魔女と卵と不思議1
夕日に浮かぶアミカちゃんの顔はとてもきれいだった。私がそうおもったのは、きっとアミカちゃんが人生ではじめてできた恋人について話していたからだろう。
まるで夏じゃないように優しい夕日が、アミカちゃんと、海を埋めたできたばかりの白いコンクリートの橋と、それから私を照らしていた。
もしかしたらそうかもしれないとおもっていた。学校が終わってから、ちょっと話そうといったアミカちゃんが、一番仲のいい友達のはずなのに少し違う人みたいに感じたそのときから、そうかもしれないとおもっていた。
「恋人ができたの」と、アミカちゃんは昨日食べたアイスが当たりだったという話の後に切り出した。私にとっては切り出された。けど、アミカちゃんはふさわしいとおもったタイミングでただいっただけだろう。驚いても沈黙したりはしない。「そう」という相槌が考える前に出てきていた。
アミカちゃんの彼氏というのは、アミカちゃんの目の前で車にひかれそうになった猫を助けた男らしい。もしも車にひかれてたら、痛いのももちろんいやだけど事故を起こした運転手が不憫なので猫は天命に任せて余計なことはしないほうがよかったのじゃないかとおもったけど、アミカちゃんは感動したというのできっと目の前でそんな雄姿を見せつけられたら心を動かされるものなのかもしれない。
「よかったねアミカちゃん。おめでとう」
「うん、うれしい」
アミカちゃんが私をみて笑った。いつもと同じだ。きっと違うのは私のほうなのだ。
「イチカちゃんが喜んでくれたのも、すごくうれしい」
「当たり前でしょ」
だって私はアミカちゃんの笑った顔が大好きなのだから。いいようのない違和感には、ふたをしてしまう。
「でも、びっくりしたな。アミカちゃん告白されてもいつもしっくりこないっていってたから」
「なんでなのかわからないけど、目があったらすきだなって自然におもえたの」
「そうなんだ。あるんだね、そういうの」
「うん」
アミカちゃんは少しうつむいた。
アミカちゃんと別れるとき、もう二度と会えない気がした。手を振っていると、まるで駅のホームで見送りしてるみたいだった。
でもそれはたぶん半分くらいは正解で、少しのくやしさを石ころを蹴ることで放り出す。石は鋭く飛んで壁にぶつかってから足元へと帰ってきた。
それから石が急に光りだして、あれれとおもう間に私はふっと光の中に呑み込まれた。