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第八十五話 帰京


 朝飯の後で、斎藤が山南の部屋にやってきた。


 「サンナンさん、ちょっといいか?」

 斎藤が障子超しに声をかける。

 「斎藤くん?どうしたの?」

 山南が応えると、斎藤が障子を開けた。


 柱に身体をもたせる。

 「隊が人手不足なんだ」

 「知ってるわ」

 山南は「今更なにを」という口調である。


 「あのシンってやつ・・見習いで使いてぇんだが」

 斎藤は寄り掛かったままで腕を組む。

 「いいかい?」

 山南が驚いて振り返る。


 「・・・」

 山南はしばらく沈黙した後で、口を開いた。

 「腕前は見たの?」

 斎藤は首を傾げる。

 「いや・・まだ」

 「だったら・・」

 「使いモンになんなかったら、すぐ下働きに戻す。それでいいだろ?」


 しばらくしてから山南が息をつく。

 「・・好きにすれば?どのみち逃げる様子は無さそうだし」

 「決まり」

 斎藤は軽く答えて部屋を後にした。


 斎藤がいなくなった後、山南は箪笥の引き出しを開けて、薫と環の制服と一緒にしまってあるシンのショックガンを取り出した。

 「もしかして・・剣よりこっちがスゴイ武器かもよ」




 「・・・オレが隊士見習い?」

 シンが驚いた声を出す。

 (ジョーダンじゃねぇー!!)


 「ああ、明日から稽古に参加しろ」

 斎藤は、まるでトーゼンのように話を続ける。

 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 シンが斎藤の話を遮る。

 「オレは隊士になる気なんて、さらさら無いです!だいいち・・」


 「おめぇの意見なんざ聞いちゃねーよ」

 斎藤が事も無げに言う。

 「こっちは人手不足なんだ、猫の手も借りてぇぐれぇなんだよ」

 「だ、だからって・・」

 「うるせぇ・・ゴチャゴチャ抜かすなら、この場で冥土送りにしてやるぜ」


 (恐喝だよ・・これじゃ)

 シンは言葉を飲み込む。

 

 言いたいことだけ言うと、斎藤はさっさと部屋を後にする。

 残されたシンはボーゼンとしていた。


 斎藤の暴言のせいではない。

 自分がどんどん、この時代の中に飲み込まれていっている気がする。

 (ジョーダンじゃねーよ・・・このままじゃ・・)




 近藤ひとりが江戸に残って、永倉たちは京に戻ることになった。

 土方から、屯所の人手不足が深刻だと便りが届いたせいだ。

 帰りも早駕籠を使って、4日かけて帰京した。


 藤堂は実に2月振りの帰還である。

 「ごくろうだったな、平助」

 土方が出迎える。

 「土方さん、長いこと留守にしちまって・・」


 「おう!やっと帰ったなー、魁先生!」

 原田が嬉しそうに出迎える。

 「左之さん・・元気そーだな」


 沖田と斎藤も出てくる。

 「やっと帰ったかよ~・・平助」

 沖田が疲れ切った声を出す。

 「ったく・・こっちは朝昼晩の見廻りで、ブッ倒れそうだったぜ」

 斎藤の声が低く響く。


 「なんだよ・・おめぇら」

 藤堂のテンションもつられて下がる

 「久しぶりに戻って、これじゃなー。旦那は浮気しちまうぜぇ」

 「なにワケの分かんねぇこと言ってんだ、おめぇ」

 斎藤が藤堂の頭をはたく。


 久しぶりの邂逅で盛り上がっていると、門の方から女の声がする。

 「あの・・沖田はんおりますやろか?」

 ミツである。


 沖田がギョッとした顔をする。

 その姿を目に止めて、ミツが門から小走りで入ってくる。


 「沖田はん!ちょうど良かった、これ・・」

 手にはまた風呂敷包みを抱えている。

 「草餅、作ってきたんえ」

 「え?あ・・ああ」

 「よかったら、みなさんで上がってぇな」


 その場の視線が、沖田の手に渡された風呂敷包に集中する。

 「じゃあ・・ウチこれで」

 ミツはギャラリーの注目に恥ずかしそうにしながら、また小走りで門から出ていく。


 「総司、おめぇ・・ナニやってて忙しかったんだよ」

 藤堂が門の方を見ながらつぶやいた。



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