表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の魔神 【改訂版】  作者: 飛狼
1章 魔神誕生
31/51

31.銀狼の巫女と戦乱の予感(11)

短いですが……。


 広場での混乱が、まるで嘘のように収まっていく。正直、ここまで劇的に静まるとは、俺も思っていなかった――。



 大急ぎで広場へと駆け付けてみれば、予想通り……いや、それ以上の酷い有り様になっていた。怒り狂ったユキやキングは勿論、カブトや河童たちまで兵隊さん相手に大暴れしていたのだ。ユキに至っては、若い兵士の腕を噛みちぎらんばかりの勢いだった。だから、大慌てで【神オーラ】のスキルを全力で発動させたのだけど……。


 ――うおっ! ま、眩しい! め、目がぁ……。


 目がチカチカして、瞼を開けていられない。レベルが上がったためか、【神オーラ】の及ぼす範囲は広がり、光量も増していたのだ。


 それにしても、自分のスキルでダメージを負うとかどうなの?

 アンバランスな能力が、恨めしい。それもこれも封印されてるからだろうけどさ。ホントに嫌になるよ。て、そんな事を考えてる場合じゃない。

 さすがに、このままでは何も見えないので、【神オーラ】を止めたのだけど――今度は、発動中のスキルを瞬時に中断したため、光の残滓がキラキラと細かい粒子となり、辺りに降り注いでいた。でも、それが功を奏したのか、広場の騒乱は急速に収まったのだ。


 思っていた以上に、【神オーラ】の視覚効果は抜群だった。元は、光溢れる文明社会で暮らしていた俺が驚くぐらいなのだから、この世界の住人の驚きは、推して知るべしだろう。

 今の俺ではレベルが低いので、使い物にならないと思っていたが、【神オーラ】のスキルは意外と使えるかも知れない。


 ――もっと早く、使っておけば良かったよ。


 それが、今の正直な感想だった。


 広場へと目を向けると、コボルト達、ハスキー犬ぽい人たちは、隅っこで茫然として座り込んでいる。普人族と呼ばれる、元の世界の人間に似た人たちも唖然とした様子――中には涙を流している人もいる。広場の至る所で、へたり込んでいた。


 取りあえず、広場の中央へと進んで行くと、


「バウバウ!」


 ユキが真っ先に駆け付けて来る。尻尾を大きく振り振り、「キュンキュン」と鼻面を押し付けてくるのだが……。


「うげっ、ユキ……」


 ユキの口には、噛みちぎられた人の腕が咥えられていた。褒めて褒めてと頭を差し出して来るけど、これには流石に腰が引ける。


「ユキ、ばっちいから、ぺっしなさい!」


 そんな事を言う俺も、どうかしてると思うけど、気が動転してるので仕方がない。


「クゥン?」


 可愛らしく首を傾げるユキ。見た目が凶悪なだけに、噛みちぎった腕を咥える姿は恐ろしげだ。


 ――やり過ぎだよユキ。


 完全に腰が引けて、涙目で後ずさる俺がいた。

 そうこうしてる間に、カブトたちを引き連れたキングも、河童たちも集まって来た。

 ユキの後ろで膝を突き、畏まるキングの姿は何処か古武士然としている。なんか、「拙者」とか言いそう。ま、実際は「ギチギチ」と身体を震わせ、音を鳴らしてるだけだけど。俺には、そう見えたのだ。

 それに引き換え、河童たちは俺たちの周りで小躍りして、「ケロケロ」と大騒ぎだ。勝利を祝ってか、大合唱を始める始末。


 と、そこへ――


「ゲロゲーロ陛下、お待たせ致しました。後は我らにお任せをゲーロ」


 振り返ると、ゲロロゲーロとギョーがヨタヨタと歩いて来るところ……。

 いやいや、もしもし。今ごろ到着とか、遅すぎなんだよ、お前らは!

 ホント、お前らお笑いコンビだけは……。


 と、そこで、ようやく到着した二人が、ここぞとばかりに雄叫びを上げる。


「ゲロゲーロ!」


「ギョギョ、ギョー!」


 そして、口中から奔流となって飛び出す、水のブレスを吐き出したのだ。


 いやいや、もう終わってるからね。


 怒濤となって押し寄せる水流が、広場の全てを押し流す。


 ――おいおい、何をやってんだよ、お前らは!


 皆さんすいません。ウチの凸凹コンビが御迷惑をおかけしてます。


 ユキにしがみつき、なんとか難を逃れるが、お陰でずぶ濡れだ。

 キングたちは空を飛べるから良いが、呆然としていた異世界人たちは水流に転がされ、広場は水浸し。散々な有り様となった。


「はぁ……」


 本当にもう、ため息しか出てこないよ。


 しかし、この世界の住人との初遭遇。偶然とはいえ、争い事から始まってしまった。後々、面倒な事になりそうだなと、 暗澹としたやるせない気分に包まれる俺だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ