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第七十九話 腕相撲


 原田と斎藤が通常の隊務に戻って、ハードを極めていた沖田の勤務も若干ラクになった。

 だが、永倉、武田、藤堂と3人の組長が屯所を留守にしているため、忙しいことは変わらない。


 土方と山南は、近藤が留守中の名代を分担して引き受けているため屯所にいる時間が少なくなった。


 見廻りが最優先なので、必然的に稽古を見る時間が少なくなる。

 しかし沖田は、原田と斎藤の謹慎が解けるとすぐに薫と環の稽古を再開した。


 炊事場に現れた沖田を見て、薫が驚いた声を出す。

 「お・・沖田さん!?忙しいんじゃないですか?」

 「あの・・自分たちで練習しますから・・大丈夫ですよ」

 環も申し訳ないような声を出す。


 疲れた顔で沖田がつぶやく。

 「サンナンさんに頼まれてるからな・・」

 「はぁ・・」

 薫と環は困ったように目を合わせる。


 「新入りの3人はどうしてる?」

 沖田が薫に振り向くと、薫の目が横に泳ぐ。

 「え~と・・はい・・ガンバってますよ」

 「そっか、慣れるまで面倒見てくれな」

 「は・・はい」


 ゴローもレンもシュウも明るくて働き者で、薫としては助かっている。

 ただ、ずっとオカマのキワドイ弾丸トークが続くので・・楽しい半分、精力が吸い取られていくような気がするのだ。


 (ま・・慣れれば平気になると思うんだけど・・) 

 薫が思った通りに、数日するといつの間にかオカマ3人にすっかり慣れていた。




 監察の山崎が数日ぶりで屯所に戻ってきた。

 張り込みをしているので、屯所には不定期でしか戻ってこない。


 「ザキちゃん!」

 ちょうど炊事場から出てきたレンが、バッタリ鉢合わせた。

 「・・?」

 山崎はレンを見てもピンと来ない。

 (・・誰だ?)


 「ひさしぶりねぇ~!アタシよ~、夢屋のレンよ」

 「・・っ・・げっ!」

 山崎の顔が引きつる。

 「な、なんでここに・・」

 「アタシ新選組の隊士になったのぉ~。ザキちゃん、よろしくね~」

 「げ」

 レンが山崎に小又で走り寄る。


 抱きつこうとしたレンの手を、山崎が寸前で制止する。

 レンの右手と山崎の左手、山崎の右手とレンの左手が組み合わさって、その場で力較べになった。


 山崎の両腕の血管が浮き上がって、ブルブルと震える。

 (あいっかわらず・・馬鹿力だぜー)

 「ううう・・」

 「ザキちゃん・・照れなくてもいいのよぉ~・・」

 レンの額の血管が浮き上がって、脂汗が滲み出る。


 夢屋に行った時は五分五分だったが、今日は山崎が押している。

 「ううう・・」


 そこに、昼飯を食べ終えた斎藤が通りかかった。

 「山崎さん・・何やってんすか?」

 力較べをしている山崎とレンを横目で見る。


 「・・腕相撲・・」

 山崎が歯を食いしばりながら答える。

 「ふぅーん?」

 斎藤は見物するように、その場にしゃがみ込んだ。




 昼飯を食べ終えた原田と沖田が、爪楊枝をくわえて出てきた。


 前川邸の屯所に行こうと門へ歩いて行くと、斎藤がしゃがんでいる。

 見ると、斎藤の前で山崎とレンが手を掴みあいブルブル震えている。


 「なにやってんだよ、斎藤?」

 原田が訊くと、斎藤は振り返らずに答える。

 「あー・・見物っす。山崎さんが腕相撲やってるんで」


 「腕相撲?」

 原田が山崎とレンを見る。

 「・・変わった腕相撲だな」

 「・・良くわかんねぇですが・・山崎さん。もうちょいだ、ガンバッテくだせぇ」

 沖田が腕を組む。


 「ううう」

 山崎がうなると、レンが弾かれるように倒れて転んだ。

 「・・っ・・いったぁーい!」

 山崎はゼェゼェと肩で息をしている。


 「ひ・・土方副長はいるか?」

 山崎の問いに、沖田が親指を立てて答える。

 土方は昼飯を食べ終えて部屋に戻ったところだ。

 「・・報告に行かなきゃ」

 身なりを軽く整えて、ヨロヨロと歩き出す。

 後ろでレンが悔し涙を浮かべているが、一顧だにしない。


 「立てよ、レン」

 原田が地べたに座り込んでいるレンに声をかける。

 「んな、捨てられた女みてぇなカッコで座りこんでんじゃねぇよ」

 メラメラと燃える目をして、レンが立ち上がる。

 「アタシ・・自分を負かしたオトコに身を捧げるって決めてたの」

 「は?」

 斎藤と原田と沖田が真顔になる。


 「えーと、確か・・松原さんに先に負けてませんでしたっけ?レンさんって」

 沖田が訊くと、レンがヒステリックに答える。

 「あれは別!」

 「あ~・・ツラでふるいにかけてんだろ」

 原田がダルそうな口調でつぶやく。

 「ったく、忙しってのに・・くだらねぇ時間使っちまったぜ」

 斎藤がのっそり立ち上がって、背伸びした。



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