人間と堕天使
第四章はじまりますー
ヒロキたちの戦いが終わった後、
ベルフェゴールことベルは『あるもの』を持ってアジトに戻っていた。
そこは、朝と昼がない島『夜狼島』
山岳地帯を改造してアジトが作られた。
だがベルはここにいることはほとんどない。
中は湿気ているし、まず日光が当たらないため、肌ががさつく。
美容に気を使っているベルにとって、
それは体を炎で焼かれるより苦しいことだ。
だからあまりここに来るのは気が進まなかった。
「ったく、もう少し美容にいいところに作れよな☆」
渋々アジトの入口に足を入れる。
数歩進んでベルはにやっと笑った。
「で、いつまで隠れてんのかな☆メタトロン☆」
影に向かってそう言い放った。
いやすでに影ではなく、
それは実体化し、人型となってその場に立っていた。
長いピンク色の髪に整った顔立ち、
堕天使の中で珍しい女性である。
「コカビエルを始末しにいくときもその最中もずっと視線を感じてたんだよね☆」
「出来れば止めてくれないかな?気持ち悪くてしょうがないんだよ☆」
「すみません、今後気をつけます」
薄暗い洞窟に透き通った声が響きわたる。
光はほとんどないはずのに髪の毛が星屑のように輝いている。
これがベルの嫉妬をさらに焚きつける。
「前も言ったような気がするよ☆こんなこと☆」
「いえ、多分それは私じゃありません」
きっぱり否定され、少し顔がひきつる。
「そ、そうだったかな☆あぁ!?思い出したよ、そいつのこと☆」
メタトロンは興味がないようで
そのまま背を向けて洞窟の外へ歩き出した。
「待てよ☆そいつってのはおもしれぇ人間なんだよ☆」
「人間?」
メタトロンの足がピタッと止まった。
「そうだ、人間だよ☆男性でねー、君みたいにこそこそと僕を見てたんだよー☆」
見られるのが嫌だと言った割には、
結構嬉しかったかのように話している。
「人間ですか……わかりました」
「は?何がわかったの?今の話で?」
「あなたには関係ないです、さっさと例のものをルシファル様に届けてください」
なんだよと吐き捨ててベルは洞窟の奥へと進んでいった。
一方、メタトロンは洞窟の外へ出て、
島の浜辺までたどり着いていた。
そこには、見慣れぬ人影がこちらへ向かって歩いてきている。
メタトロンはベルがこの島へ到着したときから、
何かがあとをつけていたことを感知していた。
最初は天使か神かと思っていたのだが、
どうやらそうではないようだ。
人影はこちらに気づいたようで
歩を止めた。
「出迎えとは、ご苦労さまです」
「人間が早々来れる場所じゃないはずですがね……」
月明かりで人影の姿があらわになる。
優顔で、スーツを着ている人間の男だった。
「いやー、大変だったよ、さすがルシファーだ、こんなところにアジトがあるなんて予想もつかない」
スマイルを浮かべながら、お世辞を言う。
しかしメタトロンはそんなことに耳もくれず、
「あなたは誰ですか?いや、名前はどうでもいい、なんの目的でここに来たのですか?」
「目的かー、まぁ簡単に言えば、」
人差し指を上にさして☆★smile★☆
「平和でhappyな解決を求めてるってこと」
それを聞いた途端、まゆにシワがよるメタトロン、
「平和でhappyだと……笑わせないでください」
「すでに戦いの火蓋は切って落とされた、もう遅いのですよ、争いなしではもう終わらない」
するとメタトロンの影が浮き出ていき、
実体化した。
「待って待って、僕は争う気はない、争ったところで残るとのは何もないだろ?よく考えるんだ」
スマイル紳士は落ち着いた雰囲気で説得を促す。
だが
「考えた結果がこれですよ!!」
メタトロンは猛然と攻め始める。
影とメタトロンは複雑に交差しながら、
スマイル紳士に近づいていく。
「仕方ない、あなたがその気ならこっちもそれなりにやらせてもらいますよ」
スマイル紳士が指を鳴らすと横に人形のようなものが浮いた状態で現れた。
メタトロンはそんなことは気にかけず、
スマイル紳士に一撃を………
その瞬間、人形が高速で動き、メタトロンの攻撃を防いだ。
だがまだ影の方が残っている。
影はさっきとは逆方向から攻めてきた。
人形は本体の攻撃を防いでいるので
さっきのようには行かない。
(さぁどうします?)
だが攻撃する刹那、目の前に黒い物体が現れた。
そして、そいつにメタトロンの攻撃が当たる。
「なっ!?」
驚きを隠せない、その場で動きを止めてしまった。
数秒後に何が起こったのかをやっと理解できた。
さきほど本体の攻撃を防いだ人形が2体に増えていたのだ。
「邪魔ですね、この人形」
メタトロンと影は人形に猛烈な連続攻撃を放った、
がまったくの無傷で何事もなく宙に浮いていた。
「無駄だよ、これは僕の能力だからね」
「能力………」
二つ増えていた人形がひとつに戻る。
「僕の能力『平和と笑顔』、他人に敵意を向けられることで発動する能力、その効果の一つ『防衛軍』僕が受けるダメージをすべて肩代わりしてくれる」
「なるほど」
(いくら攻撃しても無駄って言いたいわけね)
「僕は争いを好まないんですよ、だからここは大人しくしてもらえますか?」
メタトロンはすこし考える素振りを見せたが、
「それは無理ですね、ここであなたを見過せば私がルシファル様に殺されますから」
再びメタトロンは攻撃を開始する。
本体と影は何重にもフェイントを引っ掛けながら、
人形の守りを抜けようとするが、
いくら動いても抜けられない、
(これは、、、)
メタトロンは人形から一旦距離をとった。
「無駄っていったじゃないか、防衛軍は僕の2メートル範囲に入ってくる敵から必ず守ってくれる能力だからね」
(なるほど、範囲系能力ですか………)
メタトロンは影を元に戻し、一定の距離を保ったまま、スマイル紳士を中心にぐるりと回った。
それをおとなしく見ていたスマイル紳士は、
「何をしてるんだい?降参って意味かな?」
「いえ、私の能力も教えておこうと思いまして」
元の位置に戻ってきたメタトロンは、能力の説明を始めた。
「私の能力は『表裏逆転式』、この世に存在するものは必ず裏があります、裏があるということは表も存在する」
「例えば、さきほど見せた影、影は実体がない、これに能力を当てることで非実体という性質から実体という性質に逆転させることができる」
「なるほど、でもその場合、このような問題がでません?」
スマイル紳士は人差し指を立てて、
「影というのは本体があって形を成すものだ、本体が傷つけば影も同じように傷つく、しかし実体化した影は本体と同様の性質を持っているから……」
頭がこんがらがってうーんと唸る。
「つまり、影を攻撃したらどうなるのかと聞きたいんですね」
「そう!!それだよ!!」
顔をあげて、グッジョブと親指を立てたポーズを決める。
メタトロンは無視して話を進めた。
「答えは、影には傷一つつけられないでしょう、影は本体に従って形を保っているので影自体は本体が傷つかない限り……かすり傷さえできません」
「なるほど、なるほど、次どうぞ」
気づけば
スマイル紳士の周辺はいつの間にかくつろぎの間となっていた。
防衛軍とトランプまでしている。
その光景にすこし苛立ちを覚えた。
「いや、もう話すことはありません、準備は整いましたから」
メタトロンの顔に笑みが浮かんだ、
ような気がした。
「へ、何だって?」
「さて、最後に1つ、私の能力はとどのつまり、性質の逆転です、」
スマイル紳士はハテナマークを無数に放ちながら、立ち上がった。
「すでにあなたに罠をかけています、ジエンドです」
強い突風が二人の間を通り抜ける。
「そうか、じゃあやってみなよ」
このような状況なのに、何故か余裕のあるスマイル紳士、
「わかっています、では」
メタトロンは地面に右手を突き出した。
手が地面に当たり、バシンと大きい音が響き渡った瞬間
スマイル紳士から半径5メートル範囲の地面がいきなり陥没した。
「!?」
さすがにこれを予測はできなかったらしく、oh my gotと言いながら空中でアタフタと慌てている。
「地面を構成している土は、砂が固まってできたものよ、それを逆転させたらただのサラサラの砂になるわけ」
つまり即席の落とし穴というわけだ。
「これなら、あなたを殺せなくても、拘束できる」
大きな音を立てながら、崩れていく。
やがて崩れは止まり、砂ぼこりがあちこちに広がっている。
メタトロンは大きな穴に目もくれず、振り返り、
「その程度じゃ使い物になりませんね」
と謎の言葉を呟いて、彼女はアジトへと急いで戻った。
アジト内
『メタトロン』
機会の声が彼女を引き止めた。
『イマシガタ、オオキナバクハツオンガキコエタガ』
「問題ありません、アスモデウス様」
『ソウカ、ナライイ』
顔を覆う布の隙間から見える三つの赤い目がメタトロンから外される。
そしてそのまま階段を上がっていった。
暗い静寂の中、窓際に寄って月を眺める。
何か物思いにふけっているかのように
「君、ホントはここの仲間じゃないだろ?」
「…………そうよ」
不意の声にもビビることなく、返答した。
その声の主が先ほどのスマイル紳士だと知っていたとしても、
「やっぱり生きておられたのですね」
振り返り、スマイル紳士のほうに顔を向ける。
「いや、死にかけたけどなんとか」
あんな目にあったというのに彼の顔にはスマイルは消えていない。
「で私に何の用ですか?まぁ察する限りメンバーの情報がほしいのですね」
「察しの通り!!ではいただけるというわけですね」
彼女の手から書類の様のものが現れた。
スマイル紳士はそれを受け取って、中身を確認する。
堕天使長 ルシファル 第八の罪
秘書 メタトロン なし
幹部 ルーキフェル 第六の罪
サタン 第七の罪
ベルフェゴール 第三の罪
ベルゼブル 第一の罪
マンモン 第二の罪
アスモデウス 第四の罪
レヴィアタン 第五の罪
アザゼル なし
コカビエル なし
「本物みたいだな」
確認し終えると書類をバックに詰め込む。
「コカビエルは既に死んで、サタンは悪魔化していて、ここにはいない、それだけ付け加えてください」
「りょーかい」
スマイル紳士は背を向けて階段を下りだした。
「待ってください」
メタトロンが彼の足を止めた。
「最後に名前を教えてもらえないでしょうか?」
彼はしばらく考える素振りを見せて、こっちに振り向く。
「僕の名前は、真庭研一」
「大賀師匠をリーダとする『NeXT』のメンバーさ」
そういい終えた途端、
彼は光り輝く☆★smile★☆とともに闇に消えていった。
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