7話 別れ
いよいよキャンプ最終日。朝から僕達は片づけなどをしていた。
少し寒いが半袖だ。長袖のまま家に替えるわけにはいかないからな
「昼飯以外はもう車に積んでおけよ」
「あっという間だったな」
「そうですね」
僕と美羽は車に物を積む係りだ。涼、青葉さん、しのぶちゃんは1階の大広間で荷物を整理していた。
「タカさん。何時頃出るんだ?」
「昼食ったら早めに出るぞ。しのぶが行きたい場所があるんだってさ」
「行きたい場所?」
「あぁ、帰り道に絵本の郷って場所があるんだ」
「絵本の郷……」
美羽が目を輝かせていた。
「やっぱり美羽も行きたそうだな」
「もちろんです」
こういうの好きそうだからな。絵本の郷か。実はと言うと僕もちょっと気になっていた。
「大広間の片付け終わったぞ」
「ご苦労さん。あと積み込むだけだな」
「さっきタカさんが昼飯の順次しておけだってさ」
「分かった」
「ところで何作るんだ?」
「たらこスパゲッティだよ」
「あー、これか」
涼はテーブルの上に置いてあるレトルトのたらこスパゲッティを手に取った。
「あれ? コンロどうしたっけ?」
「え? あれ車に積んじゃったぞ」
「おいおい……しゃーない、かまどでやるか」
少し残っている薪と新聞紙でかまどに火を付けた。
「鍋に水入れてきたぞ」
涼はかまどの上に鍋を置きレトルトを温める用の水を小さな鍋に入れに戻った。
「パスタとレトルト持ってきました」
「後は茹でるだけか。青葉さんとしのぶちゃんは?」
「さっき昼作っておくって言ったから部屋戻ってるんじゃないか?」
「私見て来ます」
そう言って美羽は裏口から部屋に戻っていった。
「ほい、こっちがレトルト用の鍋な」
「サンキュー」
かまどの火が強くコンロよりもお湯が早く沸いた。
「そこにあるパスタ入れてくれ」
「おう。レトルトはもうそろそろが良いか」
「もう入れちゃって良いよ」
「オッケー」
涼は乾麺のパスタをお湯に入れ、レトルトのパックを小さい鍋に入れた。これであと8分ほどで茹であがる。僕は麺が型まあない様に少し混ぜ時間を計った。
「そろそろだからみんな呼んできてくれ」
「分かった」
涼は部屋に戻って行った。すると入れ替わるように美羽がお皿とフォークを持ってきた。
「もう少しですか?」
「丁度時間。お湯切るから炊事室に持っていかないと」
「気を付けてくださいね」
美羽のサポートと共に僕は慎重に鍋を運びお湯を冷水とともに水道に流した。
「後はレトルトをかけて出来上がりだ」
再びテーブルに戻り盛り付けて行った。
「おっ、もう出来たのか」
「良い匂いだな」
「美味しそうね」
「だねー」
タカさん、涼、青葉さん、しのぶちゃんが出てきた。s
「さて食べるか」
『いただきまーーす』
僕達は昼食を食べ始めた。ここでの食事もこれが最後か。
昼食も終わり片付け終わった僕達は車に乗り込んだ。
管理人のおじいさんも見送りに来てくれた。
「また来年も来てくれよ」
「お世話になりました。それでは」
タカさんは車を発進させた。管理人さんは見えなくなるまでずっと見送ってくれていた。
走っているとメルヘンな建物が見えてきた。
「もしかしてあれが」
「絵本の郷だよ~」
建物の外観も絵本に出て来そうな感じだった。
「到着。俺は車に居るからお前たちだけで見て来な」
タカさんは車に残り僕達は建物に入った。
「すごいな……」
テーブルも椅子も全て木で出来ていて置いてあるものは全て絵本だった。
女性陣は絵本に釘付けだ。僕と涼は適当に本を取り椅子に座って読んだ。
次に取った絵本を読んだ。内容は天使少女と人間の少年のお話だった。天使の少女は人間の少年に出会ったのだか最後には少年との楽しい思い出を消して帰ってしまうというお話だ。まるで今の僕と美羽みたいじゃないか。まさか記憶までは消えないよな。
そんなことを思っていると美羽がやってきた。
「翼君、これあげます」
「これは?」
「さっきそこで買った木で出来たキーホルダーです」
「ありがと。学校の鞄につけるかな」
僕は持っていたバッグにしまった。
「しのぶちゃんと青葉さんは?」
「お土産買っているので終わったら車に戻るそうです」
「ところで涼はどこに行った?」
「桜木君なら車に乗ってますよ」
窓の外を見ると車に座っている涼が見えた。
「あいついつの間に……。僕も戻るかな」
本を片付けて建物出て車に乗った。
しばらくすると女性陣も戻ってきた。
「あとは家帰るだけだな。途中パーキング寄るかもしれないが」
そう言ってタカさんは車を出した。
帰り道パーキングエリアやお店に寄ったりしたせいか家に着いたのは午後7時過ぎだった。
タカさんはみんなの家の前まで車を出してくれた。
「ただいま~……」
部屋に入るなり僕はベッドに倒れた。山とは違いここはやっぱり暑い。
即エアコンを付けた。
荷物を片付けながらテレビを見ていると携帯が鳴った。
相手は美羽からだ。
「もしもし?」
「あの、今時間ありますか? ちょっと来てほしい場所がありまして」
「別に良いけどどこ行けばいい?」
「いつもの公園の入り口で待ってますので」
「分かった」
「お願いします」
そう言ってすぐに電話は切れた。一体何なんだろうか?
公園に行くと入口で美羽が待っていた。
「美羽、何かあるのか?」
声をかけたが美羽「こっちです……」とだけ言って公園の奥に歩いて行った。
「どうしたんだ?」
何かおかしい。
美羽の後ろを付いて行き入口から遠いベンチに着いた。
「ここは私と翼君が一番最初に出合った場所ですよ。そして私の居た世界と繋がっているいる場所でもあるんです」
そう言って美羽はベンチに座った。
僕は一瞬話の内容が分からなかったがすぐに意味が分かった。
「もしかして今日がその……」
「はい、私は元の世界に帰ります」
「でもまた戻ってくるんだろ?」
「戻ってきます……でも……」
「でも?」
「私が戻ってきても翼君は私のことを知らないと思います。青葉さんやしのぶちゃん、桜木君、お兄さん先生達も……」
「それってもしかして記憶が消えるとかなのか?」
「記憶が消えるというのは少し違いますね。正しくは記憶が変えられるということです」
「えっ? どういうこと?」
「花火やキャンプなど記憶は消えません。でもそれらの記憶から私だけが消えるんです。写真やビデオからも……」
「せっかく仲良くなったのに……」
「仕方ないんです。そういう決まりなので」
「そんな……」
「短い間だったけどとても楽しかったです」
微笑んだ美羽の瞳から涙が零れた。
「くっ……」
僕は涙を堪えた。
美羽は立ち上がりゆっくり僕の横を通った。そして僕たちは背中合わせになった時、美羽は小さな声で「ありがとう……さようなら……」と呟いた。
僕は急いで振り向くがそこには既に美羽の姿がなかった。
その晩僕達の記憶は変換され美羽の事を忘れてしまった……。