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第五十一話 魁先生


 シンはその夜から、斎藤と藤堂の部屋に入れられた。

 襖で仕切られた小部屋は、3人寝るのがギリギリである。


 「おめぇ、アカギシンとか言ったな」

 斎藤が部屋の隅に座っているシンに声をかける。

 「からくり技師だって?」

 シンは黙ったままだ。

 「・・態度ワリぃな、こいつ」

 返事をしないシンに、斎藤がムッとする。

 

 今度は、藤堂がシンに声をかける。

 「おめぇ、薫や環の知り合いだって?」

 シンは黙ったままだ。

 「・・態度ワリぃな、こいつ」

 藤堂もムッとする。


 「ったく、サンナンさんも。お願いね~とか言って、やっかいもん押し付けやがって」

 斎藤がぶつぶつ小言を言う。

 「まぁ、そう文句言うなよ。斎藤」

 藤堂が仕方なくなだめる。


 「男がいったん引き受けたからにゃあ、責任持って最後まで面倒見るもんだ」

 「ふん」

 斎藤は意に介さない。

 「・・おめぇも態度ワリぃな」

 藤堂がさらにムッとする。


 「ほっとけよ。ああ・・そういや、平助。近藤さんが江戸に下るぜ」

 斎藤が突然、思い出したように言った。


 「江戸?」

 「おめぇ、朝メシん時いなかったろ。なんか大幅に人員増やすことになったらしいぜ。新規隊士の募集に行くんだと」


 「へぇ・・」

 藤堂はなにやら考え込んでいる。

 



 次の日、藤堂が江戸の隊士募集に名乗りを上げた。


 藤堂は付き合いが広い。


 山南と同じ北辰一刀流の門人だった時もあり、大流派閥にも知人が多い。

 近藤が赴く前に、藤堂が事前に目ぼしい道場にあたりをつけることになった。


 「魁先生は、なんでも魁先生だなぁ」

 永倉が笑いながら言う。


 魁先生(さきがけせんせい)とは、藤堂のアダ名である。

 戦場でも討ち入りでも一番最初に乗り込むので、そう呼ばれている。


 「平助。おめぇ、心当たりでもあるのか?」

 土方が訊いた。

 「心当たりってほどでもねぇですが・・。まぁ、声かけてみようと思ってる連中はチラホラいます」

 藤堂が軽く答える。


 「そっか・・まぁ、おめぇの見立てなら腕の立つ連中だろう」

 土方は、藤堂が北辰一刀流の出であることが気がかりだったが、討幕派ならハナから新選組に入隊なぞしないだろう。


 こうして、藤堂の江戸行きは決まった。


 「なーんだよ」

 斎藤がぶつぶつ小言を言う。

 「結局、あの新入り。オレが一人で見張る羽目になっちまったじゃねぇか」


 「あ?ああ、悪ぃなぁ、斎藤」

 藤堂はテキトーに答える。

 心ここにあらずの風情だ。


 江戸行きで頭がいっぱいになっている。

 

 斎藤はいぶかしげに藤堂を見る。


 たかが江戸行きで、やけにテンションが高すぎる。

 (どうしたんだ?こいつ)




 藤堂は旅支度を整えている。


 これは、絶好の機会だ。


 藤堂が勧誘したいと考えているのは、たった一人の人物である。

 

 伊東大蔵(いとうおおくら)

 江戸深川佐賀町の北辰一刀流、伊東道場の道場主。

 水戸学に精通し、文武両道に秀でた勤王の志士。


 藤堂は試衛館の食客になる前に、伊東道場の寄り弟子だったことがある。 

 そこで北辰一刀流を学び、水戸学の影響を受けた。


 新選組では、ほかに総長の山南が江戸の千葉道場で北辰一刀流を学び、勤王の志を強くしている。


 幕末の思想は複雑に変遷を続けている。

 尊王攘夷、勤王開国、幕臣でも開国派と鎖国派、例え志が一緒でもそれぞれ描く図が違う。

 しかも、暗殺や武力行使などのテロ行為が政治活動として有効だ。


 だが、最終的に佐幕派と討幕派の2つに分かれる。

 勝海舟のような公武合体論者と、水戸藩や長州藩のような過激な討幕論者がそれにあたる。


 藤堂は討幕の考えなど持っていないが、尊王の意識は根底に刷り込まれている。

 幹部でも若輩者なので普段はおくびにも出さないが、心の底では新選組がどんどん尊王攘夷から離れていることに不満を感じている。


 藤堂は伊東を勧誘して、なんとか新選組を刷新したいと思った。

 夷狄の侵略からこの国を守り、天子のために剣を奮いたい。


 複雑な理屈や難しい思想は良く分からない。

 ただ、王を守り戦うことに、少年のように痛烈な憧れを抱いていた。


 藤堂のこういったところは、近藤や土方とは違った漢(おとこ)なのである。


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