プロローグ この世にて
宜しくお願いします
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
という声と、ともに某コンビにチェーン店の裏口から一人の青年が出てくる。
青年の名前は、藤井武18歳高校生で、身長193センチの長身、細身で筋肉質な体をしている。髪型は、黒髪の短髪若干髪が逆立っている。顔は強面だが、彼には親がいなく施設でずっとすごしていたため、面倒見が良くやさしい性格をしている。
今は施設を出て、ボロアパートで一人暮らしをしている。生活費は、国から出る補助金とアルバイトで補っている。生活は苦しいが、なかなか充実した毎日を送っている。
「は~今日も疲れたな。早く帰ってシャワー浴びてスッキリしてーなー」
そう呟きながら武はとぼとぼと歩き出した。
時刻は九時半の夜中。コンビニから自分のアパートまでの道の途中の交差点を曲がり住宅街に入る。そうすると、ジジッジジ点いたり消えたり点滅する街灯が数十メートル先に見える。その街灯に向かって歩き出す。街灯まで後五メートルあたりのところで、点滅していた街灯の明かりが消えて三秒ぐらい経って明かりが点く。そうすると武の五メ-トルホほど前に一つ、人影が現れる。
「やっぱり来たか」と武は呟き、持っていた荷物を地面に降ろす。そして、ズボンの右ポケットに手を突っ込み何かをつかみ、手を引き抜き思いっきり腕を振り落とす。
カチャン
と、音が鳴る。
そう。武が取り出したのは、警棒だ。
施設出身という事以外、特に皆と変わらない青年。武だが、ここ最近変わった出来事が二つ起こっている。
一つは、自分の身体能力が以上に上がっていること。
最初にこのことに気ずいたのは、コンビニの廃棄する弁当をもらって食べているときだった。弁当を食べるときにもらった割り箸が折れてしまったのだ。その時はまだ「自分は身体つきが良し握力強いのかな」としか思っていなかったが、三日後の早朝。新聞配達のバイトに行く前にラジオ体操をしようと軽く跳んでみたら、四十センチほどとんだ。さすがにおかしいなと思いおもいっきり跳んでみると、三メートルほど高く跳んだ。
その後いろいろ試してみたら、人間とは思えない記録が出た。
そのとき武は「これはあれか、金髪でバーテン服を着た人のあれか?」とか思っていたりした。
その後、解剖とかされるんじゃないかとか思い病院に行ってはいないが、力を制御する練習をして日常生活に支障を犯さない程度に制御できるようになった。
もう一つは、力が制御できるようになる数日前、いつものようにコンビニのバイトが終わり、帰り道を歩いているときのことだ。帰り道にある、点滅する街灯からから人影が現れて、武を襲うようになったのだ。その人影が人であるなら、対処のしようがあったが、それはできなかった。
それは、人ではなく本当に影のようだったからだ。
顔がない。それはフードをかぶっていて顔が見えないということではない。フードも帽子もかぶってもないし、街灯も明かりに照らされても黒いが下がモザイクのようになって見えないのだ。
それにくわえて手のひらから野球ボールくらいの黒い塊を飛ばしてきたり、腕をゴム人間のように伸ばしてきたりと人間とは思えない行動をしてくる
。
最初のうちは逃げながら110に電話を掛けながら逃げていたが、県内のはずなのに人影に追われているときだけ、県外になるというなぞ現象が起こったり。
交番に逃げ込んで警官に助けを求めても、いつの間にか人影がいなくなり、警官もいたずらだと思い取り次いでもらえなくなった。
それから人影から逃げる毎日を送っていたが、今回は違う。人間離れした身体能力を制御できるようになった武は戦うという選択肢をとった。
武は、半身になり警棒を持った右腕を人影に向けて、じりじりとすり足で近ずく。人影はふらりふらりと千鳥足のような足取りで近ずいてくる。
そして武は人影が自分の間合いに入ると、警棒をフリッカージャブのように繰り出す。警棒は見事人影のかおに直撃したはずだが、全く効いた様子も無く腕を顔に向けて伸ばす。それを後ろに飛んでかわすが人影は、左右に動きながら高速で走り出し追撃を仕掛けてくる。
迫り来る人影の攻撃を左にかわすが、そこに裏拳が飛んでくる。それを左腕でガードする。そして人影の腕をつかみ攻撃力を削ぐために腕の関節部分に警棒をおもいっきり振り落とすが、これも効果が無く人影が攻撃を仕掛けてくる。人影の拳が顔面にヒットして体がよろめく。そこに左右のストレートが飛んでくる。それを何とかガードして距離をとる為に後ろに飛ぼうとするが、人影にボディーブローをくらう。
「ガハッ」
肺の中の空気が全部出て、身体がくの字に曲がる。
人影が武の首をつかみ壁に叩きつける。
「グッア」
首を締められ、持っていた警棒を落として自分のくびを閉めている手を外そうともがくがビクともしない。
人影は、片手に黒い塊を生成して武に左胸に手を置く。
ズンッ
という音と共に武の胸に風穴が開く。
人影は武から手を離すと武が壁からずり落ちるが地面には血の一滴も無かった。
まるで、血がもともと無かったかのように武の身体から血液が消滅していた。
人影は、ふらりと歩き出し、点滅する街灯の明かりが消え、また明かりが点いた時には人影は消えていた。
この日、虫のさえずりすら聞こえない静かな夜
武は死んだ。