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荒鷲、西の空を舞う  作者: ひえん
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第9話 奇策

 工作機械が轟音を上げて部品を次々と量産されていく。そして、生産ラインでは量産された部品が組付けられて機体が形作られる。そこで働く工員たちは作業を進めながら今日の昼飯や噂話について話し合って盛り上がっていた。最新の技術がふんだんに使われたこの工場の工員たちの士気は高い。

 生産ラインで組み上がった航空機…Bf109Dは塗装を施される。最後に青天白日のラウンデルを塗りこんで完成。そう、ここは中国大陸奥地の秘密工場。工場内で飛び交う言語は中国語。それはこの工場だけではない、他にもいくつかの工場が建設されて陸空の様々な兵器が量産されているのである。

 この工場の生産ラインは最近になって本格的に稼働を始め、複数の航空機が次々と作られて前線へ供給されるべく送り出されていった。そして、工場の別棟では黒い十字を描き込んだ機体が続々と作られていた。

 分解され、貨物列車に載せられたそれらの機体が向かう先は…


第九話 奇策


 戦線に全く動きの無いフランス国境。イギリス、フランス両国はこの間に戦力を増強すべく各国から兵器の購入を急いでいた。幸いドイツ海軍の動きは未だに鈍く、大西洋航路は安泰であった。

 まず、急遽購入したP-36がアメリカからフランスに到着、その少し後に英連邦各国の空軍パイロットがイギリスに増援として続々と到着する。更にアメリカなどの各国からも義勇兵が集まり始めていた。フランスはそれとは別にイタリアからスペイン内戦従事者を招き、ドイツ軍の研究を始めた。また、イギリスでは新たな機体を日本から入手し、最前線に投入した。

 パリ~東京間の飛行で名声を得た傑作機、九七式司令部偵察機である。


 年が明けて1940年2月になっても睨み合いはひたすら続く。この間、空での戦いも全く起きないほどの静寂ぶりであった。フランス側から夜な夜な爆撃機がドイツ領内に対する攻撃を行った。精密爆撃可能な昼間にドイツ領内へと侵入するのは極めて危険であった為だ。しかし、少数機の散発的攻撃と夜間である事から爆撃精度は極めて悪く、戦果は殆ど出ていなかった。ドイツ側も偵察機をたまに飛ばす程度であり、こちらも迎撃機と追いかけっこをする事が恒例となっていた。

 そんな中、イギリス空軍の新鋭九七司偵は速力と航続距離の長さを生かし、白昼堂々ドイツ各地の情報を得る事に成功していた。撮影された写真はフランス国境方面に次々と戦力が集結している事を証明するものであった。フランス防衛の頼みの綱はマジノ線のみである。だが、陸上戦力を阻止しても航空戦力に上を押さえられては意味がない。なんとか敵航空戦力を減らすことは出来ないか、イギリス空軍内で一つの作戦が考えられた。足が速くて小柄な戦闘機に飛行場を襲撃させればいいのではないか、と…


 第700中隊に一つの命令が下った。それを中隊長が受け取る。


「ドイツ国内の飛行場に集結中の敵航空機に損害を与えよ」


 内容はとてもシンプルであった。だが、我が中隊は戦闘機隊だ。確かに配備されている九七式戦闘機は爆弾を積むことが出来る。しかし、爆撃訓練なんて普段していないのだ。敵機を撃ち落とすこと、それが戦闘機の主任務であり、その訓練を主に行っている。隊員が効果的な攻撃を行えるか…命令を受けた中隊長は頭を抱えた。他の中隊も動員され、3個中隊で攻撃を行う事となったのだが、他の中隊も同様に戦闘機隊である。


「敵が集結し動き出す前である今が絶好の機会」


 と、司令部からの説明もあり、襲撃作戦は既に動き出していた。参加するのは九七戦二個中隊、ハリケーン一個中隊である。他の中隊も準備を進めているだろう。こちらも隊員の人選と出撃準備を急がねば…そう考えて中隊長は準備を始めた。

 中隊のパイロットは急遽集められた。そして、作戦内容が伝えられる。パイロットたちはそれを聞いて動揺した。本当にできるのか、そして効果はあるのか…?そう考えたもののあまり時間は無い。明日の朝5時には飛び上がってドイツの飛行場攻撃に向かわねばならないのだ。そして、説明が終わると準備を始めるべく急いで解散した。

 パイロットたちは侵攻ルートや編成などを決め、更に普段馴染みのない爆撃方法や機銃掃射の方法についての確認と打ち合わせを終えると、皆仮眠をとるべく宿舎へ入っていった。睡眠不足での任務はミスを起こすリスクが跳ね上がるからである。

 星空が広がる静かな真夜中。整備員たちは短い仮眠を終えると、温かい紅茶を流し込んで目を覚まし。日付が変わって少し経った1時頃から機体の準備を始める。


「燃料と弾薬の積み込みは終わりました」

「よし、爆弾の搭載を始めるぞ!慎重に扱え」


 燃料弾薬の補給、更に小型爆弾を機体に積み込むのである。その分、普段よりも手間と時間がかかる。真冬の日が昇る前の出撃とだけあって、エンジンの暖機運転もしなければならない。全ての準備を終えて万全の状態に整えなければ作戦の成否、更にはこれに乗るパイロットの生死にまで関わるのだ。整備員にも油断は許されない。


 夜明け前の飛行場に全部で12発の610馬力空冷レシプロエンジンが轟音をまき散らしてプロペラを回す。そして、簡単な朝食を胃に放り込んだパイロットたちが真冬の寒さに耐えながらそれぞれの機体へと駆け足で向かう。気象条件は良好。だが、向かう先は敵地上空。そして、これからやる任務は不慣れな対地攻撃。中隊関係者全員に何とも言えぬ不安感が渦巻いていた。

 出撃予定時刻となる。中隊長機を先頭に、各機がエンジンを全開にして滑走路から飛び上がって行く。彼らは果たして無事に帰って来るだろうか。整備員たちは飛んでいく愛機たちの無事を祈りながら見送った。


第九話です

はたして奇策はうまくいくのか、ご期待ください


この話作るまでに九七戦の爆装について調べていましたが、出てくるのが特攻機ばかりで通常時の爆弾搭載に関する話がほとんど出てこないで頭を抱える羽目に…

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