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第八話 原田


 門には大勢の隊士が集まっていた。

 「どけ!」

 永倉と沖田が隊士をかき分けると、そこには左腕に刀傷を受けて出血している男が倒れていた。

 浅葱色の隊服の袖が、斬られたところから開いている。


 「左之、何があった?」

 永倉が、怪我人を支えている男に訊いた。


 左之と呼ばれた男は、出血している男の腕を布で抑えながら答える。

 「すまん。ヘマしたぜ。しっかりしろ、木下!」


 「す・・すいません。原田組長」

 弱々しいが、意識はしっかりとしている。


 原田はホッとして、木下を肩に担ぎ直した。

 永倉も反対側から支える。


 木下は屯所の一室にしつらえた床に寝かせられた。


 血で汚れた隊服は脱がされたが、出血が止まらない。


 「山崎は監察中でいない。ほかに治療出来るやつを呼べ」

 「そ、それが今日は誰も・・」

 隊士の一人がおろおろと答えると、原田が怒鳴りつけた。

 「馬鹿野郎!だったら町医者でもなんでもいいから今すぐ呼んで来い!」

 「は、はい!」


 隊士が飛び上がっていなくなった部屋の前の廊下には、薫と環が立っていた。

 見張りがいなくなって抜け出して来たのだ。

 薫は腕にパチを抱いている。


 「あの・・」

 環が部屋に入った。

 「なんだ?おめぇら。勝手に出歩くんじゃねぇ、部屋に戻れ」

 永倉に強い口調で言われたが、環は怯まず言った。

 「あの・・良かったら傷を診させてもらえませんか?」

 「なんだと?女子供の見るようなもんじゃねぇよ」

 「手当させてください」


 原田と永倉が環を見つめた。

 「なんだおめぇ、医術の心得あるのか?」

 「心得じゃありませんが、父が医者なので多少」

 薫も驚いて環を見た。

 「多少でも何でも、医者の真似事ができるならやってくれ。時間がねぇ」

 永倉が環に席を譲る。


 環は怪我人の脇に座ると、切れた着物の袖を引っ張って引き裂いた。

 傷口がむき出しになる。


 「出血を止めないと・・、お湯を沸かしてください。あとお酒と清潔な布を出来るだけ沢山」

 環が言うと永倉が立ち上がった。

 「それと箸と紐を。枕と座布団も持ってきてください」

 「分かった。ちょっと待っててくれ」


 永倉がいなくなると、原田が心配そうに訊いた。

 「どうだ?できそうか?」

 「わたし傷口の縫合なんて出来ません。とにかく止血と消毒します」




 環が行った処置は原始的な止血方法だった。


 肩の下に座布団をしいて、出血している腕に枕を当てて高くした。


 酒で消毒した傷口に布を当てて、そこを原田に抑えてもらった。

 薫には脇の下の止血点を抑えてもらう。


 永倉には自由に動いてもらえるようにした。

 緊急時には役割分担を明確にした方がいいことを環は知っていた。


 「その箸と紐は使わねぇのか?」

 永倉が訊くと環は冷静な声で答える。

 「緊縛止血法は危険だから、どうしても血が止まらなかったらの最後の手段です」

 原田は環の言葉に感心したような顔をした。


 「傷口を見せてください」

 原田が抑えていた手をどけると、傷口の血はどうやら止まったようだった。


 環はふぅーっと息をつくと、血の気の無い木下の耳元で訊いた。

 「わたしの声聞こえます?」

 「はい」

 木下が小さく頷く。


 「じゃあちょっと手を動かしてください。結んで、開いて」

 木下は素直に手を結んだり開いたりを繰り返す。

 「はい、もういいです」


 今度は原田の方に顔を向けて言った。

 「神経は大丈夫みたい。傷が塞がれば元に戻ると思います。傷口に菌が感染しないようにこまめに消毒して清潔な布で保護してください」


 原田は感謝の目を向けた。

 「ありがとよ。あんた名前はなんていうんだい?」

 「雨宮環です」


 薫も環もこの屯所に捕まってから、何者だと訊かれ続けたが、名を訊かれたのはこれが初めてだった。




 「見廻り中に突然、浪士数人で斬り込まれた。不意打ちだったんで、木下がかわせず一太刀あびせられた」

 悔しげな表情で原田が状況を説明する。


 「斬り合いになったが、連中、状況不利と看て取ると途端に剣を引いて逃げ出しやがった」

 「なんだ、そりゃ」

 「池田たちが跡を追った」

 「そんなカスみてぇな連中、すぐに片づけられんだろうよ」


 「悪かったよ」

 原田はふてくされたよう答えた。


 部屋には永倉と原田と藤堂の3人がいる。


 近藤と山南と土方は大坂出張で不在にしているため、屯所の管理は組長が担っているのだ。


 木下は、隊士が連れて来た町医者の処方した薬を傷口に塗って部屋で休んでいる。


 「にしても、あの娘っこ何者なんだろうな」

 藤堂がニヤニヤ笑いながら言い出した。

 「さぁ、片っぽうは医者の娘らしい。怪しいモンじゃねえだろう」

 原田が言うと藤堂が茶化すように返した。

 「なんだよ、左之さん。信用しちまったみてぇだな」

 「そんなんじゃねぇ。ただ、部下を助けてもらっちゃな」


 そこに障子がスラリと開いた。

 「お、総司、斎藤、帰ったか。どうだ?」

 「すいません。肝心のやつぁ取り逃がしちまったらしいです。捕まったのは下っ端連中ばかりだ」

 沖田が答えると、後ろに立っていた斎藤が続いた。

 「オレ達が駆けつけた時にゃあ、ちりじりだったもんで」


 「長州のやつらか?」

 「わかりません。池田が連中を締め上げてます」

 「なかなか吐かねぇだろうな」


 「木下さん、無事だったみたいですね」

 沖田が言いながら座った。

 「ああ、あの環って娘、医術の心得があるらしい。山崎がいなかったんで助かったよ」

 原田の言葉を沖田は面白そうに聞いている。


 「環ってんだ。そういやぁ名前訊いてなかったなぁ」

 沖田の言葉に永倉が答える。

 「オカッパ頭が環で、髪結ってんのは薫ってんだ。総司、見張り役なら名前ぐれぇ覚えときな」

 「はいはい」

 沖田が首をすくめた。

 



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