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ある日王女に転生しまして  作者: Amaryllis
第一章 出会いの章
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第3話 名前を呼んで

 あれ、おかしいな。すっごく長くなっちゃいました(笑)


 今回、約7000文字以上8000文字以内などという、1話にしては長すぎる投稿になってしまいました。というのも、切りが悪かったからなのですが……それにしてもないだろう、自分。

 あれから、さほどの時間は経っていない。にも関わらず、魔物は次々と湧いて出てきた。


 現在は真夜中。

 月の位置からしてそう判断したが、朝になると急に月が消滅するなんて事も有り得るかもしれないこの世界だから、あまり当てにはしていない。基本、夜の狩りは控えていたから、そのあたりの事はよく分からない。。


 ――有名ハンターでさえ、慢心から命を落としていたのだ。私なんぞ、一瞬で燃え尽きていたことだろう。


 ……まぁ、それすらももはや過去の話だ。正確に自身の能力を把握した上でのチャレンジは問題ない。


 ところで、フェンリルはこの森を魔物たちの巣窟と言っていたが、さほど量が多いようには感じない。モンスターも濁った赤目がほとんどで、フェンリルに勝る目を持っているものはいなかった。故に戦闘はフェンリルに任せて、私は様子見をしている。今の私の強さというものを試してみてもいいのだが、もっと安全な場所でやるほうがいいだろう、という判断だ。

 彼には慣れるためと言い動きを見ていたが、実際は本人の自覚よりはずっと良い戦闘結果を出していた。


 ゴブリンが出てきたならば一瞬でその首をかく。この森には武器を持った亜種のゴブリンが多かったから、賢明な判断だろう。油断は時に、絶対の余裕と戦力差をも崩しかねない、大きな隙を生み出すものだから。

 他に出てきたものもいたが、さほど脅威には感じなかった。残念ながら見たことはなかったので、種族の判別は難しい。ステータスで判断しようにも、モンスターに関しては見えなくなっていた。プレイヤー時代に、夜間限定イベントとしてステータス秘匿モンスターというのがいたから、それ系列のモンスターなのかもしれないが、この1000年の内に出来た新種の可能性も否めない。


 ーー茂みが揺れた。


「よし。気配は?」

「なんとなくなら分かる。ただ、大きさくらいしか……。言われないと気付けないな」


 ふむ。ちゃんと成長できる伸び代は大量にあるようだ。


 さすが知的生命体と言うべきか、何度かの戦闘で、自分の実力と相手の実力それぞれの測り方、他者を頼るという選択肢、そして何より、自分の欠点を瞬時に把握できるという能力を身につけた。これは、逃亡という選択肢を知ることと同じほどに重要である。

 ……尤も、出てくる敵が弱すぎるせいで、私が介入すれば殲滅できるおかげか、彼が逃亡という選択肢を持っているかどうかについては実に怪しいところではあるが。


 まぁ、それは追々でいいだろう。私の言うことは今の所きちんと聞くし。

 どうやら、立場は私の方が強いようである。


「街まで、あとどのくらい?」

「約2・5キロ程だ」


 ちなみに当初は3・5キロだった。約10分で1キロを進んだことになる。まぁ、そんなものだろう。

 ステータスというのは、偉大なのである。


 確かに魔物の出てくる辺境の地ではあるが、相手はそこまで強いわけでもない。フェンリルは外の世界は分からないとの事で、人間の平均的なレベルを知っているなんて事は無かったが、当時のレベルが維持されているのならば、冒険者なら簡単に狩れる程の、いわば初級終盤レベルの魔物である。

 フェンリルが、そして私が苦戦するなど、有り得るはずがない。伝説の天使と神獣がその程度では、いささか威厳にも欠けよう。


「……こんなモンスターいたっけな……?」


 出てきたのは、フェンリルよりも濁った赤い目を持つ、角を生やしたウサギだった。大きさは私の知るウサギより、一回り大きいくらい。細長い角をその額から生やしている。

 やはり見覚えはない。これは新種と見て間違いなさそうだ。


 にしても、なかなか貫通力の高そうな角である。ちょっとした武器程度にはなるかもしれない。


 今の私たち――否、フェンリルの戦闘方法は、主に噛み付き合うという名の殴り合いである。尤も、ステータスの差が天と地ほどもあるせいで、一方的な虐殺になってしまっているが。


 私のアイテムボックスの中身は完全に空だ。いや、正確には、つい先ほどまで、何も残ってはいなかった。


 剣は最後の戦いで折れたし、盾も同じく。回復薬は使い果たして、使える物は……否、使えなさそうなものまで、何でもかんでも使ったから。とにかく、死にたくなかったのである。

 ーーでも、仲間が死ぬのを見るほうが嫌だった。傷つく姿を見るのは、嫌だった。


 ……綺麗事などでは決してない。

 キャンプの中で絆が生まれるのよりももっと強固な、死闘の末に出来た仲間意識が、そこにはあった。ただ、それだけのことである。


 そんな事を考えているうちに角ウサちゃんは倒され、フェンリルがこちらを見ながら、不思議そうに首をかしげていた。


「大丈夫か?」


 心配をさせてしまったようである。何て優しい子なのだろう。

 だがきっと、その理由は、利害関係の一致でしかない。私にとっても、彼にとっても、共にそれが一番いい。


 ……?

 私は一体、何を考えているのだろうか?


「そういえば、名前は?」

「そんな馬鹿な事を考えていたのか?」

「うるさい」


 馬鹿とは何だ、馬鹿とは。


「で、名前は?」

「そんなもの、無いに決まっているだろう」

「え、無いの?」


 思わず聞き返すと、呆れたような視線を向けられたーーような気がする。顔が獣なので、正確には分からないが。


「親は?」

「人間は親が名付けるのか」

「……あ」


 ーーしまった。

 彼は年齢ーーつまり、1000という歳と比べて、精神年齢が異常に低い。フェンリルの中では1000歳など子供同然なのだろうが……それにしても、である。恐らく、これも私のせいだろう。


 人間でも、外界との接触が少なければ、精神年齢は成長しない。精神年齢とは、他者とのコミュニケーションの中で大幅に成長するものなのだ。他者の意見を聞き、他者と激突し、そうする事で成長していく。それは、どの種族であっても、知的生命体である限り変わらないと私は考えている。

 彼は、幼少期の思想のまま、今に至っている。


 そんな彼にとって、きっと、どんな仲間よりも親が大切だっただろう。

 大人でさえ、親が死ねば泣くのだ。幼い子供であれば、精神に異常をきたす事もある。


 そんな彼が今に至るまで平常でいられたのは、復讐という支えがあったから。そして、親がいない事を「普通」に出来たからではなかろうか。


 子供とは残酷なもので、自分とは違う他者を排除しようとする。私が知る中で、親の死を乗り越えた子供は、親がいる子供という壁にぶつかるのだ。

 初めは自分自身で他者と比べて心の闇を大きくしてしまう。これが内面からの精神的負担。そして次に、いじめなどといった、外面からの精神的負担を負い、そのストレスによって心を壊すーー。


 つまり、外界との接触が無かった彼は、親の死を乗り越えるだけでよかった。


 ーーそれを私は、親がいる事を前提とした話をしてしまったのである。耐性がなく、支えがない状態の彼に、外面からの精神的ストレスを与えた事になる。

 この事で彼が私から離れていった場合、どうなるか。


 街に降りれば、嫌でも親子の仲睦まじい様子を見る事になるだろう。それはきっと避けられない。街に行かなければ良いのだろうが、何となくそれは、私の今後に問題をきたすような気がした。

 その時彼は、ほぼ確実に、子供を妬ましく思うだろう。種族が違うとか、そんな事は関係ない。

 それはやがて内面的ストレスへと発展していくかもしれない。もしストッパーがいない時に、もし私が止められないほどに彼が強くなった時に、彼の心の闇が爆発したとしたら。


 罪のない誰かを、殺める可能性だってあるのだ。


 今までの彼の状況、そして精神年齢から考えて、親の話題は極力避けるべだった。そんな事は、少し考えれば分かったはずなのにーー……。


 私のミスで犠牲者が生まれるかもしれない。私は、こうして心を壊した子を、こうして犯罪者へと成り下がった子を、知っている。


 本当はいけない事なのかもしれないけれど、でも。

 私にとっては、見知らぬ子供一人の命が消える事より、彼が少しでも心を痛めてしまったであろう事が悔やまれた。


 謝るべきか? だが、それも逆効果になりはしないだろうか? そもそも、謝罪に一体何の意味がある? この瞬間での謝罪は、私の罪からの逃走であり、彼の心が癒される事はない。癒される可能性があるのは、私の後悔だけである。過去の失言が、そのまま無かった事になるわけではないのだ。


 焦燥の中で名案など浮かぶはずもなく、ただ沈黙が、当然のような顔をしてそこに鎮座した。


「気にしてない。とっとと行くぞ」


 されど、その沈黙を感じていたのは、私だけだったらしい。


 ーーこの子はなんて優しいのだろう。


 そんな感想を抱き、直後、思わず吹き出してしまった。この子、だなんて、まるで親みたいーーそう、親、みたいな。親みたいじゃないか。

 いけない、これではまた彼に変な目で見られてしまう。これ以上呆れられるのは勘弁したいところである。

 が。


「何をしている」


 案の定、呆れられてしまった。けれどそれに、安心してしまう。やせ我慢ではなさそうだ。少なくとも、今は。


 私にも、時々両親が恋しくなる時がある。世間にとっても、私達にとっても、最低な親ではあったけれども、確かに彼らは親だった。親は、彼らだけだった。

 ……私は彼らを愛していたのだ。例え一度も愛してくれなかったとしても。慰めてくれる人がいたから、大切な人がいたから。


 ーーホノカがいてくれたから。


 つい感傷的になってしまったせいか、溢れかけた涙を、月を見て誤魔化した。


「月みたいだよね、君は」

「……はぁ?」


 いきなり何を言い出すんだ、と不審がる声が聞こえる。きっと今も、呆れた視線を絶えず私に送っているのだろう。

 見てくれる人がいなかった私にとって、それはとても嬉しい事なのだけれども、今は少しだけ、目線を外して欲しかった。


 月と書いて、ルナ。そんな名前を、どこかで見た事がある。俗に言う、きらきらネームと言うやつである。多分。

 だがそれは、男につける名前ではないような気がした。


 ようやく視線をフェンリルに戻す。赤い目が、心配そうにこちらを見つめていた。


 ーーもう大丈夫。覚悟は出来た。


 何の、と言われれば、それは、彼の支えとなる覚悟である。私は彼のパートナーとして、彼の心を守ろう。


「シルバー」

「……銀?」

「そう。銀色だから、シルバーが良いかなって」


 白銀の美し毛並みが、風に煽られて、月明かりの下に煌めいた。


 ーー何て、美しいのだろう。


「何がなのか分からないが、安直だという事だけはよく分かった」

「悪かったですね、ネーミングセンスがなくて。さっさと行こ、シルバー」

「………………」


 わざとらしく語尾を強めれば、彼はその場に固まってしまった。驚いたーー訳ではなさそうだ。それにしては険しい顔をしている、と思う。相変わらず断言出来ないせいで説得力に欠けるが。


「………………」


 ……あ、れ?

 そこまで、嫌か? そんなに長い沈黙が必要なほどに、嫌なのか?


 ーーいや、きっと、そうじゃない。


「……ごめん」


 気落ちしたのを悟られないように、ほぼ反射的に笑みを作った。

 やはり私は、浅はかである。安心して気が緩んでいた、という言い訳は、あるにはあるが、そもそも親の話題を持ち出すなどという失態を犯さなければ良かっただけの話。

 言い訳は通用などしないし、するつもりもない。


「どうでもいい奴に名付けてもらうものじゃないよね」


 例えどれだけ美しくとも、名前とはそんな簡単なものじゃない。


「…………、……」


 小さく口を開き、何かを言おうとした彼は、不機嫌そうに口を閉じた。


「馬鹿」


 ……確かに軽率だとは思ったが、それは少し酷いのではなかろうか。一応反省はしているのだ。

 こんなに馬鹿馬鹿言われたのは、人生お初かもしれない。


 そっぽを向いた彼が、小さく何かを呟いた。文句なら大声で言ってもらいたいものである。あ、いや、やっぱりそれはそれで傷付くかも。

 でも、やっぱり聞こえる声で言って欲しい。悪口のように感じてしまう。反論もできないし。


「何か文句でも言った?」

「言ってない」

「嘘つき」

「誰彼構わず嘘つき呼ばわりするのは関心出来ないな」


 ……こいつ、コミュニケーションはできないんじゃ無かったのか? いや、これは私が勝手に決め付けているだけかもしれないが、それにしても、外界との接触が無かったにしては、やけに切り返しが良いように感じる。

 ーーホノカの天然毒舌には程遠いが。


 おかげで耐性がついていたらしい私は、得意げに胸を張って定番とも言える台詞を吐く。


「じゃあ、何て言ったのか、私に向かって言ってみなさい」


 すると、次はこんな切り返しが返ってきた。


「気に入ったと言ったんだ」


 ……え、気に入った?


「嘘でしょ!?」


 まさか天然!? いや、全て計算か? フェンリルなら有り得る。フェンリルは何でも有り得る種族なのである。


「嘘だと自分でも思うような名前を他人につけるな」


 ごもっともだが、それとこれとは話が違う。第一、毛並みの色だけでシルバーと名付けたわけではない。

 私なら、先程出会ったばかりの赤の他人に、名前など決められたくはない。そう考えて、謝罪したというのにーー。


「気に入ったから、この名前で良い」


 だから、そんな事を言われて、今度は私が言葉を詰まらせてしまった。


「さっさと行くんじゃ無かったのか?」


 唖然とする私になど構いもせず、数メートル先で足を止めた彼が言う。

 何だろう、とても感動してしまった。情けない事に、再び涙が出そうになる。


「おい、ミア?」


 ーーだというのに、その感動は何処へやら。

 彼が一言発しただけで、消え失せてしまった。


 何故だろう。彼は私を心配して声をかけてくれたというのに。


 ……まぁ、何はともあれ、落ち着けて良かった。


「ホノカの次のパートナーにしてあげるから、精々追い付きなさい」

「急に上から目線だな」

「私のほうが格上ですから」

「……お前、子供か」


 再び胸を張って言えば、小さくため息をつかれた。まるで子ども扱いである。

 だがしかし、10代は子供で間違ってはいないはずだ。少なくとも1000歳で未成年にカウントされるフェンリルにとっては、私はれっきとした赤子である。


「………………」

「え? 何?」


 何かの文句だろうか。いや、雰囲気からしてそんな感じはしない。願望かもしれないが。


「何でもない。行くぞ、ミア。安心しろ。ちゃんと追い付く」

「……。期待してる」


 当たり前だ、と言いかけて、やめた。

 私から見て、フェンリルの強さは驚異である。だが彼にとっては、私という天使の方が驚異なはずだ。実力も、まだ私が格上である。彼にとって私が格上に感じられたからこそ、今、私と彼がこうしてここにいるのだから。


 彼は遠からず、私を追い抜くだろう。少なくとも、彼が待ち続けた、1000年という静止した時よりは、ずっと早く。

 だから、追い付くなんて、当たり前だ。


 悠然と歩く彼の後姿をぼんやりと眺める。揺れる尾が時々煌めく。月明かりが照らす夜の森、というバックの効果もあってか、何度見ても幻想的な景色だ。下手な一枚画より、よっぽど美しい。果たして、こんな絵を描ける絵師が、そうゴロゴロといるのだろうか。


 魔物は少ない。街が近い証拠だろう。


 シルバー。銀。白銀。月色。


 かつて『双翼』の片割れとして私の隣に立っていた『右翼』ホノカ。彼女好きな色だった。


 そしてきっと、太陽では駄目なのだ。闇を照らすのは、いつも月。例えそれが心の闇だったとしても。太陽のごとく強すぎる光は、危険すぎる。

 闇を持たない者などいない。完全に闇がかき消されるなんて事は有り得ない。もし有り得るとすれば、それは単に、月を消した夜を用意して、そこに負の感情を全て詰め込んだに過ぎない。その闇が、二つ目の彼の人格となる。


 彼には、どんなに眩しい太陽も必要ない。夜に静かに佇む、何よりも美しい月であってほしい。


 月は爆発なんてしない安全な星だから、その近くを漂う私は被害を受けないで済む。まさに一石二鳥である。


 だけど、新月には月が消える。月が食われる事もある。そんな時は、私がそばにいてあげたい。私をいつも、ホノカが支えてくれたように。


 名前とは、とても強力な意味を持つ。その人の人格に影響を与える事もしばしばある程に。

 私は彼に、名を付けた。私は彼を、新しいパートナーとして守ると誓おう。彼が拒まぬうちは、共に歩むと誓う。


 だから。


 いつか、私が、私という名付け親が、彼にとってどうでもいい存在ではなくなりますように。親は無理かもしれないけど、姉くらいには認識されてみたい。


 いつか、私にもーー


 しかし、今思えば名前がある、というのは、人里に降りるにつき、必須条件である。まさか街中で、彼の事をフェンリル、と呼ぶわけにもいくまい。


「そうだ、私の子は、街中ではリリスって呼んで」

「? 何故だ?」

「そりゃあ、面倒だから。だって、天使なんかになっちゃってるんでしょ?」

「……あぁ、なるほど。了解した」


 相変わらずそっけない。何となく表情は分かるようになったというのに、顔を背けられては意味がないだろう。こっちを向け、こら。


 ーー名前を呼ばれる日が、来るのだろうか。


「っていうか、人姿にはならないの?」

「………………っ」


 一瞬足を止める彼を見て、反射的に気配探知を発動させる。スキルがなくても数メートルなら探れるようになったが、やはり気配探知スキルの名は伊達ではなかった。

 結果、分かった事。この周囲には、何もいない。


「?」

「……が無い」

「え?」


 失くし物だろうか。この距離を今から帰るのはちょっと悲しいものがあるが、大切な物なら仕方が無い。探すなら手伝おう。


「服が無い」


 はい? 服?


 そういえば、人姿になって、いきなり服が出現する、何て事は、有り得ない事もなくはない……のかも、しれない? というよりむしろ、服が出現する方がおかしい……?


「……あ」

「ミアは馬鹿だな」


 返す言葉もない。


「ところで、見えてきたぞ」

「え、あ、うん」


 若干の混乱をまだ引きずりながら、彼の視線を追って眼下に広がる街を見る。


「……すごい……」


 思わず、感嘆の息が漏れた。

 現代に灯る光とは少し違う印象を受ける、だが、とても綺麗な風景だ。


 星のようだ。そう思って、いい機会だから、一つ願い事をしておこうと、心の中でひっそりと、初めて星に願い事をした。


 もうすぐ、日が昇る。


 ーーどうかシルバーが、私の事を忘れませんように。


 天使ではない私を、覚えていてほしい。もしかしたらこの世界には、私以外には、誰もいないかもしれないから。


 だから。

 先に消えるであろう私を、忘れないで。


 現実での私は、どうなっているのだろう。案外あっさりとこの世界の事を受け入れる程度には未練はない。そう思っていたのだけれど。


 森を振り返る私を、シルバーは道の先で待っている。


 ーーここからようやく、物語が始まるのだ。しんみりするなんて、らしくない事は止そう。ここからはきっと、楽しい人生が待っている。


「ミア」


 あぁ、それと、もう一つ。


「ごめん。今行くよ」


 いつか、どうか彼がーー


「ところでさ、愛称って知ってる?」

「今度はなんだ?」

「いい事思いついたんだ。愛称っていうのは、大切な人を呼ぶときに使う、仲のいい人とか、家族とかの間で使う、二つ目の名前みたいなものなんだけど」

「はぁ」


 ーー私の名前をーー


「だからね、私はシルバーの事を、愛称で呼ぶ事にした」

「は?」


 ーー呼んでくれますように。


「よし、行こう、シル」


 さぁ、新たな物語の、幕開けだーー……。

 やっぱり、二話に分けるべきだったかなぁ……。


 ブクマ・コメント等、待ってます!

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
亀更新ですが、これからもよろしくお願いします。
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