4、僅かな時間
キ〜ンコ〜ン…。
遠くから、学校の登校時間の5分前を告げるチャイムが鳴った。
「どうしよう。もう間に合わないよ。」
茜が心配そうに学校の方を見つめながら言う。
「よ、横顔も可愛い〜!」って心の中で言ってたら、茜がこっちを見て言った。
「てる君どうしよう〜。」オレは慌てて視線を反らした。茜の目を直接見ることが出来なくなっている。
「てる君?顔真っ赤だよ!大丈夫!?」
「え!?大丈夫だよ!」
幸い、オレが茜を見て顔を赤らめていることは気付かれなかった。
沈黙の時間が流れる。オレは、この雰囲気を断ち切るべく、茜の手を掴んで走り出した。
「て、てる君!?」
「急ぐんだろ?だったら手、離すなよ!」
何をしているんだろう、オレは…。大胆すぎるだろう…。茜が顔真っ赤にしてるじゃないか!
でも、オレと茜はお互いに目を合わせ、笑顔になった。
「てる君?あの返事…」
茜が言い切る前にオレは答えた。
「あー!その返事はまた今度な!今はとにかく走るぞ!」
茜は、静かにうなづいた。
「キ〜ンコ〜ン!!」
しまった!遅刻だ!オレと茜はお互いに顔を見合って笑った。チャイムが遠い山の方に悲しく消えていくようだった…。
オレ達は、学校の方を見た。吸い込まれるように生徒達が学校に入っていく。
オレ達も急げばギリギリ間に合ったのかもしれないが、オレは止めた。
茜と2人でいる時間がもっと欲しかったからだ。でも、茜に直接そんなことを言ったらバカ!って言われそうだったからやめといた。
「行こうか?」
「うん…。」
オレが茜に聞くと、なんか寂しそうに悲しく答えた。
「どした?」
「だって…てる君あたしの手無理矢理掴むんだもん…。恥ずかしいよ…。」
「なっ!」
茜の言葉にオレが余計に恥ずかしくなった。最初からやることが大胆すぎたか。落ち込んでいるオレに茜が言った。
「でも…嬉しかったよ。男の人にあんなに強く手、握られるの初めてだから…。」
その言葉に余計恥ずかしくなった。自分のした事が大胆だってことが余計分かったからだ。
「そろそろ行こうか!」
「うん!」
オレ達は付き合っているのではないが、その時は恋人みたいな気分がしてたまらなかった。
「オレって罪なヤツだ。美子がいるのに…。」
そういえば、わっちは美子の告白を断ったのかなぁ。不安な気持ちを抱いたまま、校門に着いた…。
「コラ〜!!お前達〜!!仲良く手なんか繋ぎやがって!遅刻だぞ!」
「ひぇ〜!すいません!」生徒指導の森田が校門の前で竹刀を持って立っていた。いつも、遅刻の生徒は竹刀でぶっ叩かれる。だから、必死で謝るしかなかった。
「だから、いつまで手繋いでるんじゃ〜!!」
「あっ!」
オレは慌てて手を離す。いつまで繋いでたんだろう。隣では、茜が顔を真っ赤にして下を向いていた。
「早く教室に行け!恋愛は、先生の目につかないところでやれよ〜!」
「え!?あっ、はい!ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
オレ達はそういうとその場を後にした。後ろには、腕を組んで凛々しく立っている森田がまだいた。
「ビックリした〜!まさか、あの森田があっさり許してくれるなんて!」
「そうだね〜!」
茜は笑いながらオレのいうことに答える。その笑顔もたまらなく可愛い。天使みたいだ。
そう思いながら話していると、すぐに教室に来てしまった。教室では、担任の眞鍋がホームルームをしていた。先生しか話していない、気まずい雰囲気の中ドアを開いた。
「ガラッ!」
その瞬間クラスの視線が一気にオレ達に向いた。
視線が浴びせられたまま、身を縮めて中に入った。
「あれ!なんでてると木下一緒にいるの!?」
鳥谷がそう言った瞬間、クラスは騒がしくなった。
「ヒューヒュー!!お前ら付き合ってんのかよ〜!?いいカップルじゃん!?」そんなような野次が沢山飛んでくる。
「ちょっとみんな!静かにしなさい!」
眞鍋がキレて言うと、オレも続いた。
「そうだよ!たまたま会ったから一緒に来たんだよ!」
なんか…自分でも変な言い分けとわかった。なので、野次がおさまるはずがなかった。
「本当は朝までヤってたんじゃないの〜!?」
誰かが発した言葉でオレはカチンときた。
「んなわけね〜だろ!!中3で早すぎなんだよ!!」 「いい加減にしなさい!!」
かなり先生がキレていたので、騒ぎはそこでおさまった。茜は、泣きそうな顔をしている。慰めると、また何か言われそうなので、諦めた。