小夜視点:ガールズトーク
今回は視点が小夜です。
「そういうわけなの。ごめんね小夜ちゃん。あとは別の人に頼んでおくから」
艶やかな黒髪を腰辺りまで伸ばした綺麗と可愛いの中間くらいの女性が申し訳なさそうに言ってくる。
彼女は高梨姫乃さん。私が明日から転入する学校の生徒会長をやっている人だ。
「別に良いわよ。ただその案内してくれる人って女の方なのかしら?」
「男だよ?だめかな?」
「だめって訳じゃないのだけど、言い寄ってこられたら面倒なの。ほら私ってアイドルなんてやってるから言い寄られることも多くてうんざりしてるの」
男性に言い寄られるのは面倒なだけでなく、とても苦手だ。自分の職業上仕方ないとはいえ割り切れる問題でもない。ならアイドルなんてやめれば良いと思うかもしれないが、アイドルをやっている時は楽しいのでやめたくない。
なんだかんだ言っても私はアイドルが好きなのだ。
しかし、その懸念はすぐに否定された。
「多分大丈夫だと思うよ。浩司くんが初対面の人に言い寄るとは思えないし、アイドルってことには気付かないだろうし」
もちろん彼女の言ったことをすぐに信じることはできなかった。ただ、まだ長い付き合いではないが彼女がとても良い人だということは分かったので、彼女が信じる人もいい人なのだろうと信じてみることした。
「それなら大丈夫そうね」
「うん。良かった」
それからすぐに一般的な男子高校生と言えば思い浮かぶであろう人が生徒会室とプレートに書いてあったこの部屋に入室してきた。彼が今日案内してくれる人とのことで学校を案内してもらった。その間彼は本当に私がアイドルだということに気付かなかったし、もちろん言い寄ってくることもなかった。
私は中学は女子校で転校する前の高校も女子校だったので男性と話す機会は身内と仕事関係くらいしかなかった。その数少ない男性と話す機会である仕事関係の男性が原因で男の人が苦手になったので、こんな男性もいるのだと認識を改めた。
案内が終わり方向が同じとのことで家まで一緒に帰ると驚いた事に家が近所であった。
その日の夜、自分の部屋のベッドの上でそのことについて少し運命めいたことを感じている自分に気付き、1人でベッドの上で恥ずかしくなった。私は少し彼のことが気になっていた。
次の日彼、柊くんに男避けになってもらうのはどうかと考えた。柊くんは迷惑かもしれないが、そこはなんとか罪悪感を押しとどめた。自分の利益をとって相手の迷惑を顧みないのは最低だと思ったが背に腹は変えられなかった。男性に言い寄られて失礼なことをしてしまうよりは良いと思ったのだ。正直男性に言い寄られて冷静に対応できる自信がない。
そして帰り道、柊くんと、柊くんの妹である小雪さん、あと高梨さんと一緒に帰ることになった。
私としては柊くんと2人で帰り、頼もうと思っていたので少し都合が悪かったが、仕方ないと割り切り頼むつもりだった。恋人になってくれないかと。そうすることが男避けには最も確実だと思ったからだ。
だが、柊くんに好意を伝えた時の2人の反応を見て恋人になるのは諦めた。まず間違いなくあの2人は柊くんのことが好きなのだろう。それを好きでもない私が偽とはいえ恋人になるのはさすがに人道から外れていると思った。
次の日柊くんに昨日の頼みを了承してもいいと言われた時、とても驚いた。さらにそれを高梨さんと小雪さんに頼まれたと聞いたときはさらに驚いた。なので私はこのことについて2人に確認してみる必要があると思った。
「で、小夜ちゃんわたし達に話しって?」
「もちろん柊くんになぜあんなこと頼んだか聞きたいの」
「小夜ちゃん、柊くんじゃなくて浩司くんでしょ」
「そうだったわね」
現在、私は浩司くんの隣にある高梨さんの家にお邪魔している。ここにいるのは私と小雪さんと高梨さんの3人だ。どうしても聞きたいことがあって、偽の恋人になったあと、帰り道で一緒に帰っていた彼女達に話が出来ないかと尋ねると高梨さんの家でとういことになった。
浩司くんも一緒に帰っていたが今はいない。3人で話したいことがあると高梨さんが言うと訝しんではいたがすぐに了承してくれた。
「それでどうしてわたし達が浩司くんに頼んだか聞きたいんだよね?」
「そうよ」
「小夜ちゃんが心配だったからでは納得できないかな?」
「できないわ。だってあなた達は浩司くんのことが異性として好きなのでしょ?それだけではさすがに納得できないわ」
そう言うと2人の顔が真っ赤に染まった。
「どっどうしてそれを……」
「わっわたしは違いますよ。大体妹ですし……」
「別に誤魔化さなくていいわ。小雪さん。2人での態度を見てたら丸わかりなんだし」
「そこまでわかりやすかったかな?」
「そうね。正直気付いていない浩司くんをどうかと思うわ。案外長く一緒にいすぎると気付かないものなのかもしれないわね」
そう言うと2人の顔少し曇った。私はなぜ2人がそんな反応をするのか分からなかった。
「多分、お兄ちゃんは気付かない様にしてるんだと思います」
「わたしも小雪ちゃんと同意見かな」
「気づかない様に?」
「うん。これはわたし達が浩司くんに偽の恋人をする様頼んだことにも関係あるんだけど……」
それから高梨さんの説明が始まった。
要約すると浩司くんは自分に自信がなさ過ぎるらしい。なので自分の事を好きな人などいないと思い込んでいる。
「それにわたし一度浩司くんに告白したことがあるの」
「「えっ!?」」
その反応によると小雪さんも知らないことだったらしい。
「中学の時だけどね、わたし直球で浩司くんに好きだから付き合って下さいって言ったの。そしたら浩司くんなんて言ったと思う?」
「分からないわ」
「浩司くんは、『何かの冗談か?ドキッとするからやめてくれ』って言ったの。あの時は流石に悲しかったな」
そう言って高梨さんは少し悲しそうに目をふせる。
「それは筋金入りね」
「そんなことがあったんですか」
「これで浩司くんがわたし達の好意に気がつかない理由が分かったでしょ?」
「そうね。あと浩司くんが好意に気がつかないことが今回頼んだことに関係があるって話は?」
「それはね、浩司くんに恋心を知ってもらいたかったの」
「恋心を知ってもらう?」
「うん。偽とはいえ恋人ができれば少しは恋心が分かるかなって。そしたらわたし達の恋心にも気付いてくれるかなって思ったの」
「そんな理由があったのね。でももし浩司くんが本当に私のこと好きになったらどうするつもりなの?」
「その時は仕方ないね。わたしの魅力が足りないのが原因なんだから。でも負ける気はないよ?」
「わたしも負ける気ないです」
高梨さんは悪戯っぽく、小雪さんはきっぱりと宣言する。
「ちょっと待って。私そもそも戦う気なんてないわよ?」
「そんなこと言って。実は少し気になってるんでしょ?」
「そうですよ。幾ら何でも嫌いな相手に偽とはいえ恋人になって欲しいなんて頼まないと思います」
結局その後色々問い詰められたが、なんとか浩司くんを好きではないということは納得させることができた。だが浩司くんことを気になってはいると2人は思っているようだ。そう思われることについては本当のことなので別に構わないかと思った。
その後、色々な話をしてる内に私達は凄く仲良くなった。浩司くんについての色んな話も聞けた。これからは4人で一緒に学校行きましょうということでその日は解散となった。
読んでいただきありがとうございます。
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