出会い
『それでは聞いてください!ここから始まる初恋!』
「小雪、他の番組にしないか?」
「何で?お兄ちゃん」
「いやだってあんな私輝いてますオーラ出してる人見てたら自分が虚しくなる」
「なにそれ?お兄ちゃんたまに意味分かんないこと言うよね。それに私はSAKURAちゃんのファンなの。リモコンは渡さないからね!」
「そうか」
今は夜9時。いわゆるゴールデンタイムの時間だ。その時間にやっているとある音楽番組を俺は妹と一緒に見ている。俺はあまりアイドルとかは趣味じゃなくできれば他のが見たいんだが、わが家の妹はどうやら今出てるアイドルのファンらしく興奮した表情で見ている。このまま見てるのもなんなので風呂に入ることにする。
「じゃあ俺風呂入ってくるわ」
「うん。分かった」
妹のテレビを見ながらの返事を背に風呂に向かう。ちなみに風呂は夜ごはんを食べた後に沸かしてあるのですぐに入れる状態だ。
風呂から上がると既にSAKURA?の出番は終わったのかニュースになっていた。ニュースではさっきのアイドルが事務所移籍とかなんとか言っていた。それを見ながら芸能界も色々大変だなとか思いながら夜は更けていった。
「お兄ちゃん起きて!遅刻するよ!」
「まだ眠い……」
「そんなこと言ってないで。ほら!」
肩をガクガク揺さぶられて無理矢理起こされる。時計を見るとまだ6時であった。
「小雪、まだ6時なんだけど」
「なに言ってんのお兄ちゃん。今日は私の入学式だよ!しっかりしてよね」
「入学式に行く仕度なんて30分あれば終わるだろ」
「もうお兄ちゃんはだらしないんだから。そんなんじゃ姫乃さんに嫌われるよ」
「分かった、分かった。起きるから」
こんなことで姫乃に嫌われるとは思えないがどうせ目が覚めてしまったので仕方なく起きる。
それから今日の朝ごはんの当番である小雪の作った朝ごはんを食べて朝のニュース番組を見てる内に時間になったので家を出た。家から俺たちの通う高校である北高校は近いので徒歩である。
「お兄ちゃん、私ももう高校生だよ」
「そうだな。もうあれから4年か。今度お墓参りの時は母さんにも小雪の入学報告しないとな」
「そうだね」
道中でそんな会話をしながら15分もすると北高校が見えてきた。今日は入学式なので入学する生徒と一部の在校生以外は学校は休みだ。俺は生徒会役員兼小雪の保護者として登校している。母は既に他界し父は仕事がどうしてもはずせないらしく代理として俺が参加することになっている。
「じゃあ俺生徒会室行くから。案内に従って行けば分かるから。あと俺今日は生徒会の仕事あるから先帰っといて」
「分かった。また式で会おうね」
「あ、浩司くん。おはよう」
「おう、おはよう」
昇降口で上履きに履き替え、階段を上がり3階にある生徒会室に入ると幼馴染で生徒会長でもある姫乃が挨拶してきた。
「今日は早いね。これなら一緒に登校すれば良かったよ」
「小雪と一緒に来たから。まぁ明日からは3人で行けるだろ」
「そうだね。あと入学式の後の仕事のことだけど一回ここに戻って来てね。それから説明するから」
「了解」
昨日、『明日は生徒会長の仕事が多い為、学校に一緒に行けない』とメールが来ていた。俺たち普段は一緒に登校している。ちなみにそこに恋愛的な要素はないと俺は思っている。なんたって姫乃はモテモテだからわざわざ俺みたいなのを好きになる理由がない。所詮幼馴染なんて仲の良い男友達と変わらない。漫画やアニメの幼馴染なんて幻想である。
それから色々と生徒会役員としての仕事をこなし保護者として入学式に参加すべく体育館に向かった。
入学式は特にトラブルもなく終わり俺は姫乃の言いつけ通り生徒会室に向かっている。ちなみに小雪は中学校からの友達らしい女の子と一緒に帰った。
「あ、浩司くん。やっと来た」
「ごめん、小雪と話してて遅くなった」
生徒会室に入ると姫乃とあと一人見慣れな少女がいた。ロングの茶髪でスタイルも良い。正直姫乃並みに可愛い人を初めて見た。しかもなぜかどこかで見たことがあるような気がする。初対面だと思うんだが。
「で、そちらは?今日の俺の仕事と関係あるのか?」
「さすが浩司くん。察しがいい!今日の仕事はね、彼女にこの学校を案内して欲しいの。とりあえずほら!自己紹介!」
「こんにちは。倉間小夜です」
「こっこんにちは。柊浩司です」
「もうなんで2人ともそんなに固いの。同級生なんだから敬語の必要ないよ」
「そういえばそうだったわね。改めて倉間小夜。明日から2人と同じクラスに転入することになったの。よろしく」
「こちらこそよろしく」
やばい可愛い。でもここで惚れてはいけない。俺は勝ち目のない戦いはしない主義なのだ。
「じゃあ私これから習い事あるから。浩司くんしっかりね」
「おい待て!俺に1人で案内させる気か!?」
「ごめんね浩司くん。今日はどうしてもはずせないの」
「分かったよ」
姫乃に上目遣いで頼まれて断れる男はたぶんいないだろう。
「ここが保健室。まぁあまり来ることは無いと思うけど」
「大きい保健室なのね。というかこの学校自体すごく大きいよね」
「そうだな。確かに普通の学校よりは大きいな」
色々と学校の中を紹介してる内にだんだんと話すのに慣れてきて今では普通の友達並みに話すことができてる気がする。初めは緊張してまともに話せなかったんだが、倉間さんは以外と話しやすい人らしい。
「そういえば柊くんは高梨さんとはどういう関係なの?」
「幼馴染かな。昔から家が隣で親同士も仲良くて」
「そうなんだ。てっきり付き合ってるのかと思ったわ」
「まさか。姫乃は俺のこと友達としか見てないって」
「そうなのかしら?不躾なこと聞いちゃったわね」
「別にいいよ。よく聞かれるし」
「じゃあここで最後だから帰ろうか」
「分かったわ」
昇降口で靴に履き替え倉間さんと並んで校門を出る。どうやら家は同じ方向らしく校門を出てからも並んで歩く。なぜか倉間さんは校門を出るとポケットからマスクを出してつけていた。
約15分後俺の家が見えて来る。向かいには少し前から建てていた家が建て終わったらしく綺麗な家が建っている。
「私家ここだから。送ってくれありがとう」
「え?ここって?もしかして」
向かいの新築の家を見てみると表札に倉間と書いてあった。
「俺ここなんだけど」
そう言って俺の家を指す。そうすると倉間さんはとても驚いた顔をしていた。
「こんな偶然あるんだ。びっくりしたわ。じゃあまた明日」
「俺も驚いたよ。また明日」
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