夢想の幻拳と虚栄の魔槍
俺はとても運の悪い人間だ。
恋愛事になると特に目立つ。
小学生のとき、告白する際、鳥から糞をかけられ、
中学生のときなんか、デートに行く直前にインフルエンザ発症!!
そして今、俺は過去最大の不幸に見舞われたのである。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
絶叫しながら、俺は全速力で道を通り抜ける。
そんなに早く綾瀬とデートに行きたいかって?
たしかに行きたいさ!!綾瀬のためなら1分で家に着くこともできるわ!!
でもまぁ、今回は違うのだ。
追われているのだよ。悪魔に…………。
今、この場にロキはいない。
だからいまの俺には逃げることしかできない。
そういうことだ。
「ギイイイイイイイイイィ!!!!!!!」
さらに速度を上げる悪魔、
距離を少しずつめていく。
「何なんだよ!?俺に何の用があるってんだよ!?」
家まで全然距離がある。
このままじゃ追いつかれて殺されちまう。
イヤダヨー、マダシニタクナイネー~~~~!!
俺は気合で速度を上げた。
だが、引き離すほどではない。
俺に力があれば、こんなやつから逃げることもないだろうに……
頭の中で自分の力の無さを嘆く。
そんなことをしたところで、現実は変わらないことも知っている。
俺はひたすら逃げ続けた。
ロキサイド
「弘樹さんが神子ってどういう事ですか?」
私はミカエルに言った。
ミカエルは先程、弘樹さんが帰ったあと、彼の正体は神子だとそう言い放った。
神子とは、
神の加護を強く受けた人間のことであり、彼らには神に対抗しうる特殊な個性が与えられていると言われている。
ちなみにここでの神は、私たちのような神族ではなく、神の始祖カオス様のことを指している。
しかし神子は、カオス様の力の衰退により、数百年近く確認されなくなったはずだが………
「彼が何故神子なのかというのことは詳しくは知らんが、今回加護を受けている者は決まって罪を背負っている者だ。おそらく、大賀弘樹も何かの罪を心の内に秘めているかも知れんな……」
神の加護を受けるほどの罪って……
想像がつかない。まるで空に浮かぶ雲を掴むような感覚だ。
ん、それならば
「弘樹さんはともかく、高橋さんはどうなんですか?人間にして不可解な能力も持っているし。」
「あぁ、彼は三大神器に選ばれた幸運、いや選ばれて当然の少年さ。」
意味がわからない。
ただの人間があの強力な武器に選ばれた?
何か特別な力でも持っているのかな?
そういえば、高橋がいない。
いつの間にか、何処かへ行ってしまったようだ。
「じゃあ、高橋さんの武器の能力ってなんですか?あなたの鎖を溶かしていたけど、温度操作じゃないよね?」
先の戦いで彼が見せつけた能力、
自分が対象としたものの温度を操るというものだった。
「いやいや、全然違うよ、そんなしょぼい能力じゃない。それなら誰にも使えちゃうからね、誰にもね。」
またしても壁にぶち当たった。
誰にも使えるものじゃないってこと?
彼にしか使えない…………
頭がこんがらがってきた。
「ど、どういうこと?」
聞いた途端、ミカエルが鼻で笑った音が聞こえたような気がした。いや、気のせいか……
「まずは、彼の武器の名を教えよう。武器の名は、[虚栄の魔槍]というんだ。」
ロンギニス……
キリストを処刑した際、死亡したかどうか確かめるために扱われた槍。
手にしたものは、絶対的な力を持つと人間界では言われている。
「能力はいたって簡単、思い込みを現実に変える力さ。まぁ、発動するには相当な思い込みが必要だから、中二病の彼が選ばれたんだろうね。」
な、なるほどー
確かに納得できる。あの格好、あの口調、確かに本で読んだ中二病の症状にそっくりだ。
「ということは、彼は自分が温度操作が可能だと思い込んでいるから、座標融解が発動するわけだね。」
「そのとおりだ。」
指をパチッと鳴らして、指を立てるミカエル。
ロンギニス、神をも殺しかねない強大な力、
しかもそれと同等の力を持つ武器があと二つ……
「あと二つの武器って何なんですか?」
知っていても損はないだろうと思って、私は聞いてみた。
「うーん、一つはまだ謎なんだけど、もう一つは彼、大賀弘樹が所持している……」
「夢想の幻拳だよ」
「え?」
「うわぁ!?」
石につまずいて盛大にずっこける。
めちゃくちゃはずかしいいいぃ!!!!
でも今は気にしてる暇はない。
「ギイイイイイイイイイィ!!!!」
「ぐっ!!まだ追ってくんのかよ!?」
かれこれ20分は走り続けている。
体力も精神力も限界に近づいている。
そして奴との距離も……………
「!!?あそこだ!!!」
目の前に曲がり角を見つけた。
ここに賭けるしかない。
そこを曲がって、やつを引き離そうと思ったのだ。
この時俺は、焦っていたのだろう、とても大きなミスをした。
「う、うそだろおおぉ!!!!!!!」
何と目の前に運悪く、大きな壁がそびえ立っていた。
行き止まりだ。
「や、やべぇ…」
悪魔も角を曲がって、俺に近づいてきている。
最悪だ。
まだ、10数年しか生きてないのに、
こんなことって……………
メラメラメラメラメラメラ
何か心の奥底で燃え上がるような感情が沸き上がってくる。
それは、諦めや後悔などといったものではない。
これは怒りだ。
何故怒っているのかは良く分からないが、
思い当たることはある。
「俺の初デートを邪魔しやがって…」
時間に遅れちまったら男の名折れだろ…
そんな理由で怒っているのかって思っただろう?
でも俺にとっては大切なことなんだ。
二度と失敗はしない。
だから、
「だから、俺はここで死ぬわけには行かねぇんだよ!!!!」
既に俺の体から恐怖は消えていた。
笑いたければ笑うがいい。
私欲のために奮起する俺を……
右拳を握り固め、俺は立ち上がった。
そして、
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」
顔面に向かって拳を、パンチを打つ!!!!!!
そのとき、俺の気のせいだろうか
右拳が目映く光り、俺の想いに応えるかのように加速した。
「ガギャァァァァァァァァァ!!!」
パンチをもろに受けた悪魔は、もがき苦しみ、
そして消えていった。
その後、無事デートに間に合うわけだが、
これはまた別の話として話そう。