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異界の魔神 【改訂版】  作者: 飛狼
1章 魔神誕生
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6.廃墟の塔と黒い番犬(4)

すいません。昨日は酔っ払って投稿するのを忘れてました。


 暫く座って休憩していると、ようやく落ち着いてきた。最後にもう一度深呼吸を繰り返し息を整え立ち上がる。


 ――取りあえずは辺りの探索だな。


 背後を振り返ると、あのワニダコは姿を消していた。


 沼の中に、水中へと潜ったのだと思うが――ワニとタコを足したような姿。どんな進化を辿ったらあんな生き物になるのだろう。本当に訳が分からん。さすが異世界だな。

 だが、あのような生き物ばかりいる世界なら、この先が思いやられる。日本で生きてた頃は事なかれ主義を通してきた。それは今も基本は変わらない。とてもではないが、あれらの生き物と戦ってレベルを上げるなど、俺には出来そうにもない。いくら不死身であろうとも……だ。


 俺はまたしても深くため息をつく。


 昔からため息をひとつすると、幸せがひとつ逃げてくとか言うけど、この世界に来てからはため息ばかりだよなぁ。


 そんな事を考えつつ、前方へと目を向けた。

 塔から延びる道は森の中へ、奥の方まで続いている。しかし、やはり人が使わなくなり、かなりの時が過ぎているのだろう。ここもまた、森に侵食され飲み込まれ掛けていた。周りを見渡しても樹木や丈の高い雑草が密生し、俺のような子供の体ではとても分け入れそうにない。


 ――やっぱり、ここからしか進めそうにないか。


 まだ僅かに残る、石畳の痕跡を辿って歩くことにする。かつて人の往来があったであろう道も、今は張り出す枝や雑草に覆われていた。だが、まだ僅かに通れそうな隙間があったのだ。


 ――逆に俺の小さな体なら、何とか通れそうか?


 隙間に体を押し込み、伸び放題に荒れる雑草を掻き分け進む。苦労しながらも、石畳の痕跡を辿り数十メートル進むと唐突に視界が開けた。

 そこは他と同じように草が生い茂り荒れ果てているが、ちょっとした広場になっていた。中央には、何かの石像が据えられていた思われる台座らしき物も見受けられる。だが、石像自体は粉々に砕かれていた。見た感じは、祭儀場跡のようにも見える。


 ――何かを祀っていたのかなぁ。


 台座の前に立ち、まだ人がいた頃を想像してみる。それは石像の傍らに櫓を組み、その周りで皆が楽しそうに踊っている盆踊りのような光景。


「……異世界に盆踊りは無いかぁ……」


 俺は苦笑混じりに呟き、周囲を見渡す。

 円形に広がる広場は、直径にして30メートルほど。その周りを囲むように、崩れ落ちた小屋らしき物がちらほら見える。中には焼け落ちたのか、黒く煤けた木材が転がっている場所もあった。

 昔は沢山の人が暮らす集落だったのかも知れない。しかし今はもう、森に全てが飲み込まれ、朽ち果て残骸しか残っていなかった。少し物悲しさを覚えながら、朽ちた家屋かおくを見て回る。


「おおっ、あれは!」


 俺が見付けたのは一口(ひとふり)の剣。刃渡りは50センチぐらいの小剣だ。それが、周りの朽ちた家屋の中でも一際ひときわ大きな家屋――燃え落ち煤けた木材、その中で起立したように立つ柱に突き立っていたのだ。


 ――ここでも争いがあったのだろうなぁ。


 そんなことを思いつつ、その小剣の柄を持ちをぐいっと引き抜く。途端に柱がばらばらと崩れ、あっさりと小剣を手に取る事ができた。

 柄の部分は何かの革が巻かれ、まだしっかりとしている。しかし、刀身は赤茶けた錆に覆われ、もはや刃物としての用途は成さないようにも見えた。それでも、何となく嬉しいものだ。手にした剣を見詰め、にやりと笑ってしまう。

 日本では銃砲刀の所持は、法律で禁止されている。だから、俺も刀剣の類いを今まで手にした事はない。

 しかし、男ってのは不思議なもので、こういった武器を手にすると興奮してしまうものだ。


 ――文明の発展と共に、大昔に捨て去った狩猟本能が甦ってくるのかねぇ。


 そして、俺も一応は男。初めて手にした本物の剣に、興奮して童心に返ってしまう。


「エイィ! トゥ!」


 まるで子供のように振り回していた。高校時代には、格技の授業で剣道を少し齧ったこともある。だからその時の事を思いだし、剣を振るう。


「メェェェン! あっ!」


 力いっぱい振り下ろしたはずみで、剣がすっぽ抜けたのだ。そこで、ようやく我に返った。


 ――誰も見てなかっただろうな?


 あまりの大人気ない振る舞いに、ちょっと気恥ずかしい。でも、今の俺は子供の姿だし有りか。

 周りを見渡し誰もいないのを確認し、照れくさく思いながら剣を拾いに行く。と、そこで、さっきから匂っていた甘い香りが、強くなっているのに気付いた。


「……この奥か?」


 塔とは真反対。すっぽ抜けた剣は広場の端に飛んで行ったのだ。その奥から強烈に甘い匂いが漂ってくる。

 剣を拾うと、奥に向かって進んでみる事にした。


「こりゃ良いや……」


 剣を振り回し、隙間なく生い茂っていた草花を薙ぎ倒す。さっきまでよりは楽に進める。

 そのまま進み、集落の外れまで来ると……。


「これは、果樹園か?」


 高さ5メートルぐらいの樹木が、数多く等間隔で並んでいた。そこに広がるのは、以前は集落で管理されていたであろう果樹園。今も、高さが2メートルぐらいの枝に、鈴生りに果実が実っていた。


「……スイカ?」


 太い木の枝を撓らせ、見事な果実がぶら下がっている。深い緑色に縦縞の模様が入る果実。大きさといい丸い形も、どう見てもスイカに見える。


 ――ん? 待てよ……確かスイカって、畑で収穫されてたはずだよなぁ。樹木に鈴生りで実るって……ま、ここは異世界だしな、有りなのか?

 うぅん、気になるよな。どんな味なのか?


 という訳で食べてみる事にしたのだが……。


「くうぅ、後ちょっとなのに……」


 スイカが実る枝の下で剣を伸ばすが届かない。飛び跳ねても、剣先が微かに触れるだけで取れそうにない。


 ――駄目かぁ。しかし、諦める訳にはいかない。そう、俺には異世界のスイカを食するという使命が有るのだぁ! 


 などと馬鹿な事を心の中で叫び、頭上のスイカを見上げる。


 ――やっぱり、登るしかないよなぁ。木登りなんて、小学生の頃以来か。


 腰の辺りでローブを縛る帯に、剣を差しさっそく登ってみる事にする。樹木の幹は両腕を伸ばしても届かないほど。結構な太さがある。幹の表面は硬く、つるつるとしていて足掛かりになりそうな――よく見ると、膝ぐらいの高さに瘤のようなものがあった。そこに足を乗せ、頭上の枝に思い切って飛び付いたみた。


「よっ!」


 太さが30センチぐらいの木の枝に、ぎりぎり手が届く。


「よしよし、後は――」


 しっかりと枝を掴むと、後は鉄棒の逆上がりの要領でくるり回転する。そして、枝の上に座る事に成功したのだ。

 意外と俺もやるもんだと自分を褒めながら、得意気に周りを見渡す。ちょっと気分が良い。


 ――それにしても大丈夫かなぁ、この枝。折れたりしないよな。


 2、3度揺すって確かめるが、しっかりとしたものだった。それも当然だ。この枝には10個ほどの大きなスイカが実っても、びくともしていないのだから。

 枝に跨がり体をずらし、ゆっくりと進む。見事に実ったスイカを目指して。


「やっぱりスイカだよなぁ」


 スイカに似た果実を両手で掴み、ぐいっと捻ると簡単に取る事ができた。叩いてみると、ポンと中身の詰まった小気味良い音がする。


 ――うん、美味そうだ。


 で、結局、ふたつのスイカをもいだのだが、そこで途方に暮れる。


 ――えぇと、どうやって降りよう……。


 両脇にスイカを抱えて動けなくなっていたのだ。


 ――俺は猿か! 転生して頭まで馬鹿になったのかよ!


 飛び降りれば良いだけなのだが、下から見て大した高さじゃ無いと思っても、上から見みるとかなり高く感じたりするものだ。


 ――うぅんと、どうしよう。参ったな。投げ落としたら、この高さだと潰れてしまいそうだし……もうここで食べるか。


 と、枝の上に座り、じたばたと考えていると、「ギチギチ」と妙な音が聞こえてきた。

 音が聞こえる方向に目を向けると……。


「ん、何?」


 俺が跨がる枝先にそいつが居た。いつの間に現れたのか、黒く光沢のあるボディーに力強く伸びた角。そう、昆虫の王者カブトムシが。

 しかし……。


 ――ちょっと縮尺がおかしいのですが? 体長が1メートル程ありますけど……何か、この世界は巨大生物の世界なのか。あの白犬といい、あのワニダコも。出会う生き物全てが大きく感じるのは気のせいですか?


 などと、ぶつぶつ文句を言ってる間も、「ギチギチ」鳴き声を響かせゆっくりと近付いて来る。


 ――くっ、背に腹は変えられない。


 残りポイントは少ないが、【神オーラ】のスキルを発動させた。だって、どうしてもスイカが食べたいから……。


 ――どうだ、驚いたろう。そうだ、もっと驚け。そして、どっかに飛んで行ってくれぇ。


 しかし、光輝く俺を見て、僅かに動きを止めるも、カブトはまた「ギチギチ」鳴きながら近寄って来る。


 ――あれ、おかしいなぁ。もしかして虫だけに、驚いたり恐怖を感じたりする感情が無いのか?

 くそ、こうなったら――右手に抱えるスイカを放り投げ、腰に差した剣を引き抜いた。それでも、左に抱えたスイカは離さない所が、俺の食い意地の張った所なのだが……。


「そおぉりやあぁ!」


 掛け声も勇ましく剣を振り下ろす。が……。


 ――キンッ!


 辺りに響く甲高い金属音。

 カブトがつので、あっさりと剣を弾いたのだ。

 そして信じれない事に、手に持つ剣の刀身が、根元からポッキリと折れてしまった。


「えっ、うっそおぉぉ!」


 当然だ。拾った剣。長い間、風雨に晒され刀身を錆び付かせた剣なのだから。既に中まで腐食していたのだろう。そんな剣を、信用する方が馬鹿なのだ。


 狼狽える俺に、これ幸いとカブトが突っ込んでくる。後は、当然の如く物事は進む。


 目前に迫るカブトの尖ったつの

 それを避けようとする俺。

 そして、大きくバランスを崩し枝から落ちる。

 地面にぶつかった衝撃と、後から降ってきたスイカのダブルパンチ。

 そこに、カブトが角でとどめの一撃を。

 角の尖端が、俺の腹にぐさりと突き刺さる。まるでマニュアルのような流れ作業だ。


「痛あぁぁぁい!」


 森に響き渡るのは俺の絶叫。灼熱の痛みに耐える俺の目に映るのは、細かい光の粒子となり消えていく俺自身だ。


 ――あっ、そうだ。服装を……動き安くて格好良い……。


 そこまで考えた所で、またしてもプツリと俺の意識が途切れた。


 で、目覚めると何時もの白い部屋の中で、スイカと刀身の折れた剣の柄が俺と一緒に転がっていた。


「……散々苦労してスイカと剣の柄だけかよ!」


 しかし、持ってた物はこの空間に一緒に戻るのか?

 【叡智の指輪】に聞いてみると、『マスターガ触レテイタ物ハ、許可サレタ物ト判断サレマス』との事。


「まぁ、それは良いけどさ……」


 俺は自分の服装を、改めて眺める。


「何故ジャージ?」


 確かに動きやすいが……そのジャージは、見慣れた紺の体操着。白のラインが入り、ご丁寧に名前入りのゼッケンが前後に縫い付けられている。


「……これって、もしかして高校時代の?」


 そう、消滅する直前、俺は剣を振り回して高校時代を思い出していた。 


 ――きっと、そのせいだ。


「くぅ、アニメや特撮戦隊ものコスチュームを色々考えていたのに……消える前の激痛の中で、あれこれ想像できるかよぉ!」


 俺の嘆きの絶叫が、小さな俺の世界でこだまする。


 そして、今回の収穫は半分に割れたスイカと、刀身の無い剣の柄がひとつ。


「はぁ…………」


 また、俺は深くため息を吐き出す。

 こうして、俺の最初の異世界探索は終わったのだ。


 ――あっ、幸せがひとつ逃げていく……。


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