あの子がアイドル!?
「お兄ちゃん!制服どう?」
朝起きて階段を降りると、真新しい制服に身を包んだ小雪がそう言ってくるっと一回転して見せた。
「どうもこうも着られてる感が凄い」
「しょうがないじゃん!今日初めて制服着たんだから」
「そんな怒ることないだろ」
「怒ってないし」
「そうか。じゃあとりあえず飯と弁当作ってくるわ」
「むー。なんか適当に流された感じ」
むくれる小雪を放置してキッチンで適当に朝ごはんと2人分の弁当を作る。小雪は以外と食べるので弁当箱の大きさも中身も俺と同じだ。
「小雪。朝ごはんできたぞー」
朝ごはんができたので2階の自分の部屋に戻っていた小雪を呼ぶ。
「分かったお兄ちゃん。今行く」
階段を降りる音がしてすこしした後、リビングのドアが開く。小雪が席に着いたあと俺も席に着く。ちなみに父は仕事の関係で今は県外にいるので一緒に暮らしていない。そのため基本ごはんは小雪と2人で、たまに姫乃が来て3人で食べる時もある。
「今日も姫乃さん来るの?」
「いつも通りの時間に来ると思うぞ」
「じゃああんまりゆっくりしてられないね」
「そうだな」
「お兄ちゃんが起きるの遅いから」
「いや、姫乃が来るの早いんだって」
実際まだ時刻は7時で姫乃はいつも7時30分に家に来る。学校は9時までに教室に入れば大丈夫であり徒歩15分で着くのでもうちょっとゆっくりしたいと思う時もある。その事について姫乃に進言してみると、『だって浩司くんと早く会いたいから』と言われたため、結局この時間に定着している。姫乃は不意打ちでドキッとさせることをたまに言うから心臓に悪い。
『ピンポーン』
朝ごはんを食べ終わり洗い物をしているとチャイムが鳴る。
「悪い小雪。先でといてくれ」
「分かった。お兄ちゃんも早く来てよね」
「了解」
小雪がドアを開ける音を聞き、洗い物は途中だが自分の部屋に鞄を取りに行って家を出る。家を出るとすぐに姫乃が俺に気づいて挨拶してきた。
「あ、浩司くん。おはよう」
「おう。おはよう」
「じゃあ行こうか。今日からは小雪も一緒だし」
「そうだね。今日からよろしくね。小雪ちゃん」
「よろしくお願いします。姫乃さん」
それから適当に会話をしながら学校に向かった。この時間では他に登校している生徒もいない。
「そういえば小雪ちゃん。こんな早く学校に行って暇じゃない?」
「大丈夫ですよ。勉強道具とかいろいろ持ってきてるんで」
「さすが新入生首席だね!入学早々勉強かー」
小雪は俺の前以外では優等生で、また成績も良いので普通レベルの高校では首席を取れる位優秀なのだ。その猫かぶりは幼馴染の姫乃の前でも例外ではない。といっても別に仲が悪い訳ではない。
「それなら小雪ちゃん。生徒会室来ない?」
「生徒会室ですか?」
「うん。いつも私と浩司くんは早く来すぎて余った時間は生徒会室で仕事してるの」
「そうなんですか。じゃあぜひ」
「本当?良かった」
「小雪が生徒会室来るのは良いんだが、別に小雪は俺たちに時間合わせる必要ないんだぞ」
そう言うと小雪にめっちゃ睨まれた。その横で姫乃は苦笑いしている。なぜだ?
そうこうしてる内に学校について昇降口で靴に履き替えて生徒会室に向かう。
それから生徒会室で仕事をこなし始業時刻になったので小雪とは別れ同じクラスの姫乃と3年C組の教室へむかう。
教室に入っていつも通り姫乃と登校して来たことに対するやっかみの視線をスルーして自分の席につく。俺の席は窓際の最後列という最高のポジションだ。
「うっす浩司。今日も相変わらず姫乃ちゃんとはラブラブだな。羨ましいぜ」
席につくなり大柄な男子生徒が声をかけてきた。こいつは大場涼太。俺の数少ない男友達の1人だ。その大柄な体躯をいかし柔道部ではキャプテンをつとめている。
「何いってんだ。俺と姫乃の関係知ってるだろ」
「まぁな。でも羨ましいものは羨ましいぜ。あんな可愛い子と幼馴染とか」
そういって多くの生徒に囲まれている姫乃に目を向ける涼太。
「全員席につけ。ホームルームを始めるぞ 」
涼太が姫乃に目を奪われてる内に教室の前の扉が開いて40代の男性が入って来る。俺の去年の担任で国語科の佐藤先生だ。どうやら今年も担任は同じらしい。
「今年の3Cの担任の佐藤だ。全員授業で面識があるから自己紹介はいらんだろ。それより今日は転入生がいるんだ」
先生がそう言うと教室が騒がしくなる。まぁ高校生にとって転入生は気になるイベントだから仕方ないだろう。
「静かにしろ。よし倉間入れ」
教室が静かになってから先生はドアの外にいるらしい倉間さんを呼ぶ。
先生の言葉に応えてドアが開いて女子生徒が入って来る。もちろん昨日のも会った倉間さんだ。そのまま倉間さんは先生にうながされるように教壇に立つ。その間教室は不自然なくらい静まりかえっていた。
「倉間。自己紹介しろ」
「はい。家庭の事情で引っ越して来ました倉間小夜です。1年間ではありますがよろしくお願いします」
自己紹介が終わっても教室は静かなままだ。そのことにあきれた様に先生が言う。
「お前らの反応もわからんではないが拍手ぐらいせんか」
先生がそう言ったので俺は拍手する。だが拍手したのは俺と姫乃だけだった。
なんでみんな拍手しないんだ?確かに倉間さんは可愛いがそんな幽霊に出会ったみたいな反応になるものか?
そんな風に思っていると涼太が手を挙げた。
「なんだ大場」
「先生質問いいですか?」
「ああ。かまわん。みんなも気になってるだろうしな」
「もしかして倉間さんってアイドル活動とかしてますか?」
アイドル活動?何を意味の分からんこと言ってるんだ?
「やっぱりばれるわよね」
「じゃあやっぱり……」
「そうね。私はSAKURAという芸名でアイドルをやってるわ。その関係で学校を休むことがあるかもしれないけれどよろしくね」
そう言って倉間さんが微笑むとクラス全体が歓喜の渦に包まれた。逆に今度は俺が幽霊に出会ったみたいな反応になった。
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