第2話 この世界はきっと
休日だったので書けました。それでもこの文章量が限界という……。
HJ大賞のタグも追加しようと考えております。
残るとは思えないけどな……。
では、本文へどうぞ。
「順を追って話そうか」
約1000年以上前のことだ。この世界に、邪神が現れた。
邪神は、話を聞く限り魔王そのもので、邪神が生まれることにより、魔物たちが活性化、逆に、神聖なる生物の力が目に見えて減っていった。
そして同時に、生態系も著しく破壊され、その事に世界存続の危機を覚えた神が、この世界に10人の天使を送り込んだ。
その代表例が、現在も続く由緒正しき伝説のギルド『九天』の初代ギルドマスターにして『双翼』が一人、『左翼』『ミア』である。
彼女は人の姿をとり、ハイヒューマンの群れを連れ、邪神の討伐に向かった。邪神は天使10人と、数人の『加護』を受けしハイヒューマンにより討伐された。
ーーただし、その犠牲はやはり大きかった。
その戦いでハイヒューマンは『加護持ち』以外を残して全滅。天使達は怪我の治療に専念するため、天界へと帰って行った。
ただし、その中でミアは、怪我の具合が著しく悪かった。天界に帰る時間すら惜しいほどの致命傷を負ったのだ。
彼女はそのまま、この世界で眠りについた。丁度守護天使の死したこの世界で、彼女はどの道、この世界にとどまる予定だったのだから。
神はそんなミアを大層心配し、彼女が眠りについた森を聖域と定め、フェンリルの一族に守護を任せた。
ーーやがて彼女は目覚める。その時、彼女にこの世界の姿を教えてやりなさい、と。
それからフェンリルは、天使と対等に話せるほどの存在にまでなったのだ、と言われている。
『加護持ち』と呼ばれたハイヒューマン達は世界中に散らばり、その生を全うした。
その中の一人である、クレド・フィーリアは、セントフィーリア王国の初代国王となり、セントフィーリアは、聖なる楽園と呼ばれている。
伝説のギルド『九天』は、クレド・フィーリア国王の支援のもと、彼の一代で巨大ギルドにまで発展し、今なお存続されている。ギルドマスターを含めた9人で会議を進め、大勢を指揮しているらしい。
時には国からの要請で魔物の討伐隊を組むことすらあるというのだから、驚きである。
「少しは分かったか」
「どうも、親切にありがとう」
未だに混乱はしているが、冷静な判断はできる程度にまで回復はした。
「しかし、何だ、そのご都合展開は」
作り話にも程がある。そして、名称が違うだけでさほど間違ってはいないからタチが悪い。
ハイヒューマンの全滅ーーそれはつまり、プレイヤーたちの帰還の事だろう。よって、ハイヒューマン以外にも、かなりの人数が、種族を問わず消息不明になったはずだ。
エルフやドラゴニュート、ヒューマンはNPCにも存在したが、ハイヒューマンまで極めた人は少ない。そういった意味で目立っていたが故に、天使やら神の使いやら、可笑しなことになったのかもしれない。
……いや、あながち天からの使いというのも間違っていないのか。
守護者は何らかの強制力でもって、もはや守護者とは正反対の行動を起こすようになり、それをどうにかするために、神が天使を送り込んだ。いきなり強大な力を送り込むと云々という設定は、確かにゲームの説明、すなわちプロローグの中にもあったような気がする。
いきなり現れた強者の大群、大勢のプレイヤー。これは確かに、初めは未熟でも、次第にNPCとは比べ物にならない化け物へと発展していった。ならば、同じ世界の出身者などではなく、神の世界ーー天界の人々だったと考えるのは、この信仰の厚い世界においては、ごく普通の事だったのかもしれない。
消息不明だった人々は、邪神が道連れにした、やら、天界に連れて行ってもらえたのだ、だとか、説はいろいろあるらしい。恐らく、これがレベル上げをしていなかったヒューマンか、他の種族のプレイヤーだろう。どいつもこいつも、消えたのは異常なほどに強かった人だった、という証言だけは一致しているらしいから。
「ご都合展開とは?」
「あー、気にするな。説明ありがとう、助かった。何かあれば呼んでくれ。駆けつけよう」
「……必要ない」
そう、必要ないか。まぁ、フェンリルは神狼だ。強いからな。
「そう言えば」
ふと、今までの彼の言葉を反芻し、疑問に思う発言があったのを思い出した。
「フェンリルの寿命は確か、数千年……だったな?」
「……あぁ。5000年が平均だな」
なるほど。という事はやはり、彼は邪神との戦争を間近で体験しているはずだ。
私が疑問に思った……というより、引っかかったのは、そこだ。実際に自分が体験したというその割には、事実は分からない、と言っていたり、やけに他人事だったり……。
まるで、人伝に聞いたかのような。
一発で私の正体を見抜くほどの強さを持つフェンリルが、あの戦場に出られるほどの力がなかったために仲間に話を聞いた、という可能性は排除していいだろう。繰り返すようだが、純粋な戦闘能力は、ヒューマンと比べ、フェンリルの方が圧倒的に強い。私ですら、群れで囲まれたらかなりギリギリの戦いになるだろう。
「俺……いや、私は生まれて1000年未満だ。本来なら、親と一緒に群れの中で生活している年だぞ。純潔のフェンリルは、10000年は生きるからな」
……今、一人称を言い直さなかったか?
いや、今はそれより、気になる発言があった。
「君は純潔、なのか?」
「いかにも」
「という事は、やはり強いのか」
「……いや、弱いな」
ーーは?
フェンリルとは、謙遜する生き物だったのか。初めて知ったな。まぁ、今まではまともに話したことすら無かったのだが。よって、性格など知りようもない。
ーー待て。
それほどにまで好戦的なフェンリルが、何故私に襲いかかって来なかったんだ? 私のステータスを見て私の種族を判断した、という事はなさそうだ。彼は、私の名前を聞いてきた。ステータスを覗かれた様子もない。
そう言えば、何故ゴブリンが居たのだろう。彼らが入って来れるということはつまり、人間も侵入できる?
というか、初めからかなり落ち着いた雰囲気じゃなかったか? 戦う気など、ゴブリンの件も含めて、さらさら無かったように感じる。
……何故……?
「平均的なフェンリルと比べれば、充分強いだろう」
そんなことを考えながらも、私の口は、しっかり仕事をしていた。
「そうなのか? 他のフェンリルにも、会ったことがあるのか? 覚えているのか!?」
「え、ま、まぁ……」
何せ、討伐したくらいだし。
……しかし、何だ? この異常なテンションの高さと、違和感は……。
「他のフェンリルは、どんな姿をしていたんだ? どれくらいの強さだったんだ? 俺……いや、私と比べてーー」
ーーまさか。
「……君は、まさか……仲間に、捨てられたのか?」
その、呟きとも取れる私に問いに、銀狼は否と、首を静かに横に振った。そして小さく、まさか、と言う。
「確かに純潔だったせいで仲間に距離をおかれていたような気はするが、両親はとても優しかった。群れが捨てたんじゃない。群れを、捨てたんだ」
ーー生き残るためにーー
さらりと風が吹き、雲が月にかかった。辺りに降り注いでいた神秘の光を、私は一瞬見失う。
「お前は、強いんだよな?」
その美しい瞳を、そこまでの憎しみに染めた物は、一体、何なのか。
聞く事はできない。だが、それが、無性に気になって仕方がなかった。
本来なら、親と共に過ごしているはずの年齢ーー。
私が守護者ガーディを討伐した後に、フェンリルの群れが、何者かに襲われた……?
「俺は、力が欲しい」
彼は私の返答など、初めから待ってはいなかった。
「本来フェンリルは、仲間がいる状態でサポートを受けながら戦闘を学んでいく。だが、俺にはそれができなかった。この森には、天使が眠っている。俺一人での戦闘練習は、なるべく控えたかった。故に、この森は今、この『絶対聖域』を除いて、危険地帯と化している」
だから、ここを動く訳にはいかなかった。彼はハッとしたように口を閉じたが、きっと、そういう事だろう。
……私のせいで。
もちろん、私が頼んだことでもないし、おそらくこの言い伝えは真実でもない。どこでこんな話が作られたのかも、分からない。
私に一切の非はない。それでも。
そんな理由で、彼を見捨ててもいいのだろうか。
この、純情すぎるが故に憎しみに染まり、そして染まりきれていない瞳から、目を逸らしていいのだろうか。
「……行動を共にしたい」
どうしても足手纏いだから、邪魔だというのなら構わない。彼はそう付け加えて、切なさに満ちた眼を向けてくる。
それが私には、最後の一言も含めて、連れて行ってくれという懇願にしか、感じられなかった。
ーー……おかしい。
「……条件がある」
ーーおかしいな。
「一つ目、正体を隠す事。人姿がとれるなら、基本そちらで。色は別に変えなくてもいい。赤目は人間にもいる」
ーー私はこんなに。
「二つ目、私に情報を提供する事。その為に、無断で居なくなる、というのはダメ。情報は、プライベートな事以外、主にモンスター……魔物についてや世界観についてのみで構わない」
ーー生温くはない。
「この条件を呑めると言うのであれば、表向きは冒険者仲間として、共に行動する事を許す。……内心で私の事をどう思おうが君の勝手だが、周囲からは仲間に見えるように配慮してくれ」
「……条件を呑む」
……まぁ、彼にとってのデメリットらしいデメリットはない。私は一言も戦闘をする、とも、助太刀をする、とも言っていないが……。流石に目の前で死なれるのは後味が悪い。それと、私の離れたところで、勝手に死なれるのも。
……帰ってくるのを待たなくてはならないではないか。時間の無駄である。
「良いのか?」
「良い。これから街へ向かう。道案内を頼みたいんだが、道は分かるか?」
「当然だ」
「なら、早速行こう」
街に向かってどうするのかは、決めてはいない。だが、なんとなくお約束的展開のその先が、気になったのである。
自分が主人公だなんて愚かな思考は持ちたくない。恐らく彼は、そう思いたい私の心に、ストッパーをかけてくれる事だろう。そして、情報も無料で提供してくれる。戦闘経験は無きに等しいかもしれないが、それでも戦力としては申し分ない。
立派な利害の一致である。
ーーそれ以上に、彼の瞳に魅せられたなんて事は、きっと無い。
ーー私の心に訴えかけてきたなんて事は、きっとーー……。