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異界の魔神 【改訂版】  作者: 飛狼
1章 魔神誕生
7/51

7.廃墟の塔と黒い番犬(5)


 ――さて、どうするかな。


 外の世界で暮らすのは、思ってたより厳しそうだった。問題は俺が最弱魔神なのと、外は危ない生き物で一杯だということ。ちょっと出歩いただけで、白犬にワニダコとカブトにと、やばい生物に遭遇した。外は本当に危険溢れる世界だった。

 

 要は俺のレベルを上げて強くなれば良いだけなのだが……闘い方を考えるしかないか。といっても、取りあえず使えるスキルは【神オーラ】のみ。それも光輝くだけで、周りにどんな影響を与えてるのかよく分からない。

 

 ――ん、ちょっと待てよ。そういえば、称号があったな。


 ステータスを呼び出し、頭の中に思い浮かべる。


<恐怖の大王>

見渡す事ができる範囲に畏怖をあたえる。


 ――これって、何か作用してるのか?


 試しにステータスを思い浮かべたまま、称号に意識を集中してみる。すると、微かにポワァンと波動のような物が俺から放たれた。


 ――おっ、これは使える……のか?


 あまりの弱々しい波動に、微妙な感じしかない。


「……無いよりかは増しか」


 レベルが0だから、仕方がないといえばそうなんだが。まぁ、これからの事はスイカでも食べながら考えるとしよう。良し、そうと決まれば、塔の3階から景色でも楽しみながら食べるか。あの白犬も俺に驚いていたから、もう何処かに行っただろう。


 俺は2つに割れたスイカを手に持ち、またしても外へ這い出る。スイカをふたつ両脇に抱え塔の2階に出てみると、外は陽が傾き夕刻になっていた。


 ――おぉ……これは良い感じかも。異世界の夕陽を眺めながらスイカを食べるのもおもむきがあるよな。

 

 喜び勇んで階段を駆け上がろうとしたが、広間の奥の暗がりで白い犬がむくりと身を起こしたのを目の端で捉えた。


 ――何だ、まだ居たのかよ。


 寝床と思われる毛布の横で、相変わらず警戒の唸り声を上げていた。だが、今度は前回が脅しになったのか妙に大人しい。


 ――朝の光る俺に、よっぽど吃驚したのかなぁ。


 そんな事を考えながら眺めるが、白犬の居る奥は夕暮れ時が重なり暗くてよく見えない。


 ――そうだ。【神オーラ】を全身でなく、指先に集めればポイントの減りも少なくならないかな。

 

 【神オーラ】と唱えて指先に集中すると、何となくできた。ポイントの減りは微妙だが、若干ゆっくりとなってるような気もする。

 指先から出る光は懐中電灯のように、特定の方向を明るく照らす光。念じると光量の調節もできそうだった。

 

 最大にすれば、レーザーとまではいかないが、スタングレネードぐらいには……いや、あれは音と光の両方で敵を無力化するんだっけ。ま、ちょっとした閃光弾、敵を怯ませるぐらいにはなりそうか。


 そこで、指先の灯りを白犬に向けてみる。当然、最大の光量でだ。白犬はびくりと体を震わせ顔を伏せた。これは使えるかと思ったが。


 ――駄目だなこれは。


 何故って、俺も眩しくてまともに見ていられないから。ちょっとがっかりして、見える明るさまで光量を落とす。と、何故、白犬が大人しかったのかその理由が分かった。


 ――そうか、もう動けなかったのか。


 明かりを照らしてよく見ると、白犬の体は確かにでかいが大分痩せているように見える。あばら骨はくっきりと浮きあがり、もう何日も満足に食事をしていないような感じだった。もう動くだけの元気もないように見えた。

 こいつには二度も襲われたが、何だか悲しくなってくる。

 その時、俺の脳裏に浮かんだのは、幼い頃に家で飼っていた犬の姿だった。


 ――そういえば、ユキも真っ白な犬だったな。


 俺が物心がつく頃に、両親が情操教育の為にと知り合いから貰ってきた仔犬。食事の時も寝る時も、何時も一緒に居た犬だった。だが、俺が中学生の時に天に召されたのだ。


 ――あの時はショックだったっけな……。


 そのユキと目の前の白犬が重なって見えた。


「……仕方ない。お前が襲ってきた事は水に流してやるよ。こうして、俺も無事だったからな」


 ため息と共に白犬に声を掛け、ゆっくりと歩み寄る。


「ほら、ひとつ食べるか」


 半分に割れたスイカをひとつ、白犬の方に転がしてやる。が、ちらりとスイカを見て、また俺の事を睨み「ウゥゥ」と唸り声を響かせた。


「俺は何もしないから心配するなよ。ほら、腹が減って……あっ!」


 ゆっくりと近付いていた俺は、もうひとつの事に気付いたのだ。

 横にある毛布のようなぼろ切れだと思っていた物。それは、目の前の白犬を更にひと回り大きくした犬の死骸だったのだ。死亡してから既に何日も経っているのだろう。近付くにつれて、腐敗臭が匂ってくる。


 ――そうか、お前はこれを守っていたのか?


 この白犬の身内――もしかすると、母親だったのかも知れないな。死んだ事に気付かず寄り添っていたのだろうか? 

 いや、分かっていても、認めたく無いのだろう。


 俺にも覚えがあった。

 両親が旅先で事故死したのは、俺が25歳の時だった。突然の事に呆然とし、葬式が終った後でも、どうしても信じられなかった。自分以外は誰もいない家に居るとき、母親の「ほらまた散らかして、さっさと片付けなさい」と小言が飛んで来るような気がしたものだ。

 母親が生きていた時は、煩わしく感じていた小言も、亡くなってみると妙に懐かしく涙ぐんだものだった。


 ――だから、お前の今の気持ちもよく分かるぞ。


「……だがな、お前がそうして傍に寄り添っていても、お前の母ちゃんは喜ばないぞ。もし、お前が同じように此処で朽ち果てたら、母ちゃんは喜ぶどころか大いに悲しむ事になるだけだ」


 この白犬に、言葉が通じるとは思ってはいない。だけど、それでも俺は、言わずにはいられなかったのだ。

 そして、ゆっくりと、優しく語り掛ける。


「だからほら、そのスイカを喰って早く元気になれ。それが母ちゃんの供養にも……あがぁ、があぁぁぁ!」


 それは歩み寄り、傍らにある死骸に近付いた時だった。またしても、首筋に灼熱の痛みが襲って来た。そう、白犬がその鋭い牙を突き立てたのだ。


 ――この馬鹿犬がぁ!


 そこで、俺の意識はまたもやプツリと途切れた。




 目を覚ますと、そこは真っ白ないつもの空間。


「くそっ、あの馬鹿犬! 優しくしてたら付け上がりやがって、仏の顔も三度までだ。今度は本当に頭にきたぞ!」


 【神オーラ】を全開で身に纏い、称号【恐怖の大王】の波動を撒き散らして、外へ、あの馬鹿犬の元へと突撃する。

 だが――


「クウゥゥン……」


 馬鹿犬が亡骸に寄り添い、悲しげな鳴き声をあげていたのだ。


 ――あぁ、もう何だよお前は……。


 途端に、俺の怒りが急速に萎んでいく。

 馬鹿犬の哀しくも痛々しい姿を見せられ、怒る気力が失せてしまったのだ。


 ――分かったよ。俺は不死身だ。お前が根負けするまで、何時までも付き合ってやるよ。


「いいかよく聞け、馬鹿犬。そいつは……お前の母ちゃんは、もう死んでるんだよ。お前が認めてやらないと、母ちゃんの魂もお前を心配して成仏できないだろ。それがお前の望みなのか、違うだろうが!」


 俺は大声でそう言うと、気力を振り絞り威圧を乗せて睨み付けた。

 すると、馬鹿犬は驚いたように目を見開き、両耳と尻尾もぺたりと垂れ下がる。そして、力無く項垂れると少し後ずさった。


 ――ん、こいつ、俺の言ってる事が理解できてるのか?


 意外と頭が良いのか、それとも【神オーラ】や【恐怖の大王】に怖れただけなのか。いや、ただ単に、俺の勢いに驚いただけなのかも知れない。だが、俺の話をちゃんと理解していると信じる……いや、信じたい。


「解ったか。そしたら、今からお前の母ちゃんを埋葬しにいくぞ」


 俺がそう言うと、馬鹿犬が不思議そうに俺を見上げた。俺にはそう見えたのだ。


「あっと、その前にお前はそのスイカを食べろ……少しでも元気になって母ちゃんを見送らないといけないからな」


 数瞬、躊躇するも、俺の言葉を理解しているのか、今度は大人しくスイカを平らげた。もっとも、ひと口でペロリだったが。しかし不思議な事に、スイカを食べると見るまに元気になっていく。


 あれ、何も考えずに食わせたが、もしかして異世界のスイカには変な効能でもあるんだろうか。ま、今は良いか。それよりも今は……。


 ――ちょっと、グロいな。


 格好つけて言ったものの、半ばミイラ化した死骸を前にして少し腰が引けてしまう。が、こいつの前でそんな素振りを見せる訳にはいかない。


 ――えぇい、ままよ!


 死骸に手を伸ばし担ぐ。そして、外に向かってずるずると引き摺り歩く。


 ――おい、そこの馬鹿犬。ちょっとは手伝えよ!


 何故か、馬鹿犬は黙って後ろを付いてくるだけだ。神妙な顔(俺にはそう見えた)をしているが、二人しかいないんだから喪主だからといって手伝わなくて良い訳でもないぞ。


 ――あっ、そうだ。神オーラを消しとかないと。


 指先に明かり代わりの【神オーラ】を僅かに灯すだけにする。

 塔の外へと運ぶ頃には、精も根も尽き果て掛けていた。

 途中で何度放り出そうと思った事か。


 ――ホントに体力とか無さすぎの、貧弱魔神だよ。


 塔から外に出ると、辺りはすっかりと陽が落ち月明かりに包まれていた。日本の街育ちだったから、月の光の明るさにちょっと吃驚。


 ――もう夜か……。


 辺りも暗くなってきたし、悪いけど近くに墓を作らせてもらおう。


 塔の出入り口のすぐ横に穴を掘ることにするが、道具が何もない。廃墟の集落に行けば、何か拾えるかも知れないものの、暗くなってから行くのもぞっとする。

 仕方ないので、折れた剣の柄を使って穴を掘る。意外と土が固く手こずったが、時間を掛けてようやく犬の死骸が入る大きさの穴を掘る事ができた。

 その間も、この馬鹿犬は眺めているだけで、全く動こうとしない。


 塔から降ろす時も穴を掘るのも手伝わないし、何を考えてるのか、この馬鹿犬は……まあ、こいつにも色々と思う所が有るのだろう。そういえば、俺も両親が亡くなった時は、何もやる気が起きなかったしな。悲しみも行き過ぎると、気力を無くしてしまうものだ。こいつも、そんな感じなのだろう。


 母親らしき犬の死骸を穴に横たえて、上から土を掛けようとした時だった。


「ウオォォォン……」


 今まで黙って俺の作業を見守っていた白犬が、初めて悲痛に満ちた遠吠えを繰り返す。


「……大丈夫だよ。天に召されても、天国からきっと、お前を見守っていてくれるさ」


 最後に墓標がわりの剣の柄を盛り土に突き刺し完成した。


 簡素でみすぼらしいお墓だが、今はこれで精一杯だ。だから勘弁してくれよな――残った半分のスイカを墓前に供え、手を合わせて祈る。


「えぇと……この馬鹿犬、いや白犬の事は心配しなくて良いと思うよ。だからあんたも、迷わず成仏してくれよな」


 どうもこういうのは苦手だ。上手く言葉が出てこない。俺の気持ちは伝わっただろうか。


 ――そうだ。


 一応は俺も神の1柱? なのだから――全身に【神オーラ】を纏う。そして手を合わせ、母犬の来世での幸せを祈った。

 すると驚くことに、墓の中から幾つもの細かい光の粒子が、キラキラと輝きながら浮き上がって来るのだ。その光の粒子はやがて、渦を巻きながら満天の星空の中、天に昇って逝く。

 何とも幻想的な光景だった。思わず見とれてしまう。


 ――あの光は、もしかして母犬の魂だったのだろうか?


 ふと横を見ると、白犬が天に昇る光を見上げ涙を流していた。

 と、その時だった。


『ありがとうございます。娘をどうか、宜しくお願い致します』


 ――えっ、何?


 頭の中に、優しげな女性の声が響く。これは【叡智の指輪】か?

 いや、違う。もしかして、天に昇っていく母犬の魂の声が……。


「……って、その前に、こいつメスだったのかよぉ!」


 俺の絶叫が夜空に吸い込まれると同時に、天に昇った光の粒子、母犬の魂も、星空に融けるように消えていった。


「……おい、どうする。お前の母ちゃんに頼まれたし、面倒をみてやるから一緒に此処に住むか?」


 夜空を見上げたまま、横にいる白犬に声を掛ける。しかし、横から聞こえるのは「ガツュ、ムシュ」と何かを噛み砕く咀嚼音。


 ――ん、何の音だ?


 ちらりと横を見る。


「あぁ、それはお前の母ちゃんへのお供え物なのに、何をいきなり食ってんだよ! そういえば、俺もまだ一口も食ってないのに!」


 横で白犬が、お供えのスイカを食べていた。

 あぁ、全部喰ってるよ、この馬鹿犬。


「俺にも寄越せよ、この馬鹿犬があ!」


 で、結局俺は一口も食べられなかった。


 ……まあ、良いか。こいつも、何日も食べてなかったみたいだしな。明日また、取りに行けばいいさ。

 それに、今は食べてる間だけでも、悲しみも薄れるだろう。お前も早く元気にならないとな。それが、お前の母ちゃんの望みでもあるから。


 俺は頭上に浮かぶ満天の星空を眺め、そんな事を考えていた。が、ふと視線を感じて白犬を見ると、また俺を不思議そうに見詰めていた。

 それは、「何故私達にこんなに良くしてくれるの?」と、尋ねてるような気がした。だから、


「さぁな、俺にも分からんよ。ただの気まぐれだ」


 照れ隠しの笑いを浮かべ、俺は答えたのだ。




 その後、俺たちは塔の2階に戻ると、自己紹介もかねて改めて向き合う。目の前にいる白犬は、ブンブンと音が聞こえそうなほど、尻尾を左右に振りながら座っている。

 どうやら母犬の事で、随分と信頼を得られたようだ。


「で、改めて聞くが、俺と一緒に此処に住むか?」


「バウ!」


 即座に返事をくれる。どうやらこれは、イエスのようだった。嬉しそうに白犬が「バウバウ」言っている。


 俺も嬉しいよ。これでボッチから解放されるから。


「それなら、名前をつけないとな……よし、お前の名前は白いからユキだ!」


「バウ?」


 昔飼っていた犬と同じ名前をつけたのだが――なんか不満そうだ。


「良いだろ。呼びやすい名前が一番なんだよ」


 俺がそう言うと、ユキが嬉しそうに飛び掛かって来て、俺の顔を舐め回す。不満というより、名前の概念が無かったようだ。


 そりゃそうか。野性の獣に名前なんか無いしね。


「わっ、ちょっ、ちょっとユキ、待ちなさい……」


 際限なく舐め回すユキには閉口する。


「ユキ! 落ち着けって。俺の自己紹介もさせてくれよ」


 そう言うと、分かってくれたのか、目の前でちょこんと座って大人しくしてくれる。でも、どこかそわそわと落ち着きが無く、俺に飛び付きたいのを我慢してるような感じだ。


「俺の名前はタクミ。一応は魔神なんてものやってる」


 魔神をやってますと言うのも妙な感じだ。思わず笑ってしまう。


「出会いは最悪だったが、これからは仲良くしよう。よろしくなユキ!」


 俺が言い終わるや否や、ユキは「バウ!」とひと鳴きして俺に飛び付いて来た。

 それからは押し倒され成すがまま、されるがままに蹂躙された。顔中どころか体中を舐め回されてしまう。体の大きさも、力の強さも俺の数倍。抵抗できるはずも無く、全身が涎だらけになってしまった。挙げ句に、そこら中を転がされる始末だ。ユキに戯れ付かれるだけで、あの空間に戻りそうだ。

 もう、どうしようもない。ユキの好きにさせるしかない。

 良く考えてみたら、母親を亡くしユキも淋しかったのだと思う。だから……俺もユキもお互いボッチ同士。これからは仲良くしなきゃな。


 俺は抵抗を諦め、その間にステータスを呼び出し、残ポイントの確認をする。後悔はないが、今回の事でかなりポイントを使ってしまったからだ。


 ――あっ、やっぱり。


 神力ポイント残りは…………98。あぁあ到頭100を下まわったよ。まっずいよなぁ。これでたったひとつのスキル【神オーラ】も、使えなくなるよ。


 俺はがっくりと項垂れたが、そこである事に気付いた。


 ――あれ、神力の所が点滅しているなぁ。


 神力の項目に意識を集中すると、スキル覧の一番上に【祝福】という項目が現れていた。しかも、その項目が点灯しているのだ。

 

 ――何故?


 レベルは0のままなのに、何故か点灯していた。よく分からないが、取りあえず詳細を開いてみる。


<祝福>

忠誠を捧げた者に祝福を与える。

祝福を与えられた者は眷属となり、能力や才能が解放される。

必要 P 50


 ――ん? 忠誠ねぇ……あっ、そうか!


 今まで俺に忠誠を捧げる存在がいなかったから使えなかった。そういう事だろう。今はユキが……だから使えるようになったんだ。

 しかし、俺の祝福はやっすいなぁ。仮にも神の祝福だろう。安すぎると思うけど、大丈夫かよ。でも、俺への忠誠が必要だから、誰にもという訳でもない。そう考えると、ポイント数が低いのも妥当なのかもな。

 うぅん、しかし残ポイント98で必要ポイントが50か……。くぅ、残ポイントがぁ! このままではポイント貧乏に……。


 しかし迷う前に、既に俺の心は決まっていた。


 そうだ。ユキに祝福を与えるのだ。だって眷属って、家族みたいなものだろう。ぼっちは嫌だもん。


 未だに、俺に戯れ付くユキ。そこで、俺は真面目な表情で話し掛ける。


「ユキさん、今から重大な発表があります」


 ユキはきょとんとするが、何かを察したのか俺の目の前にきちんと座り直した。


 おっ、意外と可愛いぞ。見た目は狂暴そうで怖いけど。


「えぇと、今からユキに祝福を与えようと思います」


 ユキが不思議そうに、小首をコテンと傾げる。うお、何だか可愛いぞ。見た目は怖いけど。あっ、さっきも言ったか。


「祝福を与えられると、ユキは俺の眷属……まぁ、家族のようなものになります」


 ユキは尻尾をふりふり嬉しそうに見詰めてくるが、本当に分かってるのかよ。


「それでは、祝福を受けますか? 受けるなら返事をして下さい」


「バウ!」


 それは即答だった。


 本当に大丈夫かぁ。しかし俺も嬉しいし、ま、良いか。


「それでは、さっそく今から祝福を与える事にする」


 俺は両手を、天に向かって差し上げる。


「我への忠誠に報いるため、汝に魔神の祝福を与えん!」


 本当は念じるだけで良いみたいだけど、一応は神様として格好良くしてみた。


 すると辺り一面が輝き、広間一杯に光が溢れる。その光は徐々に集束して、ユキを包み込んでいく。

 まるで、ユキが光のまゆに包まれているようだ。しばらくの間は、光の粒子がユキの周りをくるくると回っていた。


「ユキ――」


 焦れた俺が声を掛けようとした時、光のまゆにピシリとひびが入る。そして、一気に弾け飛んだ。

 その中から現れたのは――あれ、俺の目がおかしくなったのか?

 白かった体毛は漆黒に染まり、体格も一回り大きくなっていた。

 広間の中央で、疲れたのかユキらしき生き物が眠っている。


 ――ユキだよな?


 唖然とする俺に、今度は【叡智の指輪】の声が届く。


《マスターノ封印ガ一部解放サレマシタ。マスターノ能力モ一部解放サレマシタ》


「んっ、えっ、何?」


 どうやら、俺のレベルが上がったようだった。


 ――戦いらしい戦いもしていないのに何故?


 レベルやステータス、それに記憶に無い封印。謎は深まるばかりだった。

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