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その13 龍の少女は強き意志で & エピローグ

「お前さぁ」


「何だ?」


 テオルは、ダルそうに平野を歩いている。その横には、半龍姉妹の姉、アニがいた。


「何であいつらと一緒に行かなかったんだ?」


 テオルがそう訊くも、アニは応えを返さなかった。




「――テオルお兄ちゃんは、結局『龍の里』に来れないの?」


 その数分前の出来事。

 リコが不服そうに、父親に尋ねる。


「いや、私が許可しよう。貴様には借りがある」


 黒い龍はそう告げた。見る間に、リコの表情が明るくなる。だが、テオルは首を横に振った。


「恐縮だが、俺には先に行くところがある。『龍の里』へは、その後自分の足で行くことにするよ。幸い、ここからならめちゃくちゃ遠いって訳でもないしな」


「えー来ないの? なんで? どこ行くの?」


 またもリコが不服そうになり、抗議する。


「お前が生まれ育った、あの洞窟だ。あんな場所でも世話にはなったし、死んだ奴らを供養しに戻ってやらねぇと」


「えー! 後でじゃダメなの?」


「あぁ、なるべく早くそっちにも行くようにするよ。それまで、待っててくれ」


「ブウ。早くね」


 テオルとリコが話している内に、アニと黒い龍はテレパシーで会話をしていた。その内容は、テオルには窺い知れない。


「では、行くぞ」


 そして、黒い龍は翼を広げ、地を揺らし飛び上がった。その背中に、リコを乗せて。黒い龍が羽ばたく度に爆風が巻き起こり、テオルは吹き飛ばされかけた。


「じゃあ、里で待ってるからねー!! 早く来てねー!!」


 リコの叫びが、耳に届いてきた。テオルは手を振って応えた。

 やがて飛び立った黒い龍の影は、空の彼方へと消えていった。


「――ん?」


 てっきり自分一人になったと思っていたテオルは、背後にいた者に気づくのに時間がかかった。そこには、アニが立っていたのだ。黒い龍と共に里に帰るのだとばかり、思い込んでいた。


「何だお前。乗り損じたのか?」


「違うわ馬鹿者」


 アニは、その人形のような整った顔をぐっとテオルに近づける。


「しばらく、お前と一緒に行動してやろう」


 アニのその台詞を聞いて、テオルは顔をしかめたのだった――。




「――お父様が、言ったからだ」


「え?」


 なぜリコ達と一緒に行かなかった、というテオルの問いに、アニが時間差で答えた。


「さっきお父様が、お前のことを『面白い人間』と、言ったからだ。お前自身に興味はないが、私はそのお父様の言葉に興味を持った。それでだ」


「へぇ、なんかよく分からんが。てっきり生まれ故郷のあの洞窟に愛着でも沸いたのかと思ったよ」


「あんな場所が私の生まれ故郷な訳がないだろう。私の故郷は、他の龍族達と同じ『龍の里』なのだ」


「行ったこともないくせによー」


 テオルはアニに足を蹴られた。それが思いの外強く、テオルは盛大に吹っ飛ばされ平野を転がった。


「ってぇなこの小娘ぇ! やんのかよー!」


「来い。人間如きに遅れは取らん」


 風のなびく平野の真ん中で、二人は喧嘩を始めてしまった。

 この二人、後に世界中を旅する無二のパートナーとなっていくのだが、それはまだまだ先の話。


「――え、や、ちょ待て、龍の火炎は反則だろ! うわ!」





 雲より高い、遥か上空。

 黒い龍の背に乗るリコが、テレパシーで駄々をこね始めていた。


『やっぱり戻るー!』


『何だと!?』


 高熱が比較的ましな黒い龍の背中を、リコはぺしぺしとはたき続けている。


『テオルお兄ちゃんに次いつ会えるか分からないなんて、やだ! やっぱり戻って、私お兄ちゃんと一緒にいる!』


『ふざけるな、お前は里に来るんだ! あんな人間の小僧と一緒になど、アニだけでも充分だ!』


『やだやだやだー!!』


 リコは聞く耳を持たない。

 黒い龍は苛立ちと共に、懐かしさに似た感覚を呼び起こされていた。


『全く、非力なくせに我儘で、頑固で、それでいて無駄に力強い! お前は、あいつにそっくりだ!』




【――龍と人間? 関係ありません! だって私も、あなたのことを愛しているんですから】








 ある国の中枢部で、テーチは弟子を思い、一人語りを零していた。


「防衛本能だけで、『あれ』を抑えられる筈はない。お前は、他者を傷つけたくないと無意識に願う内に、力を抑え込むという選択肢に至ったのだ。自分の心と身体がいくら傷つこうともな。よく言えばほどほどに勇敢、悪く言えば救いようがないほど腑抜け、か。しかしまぁ、それがお前の面白いところでもある。他の者では、そうはいくまい」


 そう言ってテーチは、自らの足元に視線を落とした。


「だが腑抜けのままでは、わしを止めることはできんぞ。我が生涯、たった一人の愛弟子よ」


 そこには、床を埋め尽くすほどの大量の「魔宝具」が敷き詰められていた。

 テーチは、この国で「でかい花火」を打ち上げようとしている。やがて、それを知った愛弟子が、彼を止めに来るであろう。


「楽しみにしているぞ。お前がどのような選択をするのか」


 歴史の表舞台には出てはこなかった、偉大な魔法使いテーチ。

 彼は、かつて愛弟子と共に観た星空の下で、笑いながらこの世を去ったと伝えられている。


 その傍らでは、身体から光を迸らせる、不思議な青年が立っていた。







 魔法が使えない男が、一人いた。彼の名前はテオル。

 若くして、人生と世界に絶望した眼をした、おかしな青年だった。


 洞窟の奥に閉じこもるそのテオルに、再び外の世界へ旅するきっかけを与えたのは、半龍の姉妹、リコとアニ。


 十数年後。

 テオルとアニが結ばれ、子供を授かる頃には。

 かつて絶望に霞んでいたテオルの眼は、いつしか、希望に輝いていたという。

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