雷鳴
「……」
風が吹く。
「……」
暗闇の中、
「……」
紅い月が照らす、
「……」
冷たい地面に
「………」
這いくばるように倒れている俺、
「……がっ………」
目の前には、
豹変した綾瀬の姿、
髪の毛は伸びて、夕日で霞む空のように美しい、
だが瞳には一筋の光さえも通さない闇で覆われていた。
「幻獣 妖狐」
「!?」
森の中から唐沢が姿を現した。
「妖狐は人の心に取り付き、悪意や不安と言った負の感情を増幅させる、そうやって人の心を潰して、体を乗っ取る、ランクSの幻獣だ」
「おい……」
「なんだ?」
力を振り絞り、立ち上がる。
「お前知ってたんじゃないのか、綾瀬がこうなったことを…………」
ふらつきながら、唐沢を睨みつける。
「…………」
「黙ってないで答えろよ」
「はぁー、分かったよ」
俺に近づいてくる唐沢は、
面倒くささを表すようにあくびをする。
そして彼の口から衝撃の一言が発せられた。
「知ってたよ、それがどうかしたのか」
「!!」
怒りのあまり、無意識的に胸ぐらを掴む。
歯を食いしばり、必死に怒りをこらえようとする、
それが普通だろ?
綾瀬は大切な友達、
それがこんな姿になって……、
「ふざけんな……、なんでお前は平気でいられるんだ!!」
「………」
「あいつが苦しんでいたのも知っていたんだろう!!何も思わなかったのかよ!!」
「……」
「あいつは、助けて欲しかったんじゃねぇのか!?なんで助けてやらなかったんだ!?」
「いいかげんにしろ………」
暗く、冷たく、そしてかなしげな声が重く響きわたる。
涙は流さないものの顔はクシャクシャになっていた。
それは俺の怒りを沈めるのに十分だった。
「なんで、お前がそんな顔すんだよ………」
「俺には何もできなかった、俺は………無力だ」
「どういうことだ」
「人に取り憑く幻獣は、殺すしか手がない、この意味が……分かるよな」
「そんな、綾瀬は……どうなる!?」
心臓の音が大きく跳ねる。
馬鹿な俺にでもわかる。
でも信じたくない事実、
「……助からない」
全身の力が抜けて、腰から地面に落ちる。
顔を滴る涙、
何のための修行だったんだ、
俺はただ誰かを守るために……、
結局力を手に入れても俺は、
何も変わらない。
何もできない。
誰も守れない。
「諦めるのはまだ早いぜ」
肩に唐沢の手が置かれて、
暖かさが伝わってくる。
落ち着きを取り戻していき、
俺は立ち上がった。
「そんなこというぐらいなら、なんか策でもあんのか?」
「そんなもん必要ないだろ」
「はっ!?」
「さっき助けるのは無理って言ったよな、それは綾瀬と妖狐の心がガッシリと引っ付いているからだ、でもよ………」
「な、なんだよ」
唐沢がニヤニヤしながら俺を見てくる。
期待と希望の眼差しで……、
「お前のその武器、夢想の幻拳なら不可能も可能になるんじゃねぇか?」
「俺の武器で!?」
「そんな、驚くこと無いだろ、なんせその武器はお前の思いを形にする能力なんだろ?それなら綾瀬を助けたいと思いを形にすればいい、」
「綾瀬を救えるのはお前だけだ」
「俺が……」
そうか、やっと、
俺は…………誰かを助けられるのか、
俺の力で……、
「分かった!!俺がやる、やって見せる!!」
決意を固めたその瞬間、
まばゆい青い光が俺の右手を覆っていった。
幻獣、妖狐の覚醒により、
街に異変が生じていた。
それにいち早く気づいたトールは、
浅蔵の体を借りて、町中を飛び回っていた。
(どこだ!?)
電磁力の利用による超スピード移動、
その速さゆえ、一般人には全く見えない。
だから俺の姿を見て騒動が起きたり、邪魔されたりしないわけだ、
しかし、
「うっ!?」
頬スレスレを木の枝が通り過ぎる。
ありえない状況、
だが、トールは逆に落ち着いていた。
「誰だ?」
居場所は分かっていた。
限りなく低い電圧で辺りを覆う、
いわばレーダーのようなもので探知したからだ。
「いるのは分かっている、出てこいよ」
だが、反応はない。
無言でトールは、右手に電気を集め始めた。
そして、投げるように電撃を放った。
凄まじい光、爆音、
それらが収まったとき、
辺りは綺麗さっぱり吹き飛んでいた。
一人を除いて………。
「手荒すぎですよ、トール様」
スーツ姿の男、
真庭研一だ。
「お前何もんだ、これはお前がやったのか?」
「いえいえ、わたしたちではありませんよ、とんだ誤解です」
「ならそこをどけ」
「残念ながらそれは無理です」
真庭の背後から大量の人形が飛び出して、
大きな壁を作り出した。
「でも通っていいですよ、通れるもんなら」
不敵な笑みを浮かべる。
「………」
瞬間、トールの体が真っ白に発光する。
雷鳴が唸り、一度に膨大なエネルギーが放出された。
だが、
「ガード、ガード」
人形たちに直撃したのに、傷一つついていなかった。
「!?」
「そんなに驚くことはないですよ、なんせ能力によって作られたものなんですから」
「そこをどけ!!」
両腕を前に突き出し、電撃を放つ。
複数に別れた光の槍の一つは、
真庭のほうへ向かっていった。
電撃は爆音とともに消え去り、黒煙が立ち込める。
「………何をやっても無駄のようだな」
煙の隙間から笑顔を見せる真庭、
圧倒的な破壊力を持つトールでさえ、
破壊することができない人形の壁、
「ちっ、めんどくせぇな」
「まぁまぁ」
真庭の顔に笑顔は消えない。
対してトールは焦りを隠せず、苛立ちをも感じ取れる。
それほど事態は刻々と深刻さが増している。
「っ……!!」
電撃を纏い、魔力を向上させていく。
蛇のような動きをする電撃、
「ただの電撃じゃ貫通できませんよ」
それでも変わらず余裕綽々の様子だ。
だが、次の瞬間、
白い閃光が真庭を襲った。
「!?」
驚きの表情を浮かべる、
それも無理もない。
先程まで目の前にいた雷神トール、
その姿が一瞬にして消えたのだ。
過信はしていないが、
真庭は自分の能力を足止めには一番だと思っていた。
事実、さっきまで雷神トールの足を止めていた。
なのになぜいきなり抜かれたのか、
「くっ…」
おぞましいオーラが背中を撫でる。
雷神トールは背後にいた。
その姿は、
白髪に黄色の瞳、まさに神秘的な雰囲気を感じさせる。
「限定解除か……」
真庭が一言そう吐いたとき、
トールの姿は電撃を残して、消えていた。
「…………綾瀬ちゃん」
「………綾瀬ちゃんってば!!」
「何寝ぼけてんのさ、もう朝だよ」
「え?だれだって、僕は****だよ」
「ほらほら早く布団から出て、始めるよ」
「何をって?そうだなー、簡単に言えば」
「楽しいことだよ」
ネタ切れやばし