3話 もう一つの世界
昼過ぎ、部屋で漫画を読んでいると携帯電話が鳴った。
みると相手はしのぶちゃんからだった。
「もしもし?」
「私しのぶだけど今良い?」
「良いけど?」
「あのねキャンプの日程決まったよ」
「もう決まったの? 早いな」
「行く日は明後日からで2泊3日ね。あと山は寒いから長袖が必要だよ~。明日の昼過ぎに買い出し行くから~」
「オッケー」
「美羽に伝えておいて。私は青葉と涼に言っておくから」
「分かった」
「じゃ、よろしくね~」
「ほーい」
しのぶちゃんとの通話をを切りすぐに美羽に電話を掛けた。
「もしもし?美羽です」
「あっ僕だけどキャンプの日程決まったって」
「いつですか?」
「明後日。それで寒いから長袖が必要であと明日昼頃に買い出し行くってさ」
「分かりました。あの、今からちょっと良いですか?」
「まぁ良いけど何?」
「ちょっと家具を買いたいんですがどこで買えば良いのか分からなくて。良ければ買い物でもって」
「うん、いいよ。じゃぁ今からあの公園のベンチに行くから待ってて。20分くらいで着くと思うから」
「分かりました」
「それじゃまた」
「はい」
電話を切り自転車で公園へと向かった。
外はいつもながら暑く、路面からの熱もあって道はかなり暑い。
大通りは車が多いせいか路地裏より暑かった。
家を出て20分くらいで公園到着。
公園ではこんなに暑いのにテニスをやる10代後半だろう人やゲートボールをする老人達が居た。
木陰の道を通り美羽と初めて会ったベンチに向かった。
そこには白いワンピースに麦わら姿のこれぞ夏!って姿の美羽が居た。
「お待たせ」
「急にすみません」
「家に居てもやることなかったし別にいいよ。それでで何を買うんだ?」
「棚を買おうと思います」
「なら丘の下にニコリがあるからそこで買おうか」
「分かりました。じゃぁ行きましょう」
「そうだな」
公園を出てまずはニコリに向かった。
場所は公園がある丘を下りて大通りにある。
店の駐車場は車でいっぱいだ。店内は冷房が効いていて涼しい。
僕と美羽はさっそく棚を見に2階にあるコーナーに向かった。
2階は主に大きい家具が売っている。
「大きさはどれくらいにするんだ?」
「なるべく大きいくて高さ変えれるのが良いです」
「それだと……これは?」
見つけたのは組み立て式で高さが2メートルほどある白い棚だ。
「じゃぁそれにします。でもどうやってこんな大きいの買えば良いんですか?」
「1階で注文すればいいと思うよ。確か近くなら配送してくれるはずだから」
1階で店員に渡された注文用紙に美羽は住所などを記入した。
届くのは明日の午前中らしい。
「この後どうするか?」
「私の家に来ませんか?」
「突然行っても良いのか?」
「私一人暮らしですし。一人だと少し寂しので」
「そういえば一人暮らしだったな。じゃぁ行くか」
「ありがとうございます」
店を出て再び灼熱の大地を歩き出した。
美羽の住むマンションは丘の上にあるため再び坂を上った。
公園を過ぎさらに坂を上ると小学校がある。
その小学校の坂を今度は下って行くとそこは夏祭りの夜に来た所だ。
「ここです」
「デカいマンションだなぁ~」
10階はあるだろう大きさのマンションがあった。
駐輪所に自転車を止め5階にある美羽の部屋に入った。
家の中はすっきししていて必要なもの以外ほとんど何も無かった。
部屋の真ん中には小さなテーブルが置かれていた。
「はい、これ麦茶です」
「ありがと」
冷えた麦茶は最高だ。
夏と言えばやっぱ麦茶に限る。
「あっちの世界の事を知っておいて欲しいんです」
「美羽の居た世界の事?」
「はい、私の居た世界はこの世界の反対側にある世界なんです。すぐそこにあるけど遠い世界。それが私達の世界“鏡界”なんです」
「じゃぁここからでもその鏡界ってのに行けるのか?」
「それは出来ません。近くても遠い……つまり決められた場所からしか行けません。その一つがあの公園に繋がっているんです」
「あの公園がそんな摩訶不思議な所だったとは……」
「私たちは鏡界からこの世界を調査しに来ているんです」
「調査って?」
「こっちの世界の人はどんな生活をしているかとかですね。それを毎年夏と冬の2度レポートにまとめて提出するんです」
「毎年?ってことは去年も来たのか?」
「去年の夏も冬も来ました。それで戻る時は皆さんの……」
その時足に何かの箱が当たった。
「ん? なぁこれって?」
「えっあ、はい。なんですか?」
テーブルの横には小さな箱に入った幾つものキーホルダーやストラップが入っていた。
「こういうの集めているの?」
「集めていると言うか大切な人からの貰い物なんです。その人は毎年初めてあった私に声をかけてくれる優しい人なんです」
「毎年初めて? 調査する場所が毎年違うのか?」
「えっとそういうわけでは」
「そうか。にしてもここにある物どれも見たことあるような気がするな……」
「ご当地定番のだけですから。と言ってもこの静岡県と隣の長野県くらいしかありませんけど」
「それでか。僕も昔はよく家族で旅行に行ったっけ。そこで見たのかもな」
「きっとそうですね」
「さて僕はそろそろ帰るよ。明後日の支度もしないとだし」
「そうですね。今日はいろいろありがとうございました。」
「明日時間があったら届いた棚組み立てるの手伝うよ」
「ありがとうございます」
僕は玄関で靴を履きドアを開けた。
「それじゃまた明日な」
「はい、また明日です」
マンションを出た僕は自転車で坂を下って家へと帰った。
そういえばさっき美羽が何にかを言いかけたような……気のせいか?