コバエ
不意に、目覚めた。
視線を窓の方向にやり確認するが、真っ暗で夜明けの気配はない。枕元の携帯で時刻を確認すると、2時半。起床時刻の6時半まで、まだ4時間もある。もう一眠りできそうだが、すっかり目が冴えてしまって眠れそうにない。
仕方がないので、そのまま携帯のブラウザを開き、眠くなるまで時間をつぶすことにする。
漆黒の暗闇に、手の中の携帯の画面がぼっと白く浮き上がる。
しばらく、そうしていると、黒い塊が携帯の画面に吸い寄せられてきた。正式名称は、ショウジョウバエ、いわゆる、コバエと呼ばれている小さな虫だ。
小さく舌打ちをして、指先でコバエを潰す。ティッシュでコバエの死骸を拭っていると、もう一匹やってきた。最近、部屋の中を飛んでいるのをよく見かける。また、どこかで湧いているに違いない。
以前、同じようにコバエの存在を感じた時は、忘れて放置したままのバナナが発生源だった。色が変わってドロドロに溶けたそれは、とても悲惨だった。
この部屋のどこかで、あんな状態になっているものがあるのか・・・。知らずのうちに、ため息が出る。
すばやく、思考をめぐらす。
バナナは、部屋にはない。そもそも、自炊しないので、生ものは、随分と買っていない。
生ものではないとすると・・・・ゴミか。だが、まてよ、今朝がゴミの日だったから、この家にはゴミはないはず。
気になると、居ても立っても居られなくなり、電気をつけて家探しを開始する。
ゴミ箱、台所、風呂場・・・。それらしき発生源は見つけられない。
ネットで「コバエ 発生源」で検索する。水回りに発生するらしい。なるほど、排水溝も穴場のようだ。慌てて、洗面所に行き確認してみるがそれらしき様子はない。
ブーン。
またもや、コバエが視界を横切った。
さらに一匹、コバエが飛んでいる。さらにもう一匹。
・・・これは、発生源が近そうだ。
ふと、目の前の鏡が目に入る。
自分の顔が映っている。コバエも数匹。
なんとなく、鏡に向かって口を開けてみると、コバエが5、6匹飛び出した。




