2刀の輝きー不完全な終わりー
「ほぅ…、この状況で臆せず向かってくるか……」
白い肌が不気味な雰囲気を醸し出す。
堕天使コカビエルである。
「マリ、俺がやつの動きを止める、だからトドメは頼む」
「りょかい!」
隣で透明の剣と漆黒の剣をもつ赤髪の女性、マリが威勢のいい声で答える。
俺は大剣を構え直し、コカビエルに闘志を宿す目で睨みつけた。
熱で空気は歪み、コカビエルの赤い瞳だけが明るく光っている。
「ではこの私、ロキ様も手伝いましょう!!」
ロキが
ドヤ顔でピースを決めながら、俺の側へやってきた。
「当たり前だろ!!ほら、さっさと準備しろ」
「りょか〜」
手を挙げて返事したロキは、目をつぶり、
その瞬間、体が紫色の光に変わり、弘樹の体と同化する。
シンクロである。
髪と瞳は紫色に変わり、左目の下にはロキの紋章が刻まれ、しばらくして
弘樹を纏っていた光が弾け、その姿が鮮明に現れた。
「しゃぁー!!」
紫色の大剣を上に振りかざし、雄叫びを上げる。
風の靴を召喚し、大剣を再び構え直して空中にいるコカビエルに攻撃を仕掛けた。
「さっきよりましになったかな?俺を楽しませてくれよ!!」
底知れぬ魔力を全体に放出し、漆黒の翼を大きく広げた。
前の俺ならその姿に恐怖を感じて、
動きが止まっていただろう。
だがロキと同化しているためか、それを見ても恐怖の一つも浮かばなかった。
「威嚇のつもりか?カラスが!!」
大剣を上に掲げ、振りおろした。
コカビエルはそれを何の小細工もなしに右腕でガードして、
魔力を纏った左拳で俺の頬に向かって殴る。
両手を剣で塞がれているため、その攻撃をガードする術はなかった。
頬にぶち込まれ、壁まで吹き飛ばされた俺は瓦礫に埋もれた。
痛烈な痛みを堪えて、俺は立ち上がり再びアタックを開始する。
コカビエルはそれに対抗して闇魔法を連続して発動した。
槍型、球型、剣型、様々な形の黒い物体が空から降りおろされる。
俺はそれらを満身創痍で斬り裂いたが、
爆発で吹き飛ばされた地面の破片が体を傷つける。
鋭い痛み、だがそんなことより
時間がない、すでに2分は経っている。
火球の影響により、この広場はサウナのように蒸し暑い。
先ほどの無謀な戦いで
体力的にも限界が近づいているのは間違いないだろう。
あんだけ勢い良く言ったのに、
出来れば、マリには任せたくなかったけど、
時間内にやつを倒す力を俺はもう持ち合わせていない。
「仕方ないか………」
俺は決断した。
いや、賭けたのだ。
マリにすべてを託すことを……
そうと決まれば、
俺がやるべきこと、
「やつの動きを止める!!」
その瞬間、大剣は光り、糸が解けるように消えた。
そして、再び手元に光が集まり、大剣とは違う形を象った。
「これが夢想の幻拳の真骨頂だ」
夢想の幻拳:捕縛鞭mode
手に握られたのは鞭、
敵を捕縛するために作り出されたものだ。
「さて、時間もねぇし、さっさとやりますか!!」
鞭を勢い良く張って、左右に振り回し始める。
すると、鞭の長さが徐々に伸びていき、約3倍の長さになった途端、
俺は動いた。
鞭をくねらせ、コカビエルに切っ先を向けた。
「剣より速いが、そんなスピードじゃ俺には当たらねぇよ」
コカビエルはムチを軽々とかわす。
「ちっ!」
戦っている最中もずっと笑った表情を崩さない。
やつの心理は簡単に理解できる。
なめきっているのだ、俺たちを……
だがそれはこっちにとって好都合であり、
それがやつにとっては命取りになる。
「おい、コカビエル、お前、なんか勘違いしてないか?」
「これは鞭だが、ただの鞭じゃない、俺の想いを具現化したものだ」
「言いたいことわかるか、説明すんのだるいから実際に見せてやるよ」
ひとりでボソッと呟き、鞭を持つ手を翻した、
切っ先は曲がり、コカビエルの方へ向かっていく、
とやつは思ったはずだ。
ちがう、そんなにしょぼくないさ
やつは俺が思った通りの反応を示し、鞭が向かっていった方向に振り向いた。
だがそこに鞭はない。
「!?」
鞭独特の高い音が響きわたる。
驚きの現実、
コカビエルの足に鞭が絡みついていた。
「どういうことだこれは!?」
良く見れば、鞭が無いのではなかった。
鞭の切っ先だけきれいさっぱり消えていて、
その切っ先がコカビエルの足に絡まっていた。
「空間を飛んだんだよ、鞭がな、」
「これがこの鞭、夢想の幻拳の力だよ」
鞭を引っ張り、コカビエルを地面に引きずりおろした。
「は、はは!!!すげぇな!すげぇよ!!だがそれだけだ!!お前たちは俺に傷をつけることもできな……」
やつの口が止まった。
まるで何かに気づき、驚いたかのように……
集中、集中、集中、集中
コカビエルを必ず仕留める。
それだけを考えていればいい。
私は両手に剣を握り締め、覚悟の念を強める。
フレイヤを助けるため
力を手に入れた。
いや少し違うかな、
私を、私自身を守るためだったのかもしれない。
親からの強い束縛と期待、
そんな重みが、いつの間にか私を苦しめ、心を閉ざさせていた。
そんなとき、やってきた話がフレイヤ救出作戦だった。
フレイのために引き受けたけど、
本当はヒロちゃんと会いたかったためなのだ。
だから、この剣に込められた想いは一つだけじゃない。
そのとき、地面に何かが激突する音が鳴り響いた。
目を開くとそこには、
鞭を持ったヒロキと地に膝をつくコカビエルの姿が見えた。
ヒロちゃんは動きを止めてくれた、
次は私が使命を果たす番、
ゆらりとその場所へ足を動かす。
徐々に体の奥底から魔力が漏れだし、目に見えるほど強大になる。
その魔力に気づき、コカビエルが視線を移動させた。
「おい、そこの女、その左手の剣……まさか………」
「へー、この剣知ってるんだー」
敵に動揺の色が明らかに見える。
まぁ思い当たる節はあるが、
「この黒剣は魔剣ダーインスレイヴ、もとは永久氷とよばれるただの水、数百万年前に悪魔の炎によって汚染されたその一部よ」
黒剣の真ん中には眼球が埋めてあり、ギョロギョロと動いている。
ほんとは持ちたくない、気持ち悪い
でもこの剣の力を借りなければ、
きっと勝てない、
「マリ、あとは頼んだ」
ヒロちゃんがこっちを向いて、
にっこりスマイルで決めてくる。
私は小さく頷き、両に剣を構えて腰を落とす。
最速で決めるために………
思いっきり地面を蹴り飛ばし、攻撃のため強く軸足を踏み込む。
低い体勢で左斜め下からコカビエルの胸元を切り裂く。
硬質の肌と擦れ合い、火花を散らす。
さらに、
右斜め上から肩を狙い、叩きつける。
「ぐっ!!」
右の一撃は、敵の左腕でガードされ高い金属音が響きわたる。
しかし、連撃は終わらない。
両剣を引いて、同時に前に突き出す、
がら空きの腹に突き刺さり、コカビエルは苦悶の表情を浮かべる。
そこから、上空へ切り上げ、×字を描くように同時に斜めに斬りおろした。
この攻撃の際、初めてやつの身体に傷が現れた。
目にも止まらぬ連撃はまだ続く
残像が残るほどの斬撃スピードはまだ上がっていった。
やがて、斬撃音がマリの動きに遅れて聞こえるようになり、あのコカビエルの体はすでに切り傷が顕著していた。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
マリの最後の一撃、ど真ん中への突きはクリーンヒットして、
コカビエルは血を撒き散らしながら壁に叩きつけられる。
そしてその瞬間、
広場を支配していた暑苦しさが無くなった。
火球が消えたのだ。
「………勝った………」
「マリ!!」
俺は目の前で倒れそうなマリを支えるように受け止めた。
「マリ!!大丈夫か!?」
「ヒロ…ちゃん………」
目を開いて小さな声で何か呟いた。
「心配しなくて…いいよ……魔剣を使った影響で……ちょっと疲れただけだから…………」
「………」
マリの身体はすでにボロボロになり果てていた。
俺は最初に自分に課したはずだ。
マリを守るって……
なのにまた守られた………
「おれも……まだまだだな……」
マリの身体に力が感じられない。
気絶したようだ。
マリを抱き抱えて、壁近くまで移動する。
そこでシンクロを解除した。
「おれがフレイヤを探してくるから、ロキはここ頼めるか?」
「任せてください!!道中気をつけてくださいね!」
「さすがにてもう敵は出てこないだろ!」
マリをロキに任せて、フレイヤがいるかもしれないあの扉に向かう。
その間俺は心配事を考えていた。
コカビエルか………
あんなやつがこれから先襲ってきたら俺たちはどうなるんだろうな………
今回の戦闘は、2対1でやっとのこさ勝ったものであり、1対1だったら勝てなかった。
こんなんじゃ、この先が思いやられる。
どうにかしないとと考えながら
扉の前まで来た途端、おぞましい魔力を背後から感じた。
「まったく派手に殺っちゃってー☆」
全く知らない声が広場全体に響く。
振り向くとそこには、
コカビエルを炎で焼いている堕天使がいた。
「ゴミ処理完了☆まぁ仕事はちゃんとしたみたいだし、死後の世界で昇格させてもらいなよ☆」
長い金髪をたなびかせながら、こっちを振り向いた。
「やぁ、僕の名前は『ベルフェゴール』だよ☆堕天使の七大幹部様だ☆」
堕天使、
なのか!?
めちゃくちゃ輝いてんだけど!?
星マークが空中を飛び交っているんですけどぉぉぉ!?
「えーと、君たちはフレイヤを探してるんだよね?彼女ならほら☆」
指をパチっと鳴らした瞬間に、
金髪の女性が俺の腕に落ちてきた。
どうやらこの子がフレイヤのようだ。
「じゃあまたね☆」
「おい、待て」
勝手に出てきて勝手に帰ろうとする堕天使を止めた。
聞きたいことが山ほどあるからだ。
「なんでフレイヤをさらったんだ?」
俺の問いに対して、目を丸くするベルフェゴール、
「えーと、フレイヤはまったく関係ないよ☆計画に必要なものを奪うとき邪魔したから連れ去ったんじゃないかな?」
「まぁ、どちらにせよ関係ないよね☆」
その言葉を残し、暗闇に消えていった。
戦いは終わり、フレイヤも救出した俺たちはそのまま家に帰り、死んだように寝こんでしまった。
マリの怪我はフレイとフレイヤの治癒術でほぼ回復したらしい。
なにもかもハッピーエンドで終わったということにしてもいいと思う。
でも最後に現れた堕天使
やつの言っていた計画が何なのか
それだけが俺の気がかりだった。