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拍手のお礼(下げた)小話置き場  作者: 音塚 和音
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豊穣祭のベール

以前、拍手のお礼小話としていたものです。

新しい小話と入れ替えたので、以前のお話はこちらに置きます。


『豊穣祭のベール』は紺碧番外『マリアンヌの思い出』&白百合30〜34話の裏話になります。

豊穣祭に身に付けるベールには言い伝えがある。


母から娘へと受け継がれるものを纏えば、その娘にさらなる幸福が訪れるというものだ。

長年のうちに娘に譲る際には母親が刺繍を足すことがいつの頃からされるようになっていた。


ユリアーヌに母が使ったベールがあるのかという問いがあった日、マリアンヌは自分が使うことがなかった、祖母の親友バーバラ様が自分の為にあつらえてくれたベールを、少し古びた箱から取り出していた。


モスグリーンのベールには丁寧で正確な針運びで刺繍がされている。

その刺繍を指でなぞれば療養先での懐かしい祖母とバーバラ様とで過ごした幼い日々が蘇る。

マリアンヌのルーニーの特性を見抜いて、祈願縫いを教えてくれたのもバーバラ様だった。


ベールを広げてユリアーヌのために何の刺繍を足そうかとマリアンヌは考える。

そこへノックと共にドアが開けられ寝支度が済んだ夫のアーノルドが入って来て尋ねた。


「マリーまだ何かしているの。ん?それは何だい?」


マリアンヌは豊穣祭に自分が使うはずだったベールだと答え、それに纏わる祖母とバーバラ様との思い出話しをした。

アーノルドはベールを手に取るとマリアンヌの頭にそっと被せた。


「マリーはあの頃と変わらないな。心も綺麗なままだし、姿もあの頃のままだよ。」


そう言ってマリアンヌの唇にキスを落とした。

普段のアーノルドは想いを口に出す方ではないし、ユリアーヌが娘となってからは歳を重ねるごとに甘い言葉や雰囲気は遠ざかってしまっていた。


「子どもの成長は早いから、またすぐに2人で過ごす生活になるかもしれないな。」


いつもはユリアーヌの男性関係に過剰なアーノルドが、どこか寂しげにそう言うのを聞いて彼は彼なりに遠からず来るその日の覚悟はしているのだと思った。


「そうね。でも私たち2人になるのではなくて、4人にも5人にも…減るのではなく増えるかもしれないじゃない?」


マリアンヌはアーノルドに微笑みを向けると彼の首に両腕を回して抱きついた。

アーノルドはマリアンヌを横抱きにして立ち上がる。


「僕のお姫様は、いつでもとても前向きで本当に愛らしい。」


アーノルドも微笑み、そしてマリアンヌを抱えたまま、彼女の部屋から夫婦の寝室へと続く扉を開けたのだった。

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