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第九十六話 昼飯


 「んじゃな」

 井上は踵を返すと、そのまま門に向かった。


 沖田は腕組みしたまま横目で井上の後ろ姿を見送る。

 (あの赤っ毛の異人がまた・・?)


 沖田が険しい顔をしているのを見て、環が声をかける。

 「お、沖田さん?」


 「あ?」

 我に返ったような声で、沖田が振り返る。

 「ああ・・オレ行くわ。稽古に戻んねぇと・・」


 ボリボリと頭を掻いて踵を返す沖田に、薫が声をかけた。

 「沖田さん!」

 その声に振り向いた沖田に、薫が駆け寄る。

 「あ、あの・・ありがとうございます」


 「・・・」

 沖田は少し黙った後で、メンド臭そうにつぶやく。

 「べつに・・グーゼン来ただけだし」


 そう言って門に向かう沖田の背中を、2人は黙って見送った。


 「グーゼンだって・・」

 「うん」

 環が頷く。


 伊東のようにお菓子をくれたり水汲みを手伝ってくれたりはしないが、イザという時なぜか現れる。





 次の日、東御役所の門に沖田が立っていた。

 井上に取り次いでもらっている。


 少ししてから現れた井上は、沖田が来ることを分かっていたような顔つきだ。

 「おう、総司・・昼飯食ったか?」


 「いや・・まだ」

 沖田が答えると、井上が親指を立てる。

 「行こうぜ」


 井上に誘われるまま、沖田もついていく。

 馴染みの飯屋に入ると、昼時で混んでいたが一番奥の座敷に座ることが出来た。


 店主が注文を取りに来る。


 「オレ・・"日替わり定食"」(井上)


 「オレ・・"今日のオススメ"」(沖田)


 注文を終えると、井上が茶をすする。

 「んで?」


 「大助、おめぇ・・あの件、"終わらせる"とか言ってなかったか?」

 沖田の問いに井上が顔を上げる。

 「・・言ったっけ?」


 「ったく・・」

 沖田が舌打ちする。

 井上のトボケに付き合う気はない。

 「そんで・・鬼が現れたってのはどこだ?」


 井上が薄く笑う。

 「・・おめぇもキョーミあるか?」


 そこに御膳が運ばれてきた。


 「まぁ、食おーや」

 井上が箸と飯椀を持つ。


 飯を口に運びながら話し出す。

 「あの長屋だよ。火事騒ぎの前にいなくなってた鬼が・・火が治まった頃、また戻ってたらしい」





 「あの長屋に?」

 「ああ」

 井上が頷く。


 「住人の間じゃ噂になってた。"長屋に鬼がいる"ってな」

 「・・・」


 「あの辺りは火事の被害にゃ合わなかったが・・火事騒ぎの時はみんな逃げて、長屋はもぬけの殻だった」

 

 沖田は黙って聞いている。


 「火が収まった頃、様子を見に戻ったやつが・・とてつもねぇデケェ影が長屋の前に立ってんのを見たんだと」

 井上は声を低くする。

 「振り返った顔に、金色に光る眼があったんだとよ」


 「・・・」

 沖田はあの異人の瞳を思い出す。


 「ところがなぁー、こっから先はどうも荒唐無稽過ぎるんだが・・"いきなり白い光が差して気を失っちまった"って。気付いた時にゃ、鬼の姿は無かったそうな」

 井上が薄笑いを浮かべる。

 「ちゃん、ちゃん♪」


 2人は一気に食べ終えて、茶をすする。

 

 「その後は・・誰も姿を見てねぇ」

 井上が手を上げる。

 「・・親父、もう一杯茶ぁくれねぇか」


 「大助、おめぇ・・その話、あいつらにするつもりか?」

 沖田が低い声で訊く。


 「・・そりゃ、あっちが知りたがってるからなぁ」

 井上が声を低くする。

 「あの3人・・あの異人と関係あるだろ?」


 井上の言葉を沖田が遮る。

 「・・ねぇよ」


 「総司・・おめぇも、そう思ってんだろ?ホントは」

 井上の問いに沖田は黙ったまま答えない。




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