表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/122

第四十九話 昼下がり 


 沖田が遅い昼飯をモソモソ食べていると、山南が部屋に入ってきた。

 「あら、沖田くん。今頃、お昼?」


 沖田が箸を止めて、顔を上げる。

 「ああ、サンナンさん。ちっと野暮用で」

 「あらま・・沖田くんが野暮用なんて」

 山南の声が少し低くなる。

 「ひょっとしてカノジョでも出来たのかしら」


 「やめてくだせぇ。田舎侍を相手にする京娘なんかいませんよ」

 沖田がゲンナリした顔で答える。


 「そんなことないわよ。沖田くんモテるわよぉー、その気になれば」

 山南が沖田のそばに座る。

 「いらねぇですよ。どのみち女にゃ縁がねぇ」

 「そんなひからびたこと言っちゃって」


 「・・サンナンさん」

 味噌汁をすすりながら沖田が言った。

 「なぁに?」

 「異人・・見たことありますか?」


 「異人?あるわよ。山下の居留地の辺りが物騒になって、一時、呼ばれたことがあるじゃない」

 横浜村の居留地で、攘夷浪士による襲撃事件が立て続けに起きたことがあった。


 「どんな感じですかね、異人ってなぁ」

 沖田が訊いた。

 「そうねぇ。まぁ、やっぱり全然違うわよね。髪の色もみんな違うし、目の色だって。それになんてったってデカイわ」

 「・・・・」


 「異人がどうかしたの?」

 山南が不思議そうに訊く。

 沖田が何かに興味を示すことが珍しい。


 「いや・・京の町じゃあ、全く見ませんね」

 「そりゃあ、天皇様が大の夷狄嫌いだし。攘夷志士がウロついてて、観光したくても危なくて出来ないわよ。幕府の要人以外は来ないわ」

 「・・ですね」


 沖田は箸を置いた。

 「ごっつぉーさん」

 



 部屋に戻った山南は考え込んでいる。


 畳の上には、薫と環の制服、シンのショックガンと腕時計が並べてある。


 薫と環の制服は、面倒になった土方が山南に押し付けたものだ。

 ショックガンと時計は、山南がシンから「念のため」と言って預かった。


 シンはこれを「おもちゃの鉄砲」と言ったが、山南はそう思っていない。


 おもちゃは、元の形に似せて作るものである。

 これは模倣性がなさ過ぎる。

 レプリカではない、オリジナルの作りである。

 腕時計は蓋がカッチリと閉まって、中は見えない。


 山南は試しにショックガンを構えてみるが、トリガーがびくとも動かない。

 「・・・」

 (やっぱりおもちゃなのかしら)

 山南はショックガンを畳の上に戻す。


 シンがあっさりショックガンを山南に渡したのは、セーフティーロックされているからだ。

 ロック解除するには、トリガー部分にある生体認証をクリアしなくてはいけない。

 このショックガンに登録されている生体認証者は、シンと赤城教授の2人だけだ。

 他の者が手にしても、安全装置を解除しなければ撃つことはできない。


 腕時計も、蓋の部分にある指紋認証をクリアしなくては開くことができない。

 時計にはICチップが埋め込まれ、ワームループの座標計算式が記録されている。


 認証登録者以外の人間にとっては、ショックガンも腕時計も無用の長物だ。


 山南は小さく溜息をついて、薫と環の制服をチラリと見た。


 こっちは正真正銘、無用の長物である。



 

 昼飯の後、土方は部屋で一人思案している。


 禁門の変の戦の最中に脱走した隊士や、野戦続きで病気になった隊士、ケガを負った隊士の欠員補充のことである。


 禁門の変の戦功で、新選組には人件費の名目で幕府からご下賜があった。

 長州戦に備えて、隊士の数を増やせということである。


 新入隊士の募集をどうするか。

 土方は、京ではなく江戸で新規隊士を募ることを考えている。


 京は町民に幕府嫌いが多く、討幕派の長州藩に比較的同情的である。

 徳川のお膝元である江戸の方が、当然、親幕派が多い。


 だが、京からわざわざ東下して、江戸の道場を回って剣客を探すのは骨が折れる。


 できれば先に当たりをつけておきたい。

 やみくもに募集して回るよりは効率が良い。


 一つ目に、思想にかぶれていない。

 二つ目に、討幕派道場の出でない。


 これが最低限の条件だが、さらに腕が立って命知らずの猛者となると難しい。

 容易には見つからないだろう。

 

 あぐらをかいて、腕組みをしながら土方はつぶやく。

 「さて・・どうすっかなぁ」


 土方という男、いつでも考えるのは新選組の強化と名を上げることばかりである。

 脳内メーカーだったら「新、選、組」の3文字で、頭が埋めつくされてるかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ