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異界の魔神 【改訂版】  作者: 飛狼
2章 世界樹との邂逅……そして
36/51

3.木精と森の民(3)


 ――ジジジ、ジジジ。


 まだ朝の早い時間、塔の階段を一階へと降りて行くと、薄暗がりの中にうず高く積まれる剣や槍などの武器類が目に入る。それらは、突然現れた普人族から取り上げた物だ。


 ――ジジジ!


 近くにある剣を手に取ってみた。

 大振りの両刃の剣。刀身は1メートル近くあり、手に持つとずっしりとした重みを感じる。

 意外にというか、鞘と剣帯まで入れるとかなりの重量だ。

 試しに剣帯を腰に巻いて、剣を吊るしてみた。

 おっと……体のバランスが取りにくい。それに、体を動かすのにもかなり邪魔になる。


 ――ジジジ、ジジジ。


 小さな体では、鞘の先が地面を擦ってしまうのだ。物語の主人公みたいに、剣を片手に冒険をなどと夢想したけど、今の子供な俺では無理だと諦めるしかない。

 もっとも、冒険といってもあまり危ない事はごめんだけど。

 剣など今の俺には必要ないと、剣帯ごと外して武器の山の上へと放り投げた。


 ――ジジジ!


 あれから――この世界の人間、普人族との争い。その後の、俺たちの世界『アルカディア』が急激に成長した日から、既に3日が過ぎていた。

 あの犬っぽい――俺にはコボルトにしか見えない。獣人の連中も、放っていたらいつの間にか姿を消していた。

 成り行きとはいえ、助けてやったのに礼のひとつもない。こっちの世界の人間には、礼儀とかは無いのか。誰か、きちんと礼儀作法を教えてやれよ。

 この先、異世界人と上手く交流していけるのか、不安になってくる。


 ――ジジジ、ジジジ。


 そして、この3日の間に、河童たちはこっちの世界と『アルカディア』を何度も行き来し、様々な物を持ち込んでいた。

 中でも傑作だったのが、一抱えもある大きな岩をゲロゲーロが大事そうに運んでいたので、「何故そんな岩を」と尋ねてみると、その岩は彼の寝床だそうだ。毎晩、その岩の上で丸まって寝ないと、眠れないとの話だった。

 ゲロゲーロのくせに、なんとも繊細な心の持ち主だと笑うしかない。丸くなってと言うが、それ以上丸くなると寝てる間に転がり落ちそうだけどな。


 ――ジジジ!


 そんな訳でこの3日間、ゲロゲーロを始めとする河童たちやギョーは忙しそうにしていた。ユキはといえば、相変わらずの天然魔犬ぶりを発揮して、そこらじゅうを走り回っている。家族が増えた事が嬉しいのか、おおはしゃぎだ。河童たちがせっかく運んだ物を、また向こうに戻したりと、本人は真面目に手伝ってる積りだろうけど、周りからは邪魔をしてるようにしか見えない。

 とにかく、俺の家族けんぞくたちは、そんな感じだった。


 ――ジジジ、ジジジ。


 ただひとつの問題を除いて……。


 俺はくるりと後ろを振り返る。途端に……。


「ジジジ……ギチギチギチ!」


「だあぁぁ! さっきからホントに……分かってるって!」


 俺の後ろを引っ付くように歩くその問題が、勢い込んで訴え掛けて来る。

 そう、その問題とはキングだった。


 ――本当に煩いよ。


 この3日の間、常に俺の側から離れようとしない。挙げ句に寝てる時まで、俺のすぐ横で「ジジジ」と煩くがなる始末。

 これには、さすがにユキの怒りに触れ、追い払われていたけど……それでも、少し離れた所からこっちを窺っていた。

 完全にストーカー状態。もう、勘弁して欲しい。キングがこんな面倒臭いやつだとは思わなかったよ。


 でも、キングの言いたい事は既に分かっている。沼の近くにある果樹園から、スイカの木を『アルカディア』に移植したいのだ。


 ――まぁ、キングの気持ちも分かるけどさ。


 周りでは、河童たちが楽しそうに思い思いの物を運んでいるのだ。

 自分たちも、あのスイカの木を運びたいと強烈に思うのも頷ける。でも、あのスイカの木は特殊な物らしくて、移植するには木精の手を借りる必要があるとの話だった。


「別に意地悪してる訳じゃないから。今はここから離れられないだろ」


 【叡智の指輪】が言うには、『アルカディア』はまだ完全な世界では無いらしい。俺が封印されている事もあるが、それ以上に世界の元となる元素が圧倒的に足りないらしい。

 今ある元素、光と闇は俺が、大地と水と風はユキたち家族けんぞくが、各々産み出してるとの事だった。それ以外の元素、火や今問題になってる木の元素等は新たに取り込まないと駄目だと言われた。だから、件の木精を探しに行くのに嫌もない。俺の新たな家族けんぞくに迎えるかは、その時になってみないと分からないが、取りあえずは手を借りたいとは思っている。

 けど、今は沼や塔から俺が離れるのはまずい。

 あの異世界人(普人族)が去ってから、まだ3日。また戻って来るとも限らないのだ。

 ウチの家族けんぞくが、そうそうやられるとは思わないけど……俺が傍に居ないと、反対に殲滅とかしてそうだ。


 せめて、1ヶ月ぐらいは様子を見ていたいところだな。


 それに俺自身の問題もある。まぁ、こっちが本命なのかも知れないが。前言は、優柔不断な自分を納得させる言い訳に過ぎないのかも。

 この世界に転生して――封印されていた50年は抜きにして、まだ1ヶ月も経っていない。

 俺の覚悟ができていないのだ。

 確かに、俺はある意味不死身かも知れないが、中身は以前と一緒。心までは不死身ではない。この世界の殺伐とした人たちの、悪意ある視線に晒される覚悟もない。それに、まだ何処か夢を見てるような気持ち、現実感もない。いつかは元の世界、元の平凡な日常に戻れるんじゃないかと、頭の片隅で考えてしまう。そうだ、この塔から離れる覚悟が出来ていないのだ。


「だから、今はまだ……」


「ギチギチギチ!」


 そんな俺を見透かすように猛抗議を始めるキング。それが、俺にここで生きていく覚悟を決めろと迫ってるかに感じ、逃げるように塔の外へと出た。



 外へ出ると、朝の麗らかな日射しが沼をきらきらと輝かしている。沼のあちらこちらで、河童たちが顔を出し「ケロケロ」と楽しそうだ。

 3日前の争いが嘘のように平和そのもの。

 対岸に伸びる小道の途中では、ユキが「クンクン」と地面の匂いを嗅ぎながら歩いているのが見えた。何が楽しいのか、鼻歌でも歌ってそうな軽い足取りで此方に歩いて来る。

 途中でハッとした様子で顔を上げると、俺に気付いたのか猛然と走り出した。


「バウバウバウ!」


「ユキは何を……うおっ! ちょっ、ちょっとぉ!」


 勢いそのままに、ユキが飛び掛かってくる。たちまち、地面に転がされ泥だらけになる俺。


 体格も力も違うんだから、ちょっとは加減を覚えろよ。まったくぅ……。


 俺のそんな気持ちを知らずか、よほど嬉しいのだろう。興奮して「ハッハッ」と荒い呼気を繰り返し、俺をベロンベロンと舐め回す。前肢でがっちりロックされてるので、逃げ出す事もままならない。

 そして、耳元ではキングがまたしても、「ジジジ!」と、がなり始める。


 もう、嫌!

 なんでウチの家族けんぞくはこんなのばっかりなんだよ!


 ――でも……。


 そうだよな。俺にはもう、こっちの世界に家族がいる。今さら、後戻りもできない。

 キングの苛立ちも、そろそろ限界のようだし。


 ――木精とやらを探しに行くか……。


 ユキやキングを眺める内に、ようやく俺にも覚悟ができた。

 こうして俺はユキを伴って、その日の内に森の深部へと旅立ったのだ。


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