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第九十九話 廓遊び


 2度目の床入り部屋で・・羽虫はただ座ってるだけで、沖田にセマってこなかった。

 (セマれば逃げられると学習したらしい)


 芸娘を買うオトコたちが、すべてソレ目当てというワケではないのだ。

 会話を楽しんだり、疲れを癒すために来ている者もいる。


 羽虫はそこをわきまえている。


 正直、沖田は助かっていた。

 (セマられたら、どうせまた逃げ出すしかないのだから)


 だが・・緋無垢で端坐する羽虫はしっとり美しい。

 見ているだけで奮いつきそうになるが・・距離を保てば、なんとか平常心を保っていられた。


 羽虫はクスクス笑っている。


 「なんか可笑しいかい?」

 沖田が情けない声を出す。


 「すんまへん。新選組の沖田はんゆうたら・・強面の剣士で名高いお人やのに。そうして丸腰で座ってはると、なんや可愛えぇなぁ思て」

 まるで姉のような口調である。


 沖田は息をつく。

 年上のオネェサマに敵わないのは昔からだ。


 「"羽虫"って・・」

 沖田が口を開く。

 「ヘンな源氏名だな」


 「よう言われますねん」

 沖田が自分から話しを切り出したので、糸口になると思い会話に乗る。

 「うちのほんまの名前・・蛍(ほたる)いいますのや」


 「ああ・・だから"羽虫"」

 沖田の言葉に、羽虫がニッコリ笑って頷く。





 実際・・新選組幹部の廓遊びはかなり派手である。

 近藤、土方、永倉、原田、藤堂・・そこにさらに伊東までも加わった。


 高嶺を攻略するのが好きな土方は一番位の高い太夫を食いまくってるが、永倉や原田や藤堂などはほぼ手当たり次第である。


 今まで、廓遊びをしなかったのは沖田と山崎くらいだ。

 斎藤は、断れない時だけ遊んで行くスタイルである。


 だが・・沖田は近頃、角屋に行くたびに羽虫を呼ぶようになった。

 (ただし呼んでも・・床入り部屋でたわいもない世間話をするだけだが)


 「総司、おめぇ・・馴染みの芸娘ができたみてぇだなぁ」

 永倉はオモシロがってる口調だ。


 「はぁ・・まぁ・・」

 沖田が曖昧な返事をする。

 (・・カラダはぜんぜん馴染んでねぇけどな)


 とにもかくにも・・ホモの噂はおさまったようなので、目的は達成されたと見るべきだろう。


 沖田は息をつく。

 (もうムリに遊ぶ必要もないかなぁ・・) 


 だが・・沖田は羽虫と話すのが楽しみになっていた。


 羽虫はサッパリした性格で、コロコロとよく笑う。

 裏表も無くて、話してても飽きが来ない。


 結局・・ついつい羽虫を呼んでしまうことが続いた。





 ずっと稽古続きだったシンが、初めて市中見廻りに出ることになった。


 三番隊の列に着く。

 (ってゆうか・・オレ、隊士じゃねんだけどー!!!)

 心の中で絶叫する。


 だが・・見廻りに出れば、何か情報を得られるかもしれない。


 あれっきり・・井上は屯所に現れず、シンは赤鬼の話を聞けずにいた。


 市中見廻りは、隊士が大勢で列をなすのでかなりの壮観である。

 先頭を歩く斎藤は無表情だ。

 いつ攘夷派の浪士から斬りかかられるか分からないので、スキを見せることが出来ない。


 町民が列を遠巻きにして見ている中、女がひとり斎藤に近づく。

 年の頃は25~26。

 粗末な着物を着ているが、顔立ちのキレイな女である。


 「あのぅ・・こないだは、ほんまおおきに」

 ペコリと頭を下げる。


 見ると・・先日、通りすがりにからまれているところを助けた女だった。


 「いや・・」

 斎藤はそれだけ言うと、すぐに歩き出す。


 ところが・・右手と右足が同時に出ているので、動きがギクシャクしている。


 シンが斎藤のヘンな動きを訝しげに見ていると、隣りを歩く木下がつぶやいた。

 「斎藤組長、おもっしょいわ~。あないがいやのに・・ええオナゴにゃあ、やりこいけんなぁ~」


 木下は強い阿波弁を話すので、正直何を言ってるのか分からないが・・ニュアンスだけは伝わった。


 要するに・・斎藤はメチャメチャ強いのに、オンナにはからっきし弱いと言っているらしかった。



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