夏、草取り、幼馴染。
「即興小説トレーニング」より重複投稿。
お題:捨てられた雑草
制限時間:30分
誤字訂正しました。
小学校ときの担任の先生の口癖、というか決まり文句と言うか、男の、中年の先生だったんだけど、あの先生がよく言っていた。
雑草のように生きろ、と。
小学生相手に言うような台詞じゃないと思う。意味わからないだろう小学生じゃあ。つまりあれだろ?雑草のようにしぶとく生きろ、とか、踏まれても立ち直れ、とかそんな感じの。
そこまで言ってたならまだともかくとして、あの先生はそれしか言ってなかった気がする。
雑草のように生きろ。
それだけ言われても何も伝わらんぞ。
と、今の俺はそんなことを考えている。どこかの誰かが言っていたっけかな。雑草と言う名の植物は存在しないと。成程確かにそうだろう。何にでも名前を付けたがる人間だから、既に発見されている植物には全て名前があるんだろう。
ぶっちゃけどうでもいい。
でも他に考えることもないのだ。親戚に頼まれて親戚の無駄に広い庭の雑草抜きをしているのだが、もう腰痛い。めっちゃ痛い。額に滲み、目に入りそうになる汗を何度もぬぐいつつ、炎天下の下でせっせと雑草を抜く。抜いて抜いて抜きまくる。喜んでやるような仕事ではない。もちろん報酬につられたのだ。おじさん、けっこう弾んでくれると言ってたからな。じゃなきゃやらん。
抜かれた雑草が、俺の後ろに累々(るいるい)と小山を作る。その様は、さながら雑草の墓場。
「あ、茂じゃん。やっほー」
垣根の向こうから声がかかった。俺が顔を上げると、細身の女が手を振っていた。まあ、幼馴染というやつか。中学を卒業して以来行動範囲がお互いに変わったから、会う機会もかなり減っていた。いつ以来だろう。
「何してんのー?」
「見て分かんない?草取り」
「そーだねー。そっち行ってもいい?」
いいともさ、と答えつつ俺は立ち上がって腰を伸ばした。バキバキと不吉な音を立てる。将来がやや恐ろしい。
「へー、結構取ったね。いつからやってるの?」
俺の後ろの雑草の墓場を眺めつつ縁が感心したように言う。
「朝から。バイトみたいなもんだよ。結構くれるって言うから仕方なく」
「へえ。ちなみにおいくら?」
これこれ、と示すと、縁は驚いた顔をした。
「うわ、おじさんお金持ちー」
「そりゃあ、こんなに無駄に広い庭付きの家建ててんだからな」
庭も広けりゃ家もでかい。仕事が何だか忘れたが、金持ちなのは間違いない。
「あたしもやろっかなー」
「やめとけ。手が汚れる」
「えー茂、あたしのお母さんでもあるまいし」
「いや、お前のためじゃない。俺が怒られるんだよ俺が」
縁はピアノをやっていて、聴いたことはないけど結構凄いらしい。手を土で汚そうものなら教育ママの縁のお母さんは激怒する。嫌だ嫌だ。それにその細指で雑草ブチブチ引っこ抜かせるとか・・・・やらせてみたいわ、畜生。
「黙って見てるくらいならアイスでも差し入れてくれ」
「お金ないから無理。だから黙って見てる。日陰でね」
言いながら木陰に入る。ずいぶん立派な木だな。何でこんな気が庭に生えてるんだよ。
「っていうかお前、何か用事があったんじゃないか?」
見たとこ何も持ってないが。
「ああ、茂が帰って来てるって聞いたから、新しく買った服見せびらかしてやろうかと思って。どう、これ」
くるり、とその場で一回転して見せる。裾がふわっと広がった。
水色のワンピースだ。
「・・・・こういうときどういう感想をすればいいのかわからない。どんな感想が欲しい?」
「ふふふ、茂は相変わらず朴念仁。んと、それじゃねー」
さらっと失礼なことを言って、顎に指を添えて考える。何だか無駄に絵になっていた。
「・・・・んふふ。何がいいかなあ」
「何なんだよ気持ち悪いな。さっさとしろ。俺は戻るぞ」
いいつつ作業を再開する。今日中に終わらせたいのだ。明日まで持ち越しとか、勘弁。
すると、縁は日陰から出てきて、俺の近くに立った。
んで、黙ったままじーっと俺を見下ろす。
「・・・・何だよ」
「いいや?頑張ってるなーって」
あ、そ。そういって、俺は手元に集中する。
下手に美人だから、直視しにくいんだよ。
「似合ってる?」
不意に縁が訊いてきた。あ?と返しかけて、ああ、ワンピースの話か、と思い出した。
「ああ、似合ってるよ」
「何か気持ちこもってないなあ」
「どう込めろと。こうか?『お似合いでございますよお嬢様』」
顔も上げずに言ってやると、縁は少し膨れた声で、全然ダメなどと言ってきた。しかも、そこらの散らばった雑草を拾って俺に振りかけてきやがった。
「やめ、こらやめろ」
「だって茂が適当なこと言うからあ」
「わかった、わかったからやめろって」
俺は立ち上がって雑草を払う。背中にまで付いていやしないか。
見れば縁は本当に膨れていた。
「で?」
「・・・・でって?」
「感想!」
むー、と縁はさらに膨れる。俺はため息、苦笑して、まだ低い位置にある縁の頭を軽く撫でてやった。
「似合ってる。綺麗だよ。・・・・これでいいか」
かなり恥ずかしくなって視線をそらす。でも縁はかなり嬉しそうに笑って、、
「うん!」
と頷いた。
はは、と俺は照れ隠しに笑って、散乱した雑草をかき集めにかかった。
雑草のように、ね。
捨てられる雑草の山を眺めつつ俺は内心で呟いた。縁もそれとなく手伝ってくれている。
まあ、悪かあないよな。
あの先生元気かな、とちらっと思った。