けてきたのである。九七戦から投下された小型爆弾が降り注ぐ。建物や機体の密集している箇所に爆弾が落下、炸裂したのだ。こうなるとドイツ軍は出撃どころではない。地上の人間は皆一斉に駆け出した。飛行機の近くにいると危険なのだ。
「敵が混乱している間に終わらせるぞ、各機撃ちまくれ!」
「了解!」
爆弾の投下を終え、各戦闘機が機銃掃射を始める。各所で火災が起こり、煙が立ち昇る。地上で車両や航空機に火災が燃え広がり、所々で爆発が起こる。
「まるで地獄絵だ」
「集中しろ、低空だから余計なことを考えるな!!」
その刹那、上空に曳光弾が放たれた。体勢を立て直した銃座が撃ち始めたのだ。
「被弾した!くそ、エンジンから火が!!」
悲鳴が無線に響く。そして、他の機が被弾した機を探していると、火を噴いた九七戦が飛行場の真ん中に突っ込んだ。機体が砕け散り、火災が起こる。ついに損害が出た。撃ち始めた敵対空砲はかなりの密度に見える。地上のあちこちから砲火が撃ち出される。見かねたハリケーンが上から降下し、主翼の7.7mm機銃を一斉に降り注がせて対空火器を一つ一つと黙らせていた。そして、敵の反撃が始まった事によって中隊長たちが無線で話し合う。
「これ以上長引くと危ない。そろそろ引くか?」
「ああ、いい加減にしないと他所から敵機が来そうだ」
「では、これで終わりにしよう。各機、攻撃終了。集合しろ」
攻撃終了を決めた。長居は無用、このままここに留まってもろくなことは無い。上空から一斉に離脱、事前に決めた地点で集結して基地へと向かった。各所に穴が開いた機体や煙を噴いている機体もいる。それほどに対空砲火は濃いものだったのだ。損害を受けた機体がいる為、一刻も早く基地に帰る必要がある。背後から送り狼に襲われないように見張りを徹底する無線が飛んだ。
草地の一角に掘られていた退避壕から、空襲前真っ先に飛び出したドイツ軍士官が顔を出す。飛行場は悲惨としか言えぬ光景が広がっていた。燃える残骸が転がり、あちこちで炸裂音が響く。更に被弾した機体からはガソリンが漏れ出ていた。更に延焼してもおかしくない、航空機の列線は危険な状況であった。今すぐに出撃するのは不可能だろう。
先ほどまで上空を我が物顔で飛び交っていた機体に彼は確かに見覚えがあった、つい最近まで極東の空で何度も戦った忌々しいあの機体…日本陸軍の九七式戦闘機だ。彼は悔しさに叫ぶ。
「イギリスめ、日本から戦闘機を買いやがったか!!」
夜明けの光が差し込みだした頃、飛行場に轟音が響く。搭載前に放置された航空爆弾に火が燃え移って爆発したのだ。巻き込まれた航空機がバラバラに吹き飛んで破片をまき散らす。混乱を抑える為にもまずは火災を制圧しなければならない、飛行場の隊員たちが怒号を飛ばしながら消火作業と片づけをすべく駆け出した。その時、上空に機影が現れた。応援として他所から飛んできた味方のBf110の編隊だ。
「今更来やがって…」
そう呟く人々の上を戦闘機が旋回し、飛行場上空の哨戒を始めた。
という事で続きです
飛行場攻撃の話を書いてみました。やられっぱなしの連合軍による反撃みたいな感じです。
製作ペース上げたいなあ、と思ったり…