5話 みんなでキャンプ
気がつくと朝になっていた。
時間を確認しようと起き上がり、時計を見ると時刻は午前7時過ぎ。待ち合わせまではまだ余裕がある。
早く起きた事だしゆっくり支度でもしよう。
ベッドから下りて着替え、朝食を食べた。それでもまだ少し時間があった。
早めに家を出るとしよう。
調理器具は大体キャンプ場にあるらしく皿などはしのぶちゃんの家にあるそうだ。
朝早いから店はまだ閉まっている。
どこで時間を潰そうかと考えている合間に駅に着いていた。
駅前の自販機で買った飲み物を飲んで美羽を待とう。
待ち合わせの時刻を少し過ぎた時、1台のバスがやって来てそのバスから美羽が降りて来た。
「お、遅れてすみません」
そう言いながらこっちに駆け寄ってきた。
「全然大丈夫だよ。じゃっ行こうか」
「はいっ」
しのぶちゃんの家に向かった。
「皆さんの家は翼君の家から近いんですか?」
「しのぶちゃんも涼も青葉さんも同じ地区だけどみんなちょっと離れているからな」
駅の近くの武道館を過ぎるとしのぶちゃんの家が見えてきた。
「あの大きい家がしのぶちゃんの家だよ」
しのぶちゃんの家の前の通りに出たとき後ろから「おーい、翼ー!」と呼ぶ声が聞こえた。遠くから声をかけてきたのが涼だ。隣には青葉さんも居る。
「2人ともおはよう。偶然ね」
「おはよう」
「おはようございます」
「お前達も今から向かうのか?」
「そうだけど。なぁ涼、それなんだ?」
涼は大きな紙袋を持っていた。
「これか? これは人生ゲームだ。昨日の夜、突然しのぶに電話で『明日人生ゲーム持ってきて』って言われてそのあと返事もする時間なく即行切られた」
「しのぶちゃんらしいな」
雑談をしているとしのぶちゃんの家に着いた。
ここはいつ来ても立派な家だ。
隣の駐車場には大きいワンボックス車が停まっていた。
「皆、こっちだよー」
声が聞こえる方に行くと車の後ろにしのぶちゃんが居た。
「おはよー。ここに荷物入れて」
「分かった」
車の後ろから車内に荷物を乗せた。
既に昨日買った食材が積まれている。
僕らも車に乗った。席順は助手席に僕が乗り2列目には右から美羽、しのぶちゃん、青葉さんが乗り3列目には涼と荷物が置いてある。
「じゃぁ行くか。皆居るか?」
タカさんに合図にしのぶちゃんが「居るよー」と答えた。
ドアを閉め、出発した。
目的地は井川と言う場所にあるキャンプ場だ。
出発してから1時間ほどで涼はダウンした。こいつは昔から乗り物に弱い。
後ろを見ると美羽、しのぶちゃん、青葉さんは寝てしまっていた。
山に入る途中のコンビニで昼を買うことになった。
「ここで昼を買うぞ」
「もう買うのか?」
「この先には店があまり無いからな」
「おーい美羽。起きろー」
声をかけると美羽はゆっくり起きた?
「ふぇ? いつの間にか寝てしまいました」
目を擦りながら起きた。
「コンビニで昼を買うってさ」
「分かりました」
青葉さん、しのぶちゃんは先に起きてコンビニに入って行った。
「ふっかーーーーーーつ!」
涼もバスを降りるとすぐに元気になった。この元気がいつまで続くことか……
コンビニで皆はおにぎりやサンドイッチなどを買いバスに乗り込んだ。
しばらく走ると車は大通りから山道に入って行った。そこは自然が多くてとても静かだ。
途中にある休憩所で昼食にした。
僕達はバスを降り、そこにあるベンチに座った。
『いただきます』
「やっぱ山で食べると美味しいな」
「それに涼しいですしね」
「なぁタカさん。あとどれくらいで着くんだ?」
「ん~……あと30分位かな?」
「もう少しね」
「だねー」
昼を食べ少し休憩した後、バスに乗り再び出発した。
山道を走っていると木と木の間から赤い屋根の大きな建物が見えてきた。
徐々にその建物に近付いて行くと《キャンプ場》と書かれた木の看板が見えた。
どうやらここらしい。
車は敷地内に停め皆はを降りた。するとそこにはレンガのかまどや木のテーブルがあった。
「ここがキャンプ場なんですね」
「美羽は初めてだったな」
「はい。空気が美味しいです」
「そうだな」
「じゃぁ皆は荷物降ろしといて。俺は管理人の所に行ってくる」
そう言ってタカさんはロッジの玄関に向かった。
「食料とかも全部部屋に持って行くのか?」
「個人で持ってきたのだけ部屋持って行って。食料やお皿は1階の暖炉横に置いておけば良いよ」
車から各自の荷物や食料をロッジの裏口から中に運んだ。
他の宿泊客は居ないから僕たちだけの貸し切り状態だ。
「よっと、これで全部か?」
「そうみたいです」
「あれ? 涼としのぶちゃんは?」
「2人なら先に部屋行ったみたいよ」
「僕達も行くか」
「はい」
「そうね」
靴を裏口に置き、荷物を持って部屋に向かった。
ロッジの階段を上がると踊り場には風呂場に続く戸がありさらに階段を上ると細長い廊下がある。
そこには幾つもの部屋があり建物の真ん中は一階との吹き抜けになっていた。
「えーっと部屋は~……ここか」
「私達はこっちね」
「そうですね」
「じゃっまたあとで」
「はい」
美羽、青葉さんは部屋に入って行った。
僕もその隣にある部屋に入った。
部屋の構造はこうなっている。両サイドには二段ベッドがあり正面にはベランダに通じる戸がある。
左側のベッドの一段目で涼が座っていた。
「やっと来たか」
「お前が早いんだって」
「タカさんは?」
「駐車場に車を止めに行ったんじゃない?」
「今からどうする? まだ1時過ぎだぜ」
「1階で人生ゲームでもやる?」
「お、いいな」
「じゃぁ行こうか」
「オッケー」
「少し寒いからジャージ着てった方がいいな」
「そうだな」
長袖のジャージを上に羽織り、人生ゲームを持って部屋を出た。
隣の部屋のドアをノックすると青葉さんがドアを開けた。
「なに?」
「これから1階で人生ゲームやらない?」
「いいわね。そうしましょう」
「なんですか?」
「なになに?」
部屋の奥から美羽としのぶちゃんが顔を出した。
「これから1階で人生ゲームやるんだ」
「やろー」
「私もやりたいです」
「じゃぁ先行ってて。私達も長袖に着替えるから」
「分かった」
僕と涼は先に向かった。
1階に降りる途中、階段の踊り場でタカさんに出会った。
「これから皆で人生ゲームするけど一緒にどう?」
「俺は疲れたから部屋で本読んでるわ」
「分かった。鍵は開いてるから」
「おぅ」
1階の大広間には暖炉と長い机と椅子がある。
机の上に人生ゲームを広げて待っていると女性陣が階段を下りて来た。
「お待たせ―」
皆が席に着くと向かいの席に座っている涼が「さて、始めますか」と言ってゲームを仕切る。
隣では美羽が説明書を読んでいた。
「ルール分かった?」
「大体は分かりました」
「細かいところはやりながら教えるよ」
「お願いしますね」
人生ゲームスタートだ。
最初は涼からだ。
時計回りの順で青葉さん、しのぶちゃん、美羽、僕となった。
「俺から行くぜー!」
涼はボードの中心の1から10まであるルーレットを回した。
矢印が指した数字は3だ。
車の形をしたコマを3コマ動かすとそこには医者になれると書いてある。
その職業に就けば《給料日》と書いてあるマスで一定金額貰える。
医者はこのゲーム内で三番目に高い給料だ。
普通はなるのだが一応「なるのか?」と聞いてみた。
「俺はこの先にある高額の職業にする!」
「涼、あんたね……」
そのあと青葉さんとしのぶちゃんの番が終わり美羽の番が来た。
「えいっ」
ルーレットは勢いよく回り指した数は8。
コマを進めるとそこにはこのゲームの中で一番高額の職業だった。
「美羽凄いな」
その後、涼は10を出してしまい職業ゾーンを過ぎてゲーム中最少額のフリーターになった。
ゲームは盛り上がりついに決着がついた。
「やっとゴールだ……」
最後にゴールしたのは涼だった。
このゲームはゴールした時に持っている金額で決まる。
各自金額を数え、順位が決まった。
1位は美羽の圧勝、続いて青葉さん、僕、しのぶちゃん。大差で涼がビリになった。
「負けたー! もう一回だ!」
そして再びゲームを行うがまた涼がビリとなった。
「か勝てねぇ……」
「そろそろ晩御飯の準備しないと」
「まだ4時過ぎだけど?」
「そろそろしないと暗くなっちゃうし」
外を見ると少し日が沈んできていた。この辺りは18時には暗くなるらしい。
「じゃぁ準備するか」
「そうですね」
「涼はこれ片付けておいてね」
「はいよ」
その他のメンバーは食材を持って裏口から出た。
僕は火を起こすための薪を割ることになった。
女性陣は炊飯棟の水道で野菜などを洗ったり切ったりしている。
薪を大体の数割り終わった頃、片付け終わった涼が来た。
「うぃーっす。俺は何をやればいいんだ?」
「薪はもう終わったよ。今から火起こすからマッチと新聞紙持ってきて」
「どこにあるんだ?」
「どこだっけ? 青葉さんに聞いてみて」
「分かった」
涼がマッチと新聞紙を持ってくる間にかまどに薪を持って行った。
かまどの前にあるテーブルとその横にあるもう一つのテーブルにはテーブルクロスが敷いてありその上に美羽が皿などを並べていた。
「ご苦労さん」
「翼君も薪割りありがとうございます。もう火を起こすんですか?」
「暗くなるからな、早めにやらないと」
かまどの中に薪を入れていると涼がマッチと新聞紙を持ってきた。
「持って来たぜ」
「おっ、ありがと。そういえばタカさんは?」
「疲れたらしく部屋で寝てた。俺は青葉達手伝って来る」
「分かった」
新聞紙と火をつけたマッチをかまどの中に入れた。
火は薪に引火して徐々に火力が上がった。
「私、そろそろ食材持ってきますね」
「よろしく」
美羽は炊飯棟に向かった。
僕はテーブルの上にあった鉄板をかまどの網の上に乗せた。
辺りは暗くなってきていた。
炊飯棟の外壁に設置してあるライトが点き、それとほぼ同時に美羽が食材持って戻って出て来た。
「これを焼いてください。あとこれ油とトングです。他の食材も持ってきますね」
「分かった。ついでにタカさん呼んで来るよう涼に言っといて」
「分かりました」
美羽が持って来た肉や野菜を焼いているとタカさんと涼が来てテーブルの椅子に座った。
「すっかり寝ちまった。皆に始終準備してもらってスマンな」
「別にいいよ。運転してもらったし」
「そうだぜ」
炊飯棟に居た女性陣も最後の食材を持って来た。
テーブルはそれほど大きくないので男女別れて座った。
鉄板の上にある肉や野菜を各テーブルの中央にある大皿に盛った。
「それじゃぁ食べるか」
「食べよー」
『いただきます』
食べ始めた時、辺りはすっかり暗くなって冷えてきた。
「おーい、翼。もう肉無いのか?」
「まだあるよ。焼こうか?」
「おう、頼むぜ」
かまどの前で温まりながら肉を焼いていると大皿を持った美羽が来た。
「賑やかですね」
「そうだな。でも、たまにはこういった賑やかに食べるのも良いもんだな」
「そうですね。私はいつも1人なのでとても楽しいです」
「一人暮らしは心細いよな。ほい、これ焼けたから持って行って」
「分かりました」
美羽は肉を乗せた大皿をテーブルの所へ持って行った。
そんなこんなで楽しいバーベキューはあっという間に終わりを迎えていた。
「食った、食ったー。俺もう寝る……」
「後片付け手伝いなさいよ」
「そうだーそうだー」
「はいはい……」
「俺はあっちのテーブル片付けて来るわ」
青葉さん、しのぶちゃん、涼は炊飯棟に入って行き、タカさんはロッジ側のテーブルに炭などを持って行った。
僕と美羽はかまどとテーブルの後片付けをしていた。
「バーベキューどうだった?」
「凄く楽しかったですよ。良い思い出になりそうです」
「それは良かった」
かまどの火を消し、使用した炭を廃棄専用の大きい缶に入れた。
「これでこっちは終わったな」
「そうですね」
「皿洗いの方見て来るか」
「はいっ」
炊飯棟に入ると涼、青葉さん、しのぶちゃんが皿洗いをしてそれを涼が拭いて入れ物に閉まっていた。
「こっちは片付いたよ」
「ありがとう。こっちももう終わるから先部屋戻ってていいよ」
「分かった。あとは頼む」
「お願いしますね」
美羽と先に部屋に戻った。
部屋には毛布と枕、シーツが人数分置かれていた。
タカさんが運んでくれたみたいだ。
タカさんは二段ベッド左側上で本を読んでいた。
「戻って来たか。もう風呂入って良いってさ。しのぶ達にも伝えといてくれ」
「タカさんはどうする?」
「俺はこれ読んだら入るから」
「じゃぁ先に入らせてもらうよ」
鞄から寝る用のジャージとタオルを取り出し部屋を出た。
隣の部屋に居る美羽に風呂入って良いことを伝えよう。ドアをノックすると美羽が出て来た。
「はい、なんですか?」
「風呂の準備出来たから入って良いってさ。下の三人には伝えとくよ」
「分かりました」
1階に降りた時に丁度、青葉さん、しのぶちゃん、涼が炊飯棟からロッジに戻って来た。
「おつかれ。風呂の準備出来てるってさ」
「それはありがたい。外寒いんだよな。着替え取って来る」
涼は急いで部屋に戻った。
「私達も今のうちに入りましょ」
「そだねー」
「美羽には言ってあるから」
「分かった」
階段の踊り場にある戸を開けるとそこには渡り廊下がありその先に風呂場に続くドアがある。
渡り廊下には壁が無く肌寒い風が柵の間を通っている。
裏にある山は真っ暗だ。何か出てきてもおかしくは無いな。
男湯の戸を開けようとした時、ロッジの方から涼が来た。
「早く入ろうぜ」
電気を点け、男湯のドアを開け中に入るとそこには脱衣所がある。
そこで服を脱ぎ風呂入った。
外が寒いせいか風呂が凄く熱く感じる。
湯に浸かっているとロッジの方から女性陣の声が聞こえてきた。
主にしのぶちゃんの声が大きく聞こえる。
男二人の入浴シーンなんてつまらないだろう。
ここは女子の方が受けが良いのでそっちを語ろう。
その頃女子達は……。
「あの2人はもう入ってるみたいだね。私達も早く入ろうよ」
「そうね」
水島が風呂場に続く戸を開けて3人は渡り廊下に出た。
冷たい風が吹き抜ける。
「寒いですね」
「早く入りましょ」
電気を点け戸を開けた。中は男湯と同じ構造だ。
3人は脱衣所で服を脱ぎ風呂に入った。
「気持ちいいねー」
「少し熱くないですか?」
「外が寒かったからそう感じるだけよ」
「お風呂出たらどうします? 寝るにはまだ早い時間ですし」
「そうね……やっぱトランプか再度人生ゲームかな? しのぶは何か案ある?」
「んー……あっ、星見に行くとかどう?」
「星ですか?」
「この辺りで見えるの?」
「見えるよ。ここからちょっと坂登ったところに広場があってねそこから遮る物が無いから綺麗に星が見えるの」
「でも夜の山って危険じゃない?」
「平気だよ。広場のすぐ近くにログハウスがあるから。そこは結構人が居るみたいだよ」
「人が居るなら安心ですね」
「涼と翼君が寝ちゃう前に行きましょう」
女性陣が何か会話しているとき僕と涼は風呂から出ようとしていた。
「そろそろ出るか?」
「そうするか。出たらトランプで一勝負どうだ?」
「よし、良いだろう」
風呂から出た僕達はジャージに着替えてロッジへ戻った。
風呂が熱かったせいか途中の渡り廊下は夜風が吹いていて涼しかった。
部屋に戻り服を鞄に仕舞っているとタオルを忘れたことに気付いた。
「あっ、タオル忘れてきたみたいだ。ちょっと取りに行って来る」
「おぅ」
1人部屋を出て風呂場へ向かった。
途中の渡り廊下に着くとそこにはパジャマ姿の美羽が居た。
「おっ美羽もう出たのか」
「あっ翼君」
「もう出たのか?」
「私、熱いの苦手なんですよ。なので夜風に当たって涼んでいたところです。翼君はどうしたんですか?」
「タオルを忘れたから取りに来たんだ」
男湯の脱衣所にはタオルが置いてあった。
「あった。じゃぁ僕は戻るよ。涼とトランプで勝負する約束しているし」
「私はもう少しここに居ます」
「風邪ひかないように」
「はい。……あっ、このあと皆で星を見に行くそうなので、部屋で待っていてください」
「分かった。待ってるよ」
「ではまた」
部屋に戻ると既に涼はトランプを並べていた。
どうやら神経衰弱をするみたいだ。
「遅かったな」
「途中で美羽に会ってさ。なんかあとで星を見に行くんだって」
「それは楽しみだな」
「だな」
「さて勝負するか」
「そっちからやって良いぞ」
「行くぜー」
神経衰弱のルールはこうだ。
裏向きになっているトランプを二枚めくり同じ数字なら取り、まためくれて、数字が合わない場合はその番が終了。
まぁここまでは普通のルールだが僕達のルールではそれにジョーカーを一枚加える。
ジョーカーを引いた場合そのプレーヤーは場のカードをシャッフルし直し再び並べて番は終了。
後半にはシャッフルする回数が多くなるのが面白い。
神経衰弱後半、僕が僅かにリードしている時、廊下から声が聞こえてきた。
女性陣が風呂から出て来たみたいだ。
“コンコンッ”
誰かが僕達の部屋のドアを叩いた。
ドアを開けるとそこに居たのは美羽だった。
「あの、今から星を見に行くそうです。私達は下で待っていますから」
「分かった」
「それでは」
美羽は静かにドアを閉めた。
「もう行くのか?」
「うん、もう行くってさ」
「勝敗どうする?」
「枚数的に僕の勝ちだな」
「今回はそうしてやろう。タカさん、星見に行くって」
「はいよ。そこにある懐中電灯持って行けよ」
1階に降り、裏口に行くとそこで女性陣が待っていた。
タカさんは階段を下りたところにあるフロントで管理人のおじいさん行くことを伝えた。
そうしないと鍵を閉められてしまうらしい。
「お待たせ」
「じゃぁ行こー」
今朝車で入って来た出入口の近くにログハウスへと向かう道があった。
そこは街灯などは無く月明かりと懐中電灯が唯一の光だった。
「暗いですね」
「足元に気を付けないとな」
暗い道を歩いていると遠くに灯りが見えてきた。
「あの灯りは?」
「あれはログハウスの灯りだね」
「案外近いんだな」
「そうだね。もうそろそろだよ」
ログハウスが並んでいる道を通って行くとその先に緑の屋根の炊飯棟があった。
その近くに広場へ続く道がありそこを通っていると広場があった。
広場の周辺には幾つかの木で出来た遊具がある。
「やっと着いたな」
「そうですね。翼君、上を見てください」
僕は空を見上げた。
「すげー!」
思わず声が出てしまうくらいそこには空を覆い尽くすように満天の星空が広がっていた。
「綺麗ですね」
僕達は各自、思い思いに星を見ていた。
途中から2名ほど広場にある木製の遊具で遊んだりしているが……
「街では星なんて見えないからな」
「明るいですからね。あっ!流れ星」
「流れ星なんてテレビだけでしか見たこと無かったよ」
「私も初めて見ました」
「流れ星に願い事をするの知ってるか?」
「聞いたことがあります。確か流れ星が消えるまでに願い事を三回言うんですね?」
「そうそう。でもこんなに早いと三回も言えないよな」
「出来ればやってみたいですね」
「まぁこれで願いが叶ったら凄いけどな。願いと言えば小学生の時、友達が四つ葉のクローバーを見つけたんだ。そんでそいつさプラモデルが欲しいって願ったんだ」
「その友達の願い事叶ったんですか?」
美羽は興味心身に聞いて来た。
「これが叶ったんだ。その日の夜に突然親がそいつの欲しかったプラモを買ってきたん」
「本当に願いが叶ったんですね」
「この辺りにもクローバーあるから少し探してみようかな?」
「すぐに見つかりますかね?」
懐中電灯で照らしながら辺りを見た。
「案外簡単に見つかったり……あ、あった」
「どれですか?」
「ほら、この小さいやつ」
「本当に見つけちゃいましたね。何か願い事叶て貰うんですか?」
「僕は特に無いからこれは美羽にあげるよ」
「良いんですか?」
「もちろん」
四つ葉のクローバーを採って美羽に渡した。
「大切にしますね」と言って美羽は微笑んだ。
昔も似たやりとりをどこかでしたような……。どこだったかな?
「そろそろ帰るみたいよ」
青葉さんが僕と美羽を呼びに来た。
他の3人は既に広場入口に居た。
「分かった。今行くよ」
僕達は来た道を再び歩き、ロッジへ帰った。