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すいか

作者: マシマ真

 子供たちが帰って来たようなので、私は西瓜を切って縁側へ持って行った。


 子供たちは夏休みに入り、毎日、真っ黒に日焼けして遊んでいる。宿題を早めに済ませなさいと言いたい気持ちもあるが、せっかくの愉しい夏休み気分を壊すのも気が引けたので、それはもう少し先になってから言うことにしよう。そんな風に思いながら、縁側へと行くと、そこには誰の姿もなかった。


「確かに誰かの気配がしたのに・・・・」


 私は周囲を伺う。縁側から見える庭に子供たちが隠れているようには見えなかった。家の外に広がる畑にも人の気配はしない。


「またか・・・・」


 この家に嫁いでから、このようなことはよくあることだった。もう十年近く、経っているのに私は同じようなことを何度も体験している。


 この家は夫の実家の農家。広大な畑に手間暇かけて様々な野菜を育てている。都会にも出荷していて評判がいい。この西瓜も夫が丹精込めて栽培したものだ。


私は都会暮らしを捨てて夫と田舎暮らしを始めた。私の実家は都会にあるし、田舎には縁がなかった。田舎暮らしはなじみがないから不安があったのは確かだ。だからなのだろうか?私だけがこの家に気配を感じとってしまう。夫も夫の両親も何事もないように生活している。


 「ネズミや猫だろう」とか、「風が吹いただけだよ」とか、「ご先祖様がこの家を見守っているだけだよ」とか、あまり気にしていないようだ。私は不満を抱きながらも、その言葉を受け入れて納得するしかなかった。


 そのうち、私と夫に子供が生まれた。子供は男の子二人に女の子一人である。都会暮らしだと、ここまで子供を作ることが出来なかっただろうと思う。義母が面倒を見てくれて助かっているから出来たのだろう。私もここでの暮らしに馴染んでいたのだ。


 しかし、私のこの家に潜む何かの気配に対する居心地の悪さだけは変わらなかった。


 特に何をするわけではない。その正体すら明らかになっていない訳だし、それが本当に存在していると証明された訳でもない。いるか、いないかも分からないのだ。ある意味、幽霊よりも悪質である。気配のことを誰かに話しても気のせいだと決めつけられるのがオチだ。


「誰かいるの?」


 私はこの家の暗がりに声をかけた。家からは何の返答もない。子供たちは遊びに出たまま帰ってきていないようだし、夫も夫の両親もまだ畑から帰ってきていない。


やはり誰もいないのだ。外からは蝉の声が聴こえる。でも、この家は何の音も発しない。いや、微かにする風が吹き込む音がある。軒下の風鈴が小さく鳴る。だから、完全な静寂というわけではない。だが、それは私が感じる気配ではない。


 私は西瓜の載せられた盆を持ったまま、立ち尽くしていた。考えてみればバカな話である。誰のいないのに勝手に気配を感じて、勝手に西瓜を切って・・・・・。私は苦笑した。何もなくても私が気配を感じてその気配のために西瓜を切ったことだけは確かだった。


 まあいい。この西瓜は間もなく帰ってくるだろう子供たちのために取っておいてあげればいいだけだ。そう思い、私は家の奥の暗がりに目を向けた。


そして、もう一度、気配に向かって、誰何(すいか)した。


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