姫乃とデート
「お兄ちゃん明日姫乃さんとデートでしょ?」
「デートって……。一緒に出掛けるだけだ」
「それをデートっていうんだよ」
俺も一般的にそれがデートだと言われるものであることは分かっているが、なんだかそれを認めるのは少し恥ずかしい。それに偽とはいえ恋人以外とデートするっていうのもなんだか悪い気がするし。
「お兄ちゃん明日変なことしたらだめだよ」
「変なことってなんだよ」
「勢いあまってホテルに連れ込んだりとか」
「そんなことするか!」
今日は小夜が恋人宣言をしてから数日経った金曜日である。その間俺と小夜は学校では恋人の振りをし続け今のところ男避けとしての役割は果たせてると思う。
だが、小夜曰くまだ恋人っぽさが足りないらしい。なので小夜の提案でデートすることになった。ここでまた問題が一つ。俺も小夜もデートなんてしたことが無いので自信がない。なので小夜とのデートの前日である明日姫乃と予習デートすることになった。
姫乃もデートなんてしたこと無いはずなので、意味があるのだろうかと思い聞いてみると、悲しそうな表情で「わたしとは行きたくないの?」と言われたので結局姫乃ともデートすることになった。いつか姫乃の頼みを断ることの出来る日は来るのだろうか?
「おはよう浩司くん早いね。待った?」
「20分くらい待ったかな。まぁ俺が早く来過ぎただけだ」
「もう浩司くん。そういう時はたとえ1時間待ってたとしても今来たところって言うものなの!」
「そんなもんか」
「そんなもんです」
次の日俺と姫乃は駅前で待ち合わせをしていた。家が隣なのにわざわざ待ち合わせをする必要があるのかと思ったが、待ち合わせの方がデートっぽいということで待ち合わせをすることになった。
ちなみに俺は小雪に30分前に着くように家を追い出された。なので決して姫乃が遅刻したわけではない。
「じゃあ浩司くんまずどこ行くの?」
「まずは映画館だな」
「了解。じゃあほら手つなご」
「そこまでする必要あるのか?」
「当たり前だよ。デートなのに手をつながないなんて言語道断なんだから」
「分かった。仕方ない」
そう言って差し出されていた姫乃の手を握って歩き出す。流石に指を絡める恋人つなぎは恥ずかしかったので普通に握ってるだけだ。それでも姫乃の手は男にはない柔らかさがあり意識せずにはいられなかった。
待ち合わせの駅前から徒歩10分程で映画館に着いた。この時間にやっていると事前に調べていた恋愛映画を見る為にチケットを買って指定された席に着いた。
ちなみにチケット代は一応デートなので姫乃の分も出すつもりだったんだが、今日は予習だからと言うことで姫乃が主張し結局各自で出した。明日は奢るようにと念押しされたが。
「映画面白かったね浩司くん」
「そうだな」
「もう嘘ばっかり。浩司くん途中から寝てたじゃない」
どうやらバレていたようだ。余りに出来過ぎた恋愛模様にそんなの現実に起こるわけ無いだろ!とか思いながら見てる内に段々眠くなってきて後半はほぼ寝ていた。
「結構面白かったのに。浩司くん明日は寝ちゃだめだよ?」
「分かってる。自信はないが」
努力はするが自信はない。
「まぁいいや。じゃあ次はどこ行くの?」
「昼ご飯食べてからカラオケだな」
「じゃあとりあえず食べにいこっか」
「了解」
そっと差し出された姫乃の手を握って映画館から徒歩5分のところにあるレストランへと向かった。相変わらず手をつないで歩くのには慣れない。
「ここか。なんかいかにもリア充が行きそうな店だな」
今俺たちはお洒落なレストランの前に立っていた。俺1人なら絶対に入ることはないであろう店構えだ。
「何言ってるの浩司くん。今はわたしたちもリア充じゃない」
「それもそうか」
いつまでも店の前で突っ立っていてもしょうがないのでとりあえず中に入る。
「いらっしゃいませ。2名様でしょうか?」
「はい」
「ではこちらの席へ」
これまたお洒落な店員の案内に従って席に着く。
「ではこちら注文票です。注文がお決まりになられましたらそちらのボタンでお呼びください。失礼します」
そう言って注文票を置いて去って行く店員。
それから適当に駄弁りながら昼ごはんを食べて店を出た。ちなみに味は普通においしかった。
「じゃあ次はカラオケだね。時間的にこれが最後かな?」
「そうだな。カラオケも歩いて行ける距離だから」
「そっか。じゃあ行こ?」
レストランから徒歩3分程で目的のカラオケ店に到着した。店に入り3時間コースを選択して割り当てられた部屋に入った。もちろんカラオケに行く道中も手はつないでいる。
「浩司くんとカラオケに来るのって初めてだよね」
「そうだな。そもそも俺カラオケなんて来たことないし」
「浩司くんクラスでカラオケに行くって時もこなかったもんね」
「え?そんな事あったか?」
「あったよ。ほら去年の文化祭のあとの打ち上げで」
全く覚えがない。もしかしなくても俺はハブられたようだ。別に悲しくなんてない。ないったらないのだ。
「まぁそんなことはどうでもいい。とりあえず何か歌うか」
「そうだね。じゃあ交互で歌おっか」
そう言って姫乃はデンモクを操作して曲を入れた。
それからは中々楽しくてすぐに3時間が過ぎた。姫乃の歌は上手でも下手でもなかったが、自分で歌うのは中々楽しかった。初め歌う曲を決められず、『君が代』を入れたときは呆れられたが。
それからカラオケ店を出て駅に戻り電車に乗り最寄駅へと向かった。
「楽しかったねカラオケ。またこれたらいいね」
「そうだな。初めて来たけど以外と楽しかった。今までリア充御用達と思ってたが来てみると案外楽しいもんだな」
「リア充御用達って……。でも浩司くんがいきなり『君が代』入れた時はびっくりしたよ。しかも上手だし」
「仕方ないだろ。何歌ったらいいか分からなかったんだから」
今はデートも終わり帰りの電車で隣の席に座り姫乃と今日のことを振り返っていた。すると唐突に姫乃がよく分からない事を言い出した。
「100点だね」
「何が?」
「今日のデートの点数だよ」
デートが初めての姫乃が点数を点けられるほどデートに精通してるとは思えないがそこはつっこまなかった。俺は野暮なことは言わないのだ。
「それって高いのか?低いのか?」
「もちろん高得点だよ。これで映画で寝たのがなかったらなぁ。でもそれを打ち消すくらい良いことがあったから」
「そりゃ良かった」
どうやら姫乃は今日のデート満足してくれたらしい。
「でも明日も上手く行くとは限らないよ。わたしの場合浩司くんと手をつなげたことでプラス50点だったから」
「それってどういう?」
「何でもない。今は言ってもしょうがないから。そう言えば浩司くん今日のデートコースどうやって決めたの?」
それからは適当に駄弁って帰宅した。
帰り際何度か聞いてみたが結局プラス50点の意味は教えてくれなかった。普通に考えれば姫乃が俺に好意を持っているという事になるのであろうが、それはないだろうと決めつけたいた為、答えを導き出すことは出来なかった。
そして晩御飯を食べ風呂も入った後、明日のデートに備えて早く寝るつもりだったのだが姫乃の手の感触を思い出し中々寝付けなかった。
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