プロローグ。
私には付き合って1年になる彼氏がいる。
最初の頃は、まさか私がリア充になる日が来るなんて思ってもいなかったので、正直からかわれているだけかと思っていた。
「好きなんですけど。付き合ってくれません?」
高校に入って、いわゆる漫研という部活に友達と一緒に入った。彼も、同じ時期に入部した。
部のみんなと遊んだ帰り道、たまたま家が同じ方向だっただけ。
それだけだった。
歩きながら、何となく、そう言われた。
「……へ?」
「俺の彼女になってください」
「……友達から、ならOK、です」
この時、私の脳内キャバシティは完全にダウンしていた。挙動不審な態度で、何とか弧の台詞を言えた私はすごいと思う。
「じゃあ、よろしく」
「よ、よろしく」
何だかよくわからないうちに、私と水無月くんは付き合うことになった。
そして、我に返って思った。私の趣味はなるべく悟られないようにせねば、と。私が腐女子であることを悟らせないようにせねば、と!
そう心の中で誓いを立てた。
しかし、何度目かのデートで水無月くんの家にお邪魔した時に大変なことに気がついた。
彼の本棚には、美少女がたくさん出てくるような類のマンガで埋め尽くされていた。
「水無月くんって、こういう漫画っていうか…美少女キャラ好き?」
「んーん」
「え、違うの!?」
「美少女同士がイチャイチャしてる漫画が好き」
この男、さらっと言いやがった。
「加納さんはイケメン同士が好きなんだよね」
水無月くんの二言目に、私の心臓は破けそうなくらいに早鐘を打ち始める。真犯人はお前だ!と言われた時みたいだ。
「え、何何!水無月くん何者!?エスパー!?エスパー系ですか!?」
「え。だって、加納さん、三森さんと二人でBL漫画描いてキャッキャしてたでしょ?」
「ぎゃーーー!?」
見られていた、だと!私が親友兼腐女子仲間の楓と一緒に漫画を描いている姿を。あくまでこっそりと誰にも見られないように作業していたというのに。
「もういっそ、楽にさせて…恥ずかしすぎる…っ」
「ちなみに、俺は加納さんと三森さんが仲良くしてる光景でご飯何杯でもいける」
「ぎゃーーーーーー!!!」
その日から、私と水無月くんは急速に距離が縮まっていくことになったのでした。