初恋
拍手に置いてあった文章を読み返し、少し加筆&手直し致しました。
補足や言い回しの変更ですので、内容に変更はありません。
今日、お父様は領地で暮らす叔父上を手伝うために領地のスタールへ行っていて、家を留守にしています。
私はお母様と庭に近い場所に席を作って刺繍をし、合間にはお茶をしていました。
侍女はお茶を入れ替えると席を外し、私と母の2人だけになりました。
「最近ユリアは大人っぽくなったわね。今まで外出の機会がなかったからかしら?それとも…初恋のせいかしら?」
私の想う人を知っている母は微笑み、嬉しそうに私に言います。
勤めに出るようになってからの彼との出会いが、少なからず私に影響を与えているという自覚があるので頬が赤く染まってしまいました。
「もう、お母様ったら…。そんなお母様の初恋はお父様なのでしょう?今日はそのお話を聞かせて。」
照れ隠しと興味で母に話を振りました。
幼い頃から親しかった二人が、時を経て結ばれた話は屋敷内でもよく語られています。
しかし娘の私でも当の本人たちからその話を聞くことはありませんでした。
「私の初恋はアーノルドでは無いわよ。」
誰もが思ってもみない言葉が母の口から飛び出しました。
てっきり幼馴染の父と母が初恋を実らせ結婚をしたのだと…少なくとも周りの話からはそう思っていました。
驚いて口を開けたままポカンとしている私を見た母はいたずらな笑みを浮かべて言いました。
「あら、意外だった?お父様には内緒よ!私の初恋は『王子さま』なのよ。」
母は自分の初恋の王子さまは、大好きだった絵本『王子さまとお姫さま』の王子さまだと話し始めました。
小さな子にありがちな『絵本の王子さまに憧れた』という話かと思いましたら、一度だけ絵本の王子さまが現れて跪いて母の名前を聞き、手の甲にキスをしてまた会う約束をした…ということでした。
「結局その王子さまとはその後会うことはなかったけれど、その絵本を私に一生懸命何度も読んでくれた違う王子さまと結婚することができたわ。」
お母様は幸せそうに笑っていました。
その絵本は私が幼い頃お母様が何度も読んでくださった絵本なので、私は内容も絵も今でも鮮明に思い出せます。
その王子さまは明るい金髪に瞳は夏の空色を思わせる濃い青色をして…。
あら?私の初恋の『王子さま』も同じ色だわ…と思い、ひとりクスクス笑ってしまいました。
「どうしたの?」
そんな私を見て母は不思議そうに聞きました。
「お母さまの王子さまと私の王子さまは似ているなって思ったの。」