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異界の魔神 【改訂版】  作者: 飛狼
1章 魔神誕生
12/51

12.呪いの沼とカエルの合唱団(4)


 場所を塔の2階に移し、この世界で妖精と呼ばれる者達と俺は会談を行っていた………はず?

 というのも、俺が座っている前で、妖精の代表ゲロゲーロ氏(俺が勝手に命名)とユキが何やらやり取りをしているのだが、俺にはさっぱりで完全に蚊帳の外だからだ。


 ユキが「バウバウ」と吠えると、ゲロゲーロ氏が身振り手振りを交えて「ゲロ、ゲロゲーロ」と…………あれ!

 

 ――ちょっと、待て。


 お前ら何気に会話が成立していないか。

 おかしいだろ。もしかして、俺だけ分かんないとか……うっそおぉぉぉ!


 と、こんな感じで、俺をそっち退けにして2匹で会話をしているのだ。何やら話も弾んでいるようで、まるで近所に住むおばちゃんの井戸端会議のようだ。


 俺には2匹が話す内容が分からず、さっきから手持ち無沙汰で眺めるしか出来ない。

 だから、


「……暇だ…………ふあぁ」


 いつしか眠りこけていたのだが…………ん、ちくちくと背中が痛い。

 そして、今度はユッサユッサと体を揺すられる。


 ――むぅ、何だよ。


 気持ちよく寝ているのに。

 誰かが俺を起こそうとしていた。重たいまぶたを、ちょっとだけ開ける。


「…………うおっ!」


 目の前に迫るのは、真っ黒な捻れたつの。驚ろき慌てて飛び起きた。でもそれは、ユキの額から伸びる角だった。


 ――今、絶対に、俺をブスリと刺そうとしていたよね。


 幾ら俺が不死身でも、痛いものは痛い訳で。

 本当に止めて下さい、ユキさん。そんな危ない起こし方は。


 欠伸あくびをひとつ噛み殺した後、周りを見渡しギョっと驚く。グロガエル達が、俺を中心に取り囲み此方をじっと注目していた。


 そうそう、こいつらの事をすっかり忘れてたよ。


 ――ん、数が増えてる?


 2階の広間は、詰めかけたグロガエルたちによって、びっしりと隙間なく占拠されていた。


 ――ちょっと怖いかも。


 そして、俺が発した驚きの声に反応して、グロガエルたちが一斉に鳴き始めた。


「ケロッケロケロゲロゲーロケロケロゲロケロ……」


「うおっ、何これ」


 誰かが指揮をしてるかと疑うほど、ぴったりと声を揃えた鳴き声。まさにカエルの大合唱だ。


 でも、広間の壁に反響して…………かなり煩いです。しかも、あの「ゲロ」の濁声も相変わらず――さっきまでよりも音量が増し増しで、イラつき度も増し増し。


 ユキの横では、得意気な様子のゲロゲーロ氏が、濁声を奏でていた。

 

 ――だから、お前は止めろって!


 で、そのユキなのだが、胸を反らし睥睨するかの如く首を巡らし、合唱するグロガエルたちを眺めまわしていた。

 そして、


「バウバウ!」


 ユキの声に、鎮まるグロガエルたち。その後、俺向かって一斉に頭を垂れた。


 俺が居眠りしてる間に、ユキが指揮官に昇格していました。って、何をやったの、ユキ。全くもって意味が分かりません。


「……で、この状況を説明してもらえるかな?」


 尋ねる俺に、ユキが小首をコテンと傾ける。

 駄目ですよ。今回は可愛い仕草をしても、きちんと説明してもらいます。


 ユキに近付き、お互いのつのを重ね合わせる。会話は出来ないが、こうしてイメージを送ってもらえると、ある程度の状況が理解できると思ったからだ。


 ――しかぁし…………全然、意味不明。


 ユキがイメージした映像はこうだ。


 光輝く巨人な俺の前でひれ伏すグロガエルたち。


 ……ま、これは分からないでもない。ユキには俺がこう見えているのか、かなり強調されてデフォルメされているのだろう。正直、俺も何となく嬉しい。

 が、次の瞬間にはいきなり場面が変わり、お花畑で「ウッフキャキャ」している俺たち。で、また場面が変わって、ワニダコに襲われてるグロガエルたち。そして、今度は沼の周りでデッドコースターな俺たち。何故か、俺はユキの背中に股がり大喜びしている…………そこは間違えないでね。俺は決して喜んでなんかいないから。ま、それは今は置いといて。

 その後は、光輝く塔を見上げるグロガエルたち。そしてまた、お花畑で………………。


 と、こんな感じでスライドのような映像が続くのだ。合間、合間に入る変な映像が、俺の頭を混乱させる。


 真面目にやろうねユキさん。変なのが混じってるよ。


 これで分かったのは、ユキには子供並の集中力しかないということ。良く言えば、朗らかな天然魔犬。悪く言えば、飽きっぽい馬鹿魔犬。それが、はっきりとした。


 ……俺たちの将来に不安を覚えるのは何故だろう。


 でも、大まかな内容は理解できた。

 グロガエルたちは、あのワニダコに襲われて困っていた。そこに、沼にある塔が光輝き、その中から現れたのが俺とユキ。何だか凄そうだから助けてもらおう。

 と、多分こんな感じだろう。

 塔が輝いた云々は、ユキに祝福を与えた時の事だと思う。この1週間、徐々に騒がしくなっていたのも、こいつらグロガエルたちが、それだけ追い詰められてたのかもな。

 まぁ、同じ相手を敵にしているのだから、俺としても共闘するのはやぶさかではない。ユキもそう思ったから、こうまで積極的なのだろうし。この沼の情報を一切持たない俺には、逆にありがたいぐらいだ。


 俺はそんな事を考えていたのだが――ふと、ユキを見ると、グロガエルたちに対して「バウバウ」と演説ぽい事していた。


 何を言ってるのやら。なんだか洗脳してそうで、怖いんですけど。


 グロガエルたちは――ゲロゲーロ氏は別にして。俺とユキがイメージのやり取りをしてる間も、今、ユキが何やら「バウバウ」と言ってる間も、ずっと身動きせず物音ひとつ立てず、俺達を見つめ続けていた。俺がちょっと動くと、グロガエルたちの視線だけが釣られて動く。

 試しに体を左右にずらしても、体や顔を動かさず、視線だけが追い掛けて来る。それは、この階を埋め尽くす全てのグロガエルがだ。


 何これ……不気味でこえぇよ。ファンタジーな異世界じゃなく、ホラーな異世界に迷い込んだ気分だよ。


 しばらくすると、ユキの演説? も終わり、どこか期待混じりの眼差しを向けて来る。それは、この階にいるゲロゲーロ氏を始めとした妖精グロガエルたち、全てが同じだった。


「…………まさか、俺に何か言えとでも?」


「バウ!」


 どうやら、そのまさかのようだ。

 俺って、一応は魔神をやってるけど、中身はただの引っ込み思案の青年だから。大勢の前で意見を言うのは、苦手なんだよね。やっぱり、言わないと駄目かな。


 どうしようかともじもじする俺に、ユキの期待のこもった視線が突き刺さる。


 うぅ……仕方ない。適当に何か……。


 俺は【神オーラ】を全開にして背負う。そして、徐に右手を天に向け高々と差し上げて、ゆっくりと周りを見渡した。


 皆の視線が痛い。だが、ここは我慢。ゴクリと喉を鳴らし、厳かな調子で皆に語りかける。


「我は、異界の魔神也。汝らの願い聞き届けて、我は汝らに力を貸すとする。我が力を貸すからには、既に勝利は確実と知れ。決戦は2日後。心して懸かれ!」


 言葉の意味が伝わったかどうか分からないけど、神様ぽく格好良さげに言ってみたが……。


 一瞬、痛いほどの静寂が訪れた後、広間は爆発したかのような大歓声に、いや違った。大合唱に包まれたのだ。

 やはり、【神オーラ】が効いたみたい。


 その後、今日の所はユキに号令してもらい、グロガエルたちにはお引き取り願った。夜も遅くなったので、明日もう一度、代表者を交えてどうするか相談することにしたのだ。


 そのグロガエルたちが帰る時の事だが、


「ガウ!」


 ユキがひと声鳴くと、グロガエルたちは一列になり、沼に向かってきびきびと帰って行く。どこの軍隊ですかと、尋ねたくなるほどの規律正しさだった。


 ユキは何を言ったのやら。ユキの目指す方向を問い質したい。まさか、魔王とか?

 有りそうで怖いから止めて下さい!




 グロガエルたちが帰り、ようやく塔にも何時もの平和な時間が戻ってきた。


「……今日は久々に疲れたなぁ」


 俺は塔の2階でゴロリと横になり、「ほっ」と安堵のため息を吐き出した。今日起きた出来事は、完全に俺の許容量をオーバーしていた。


 引っ込み思案で優柔不断な俺にしては、良くできた方だと思う。自分で自分を誉めたいぐらいだ。


「なぁ、ユキもそう思うだろ。俺は良くやったと……あれ?」


 ユキの返事が無い。何時もは俺に引っ付いて離れないユキの気配も感じない。


「えぇと、どこ行った?」


 心配になり、ユキを探すと直ぐに見付かった。塔から外に出たすぐ近く、入り口横でぼんやりと佇んでいたのだ。


「どうしたユキ、心配……」


 言葉が途中で途切れた。何故なら、ユキが佇む場所は、ユキの母親を埋めた墓前だったからだ。


「…………ユキ」


 悄然と佇むユキに、言葉を失ってしまったのだ。さっきまでの元気の良いユキは、かなり無理をしていたのだろうと思う。俺に心配を掛けたくなかったのかもな……。

 俺はユキのそんな気持ちにも思い至らず、自分の事だけで完全に舞い上がっていたのだ。悄然としたユキを眺め、冷や水を浴びせられた気分だった。


 映画やドラマなら、ここで気の効いた言葉を掛ける場面なのだろうが…………現実の俺にはとても無理な相談だ。だけど――ユキに歩み寄ると、その体をポンポンと軽く叩く。ユキがゆっくりと俺の方を振り返る。


「……頑張って、俺たちで仇を取ろう」


 俺が言えたのはそれだけだった。

 ユキが僅かに頷く。

 それからしばらく、俺とユキは並んで墓前に佇んでいた。


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