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第四十一話 詮議


 安藤と新田の遺体は墓地に埋葬された。

 卒塔婆の前でお坊さんが経をあげるだけの簡単な葬儀である。


 山南と沖田、環と薫が、卒塔婆の前で手を合わせる。


 住職にお金を包んだ袋を渡すと、山南は一息つく。

 「さ、屯所に戻りましょうか」

 薫と環が頷く。


 環が思ったよりも元気なので、薫はホッとしている。

 もっとひどく落ち込むと思っていた。


 昨日の夜、布団部屋で並んで寝ていると、突如、環が言った。

 「わたし・・医者になりたいなぁ」

 「え?」

 薫が環の方を見ると、環は目をつむっている。


 「・・なんでもない。おやすみ」

 どうやら環は自問自答しているようだった。


 「今日から幕府の配給が始まるから、薫ちゃんと環ちゃんはもうでかけなくて大丈夫よ」

 屯所への帰り道に山南が言った。

 「本当ですか?良かったですねぇ!」

 薫が嬉しげな声を上げたが、沖田はいまひとつ浮かない顔だ。

 「少しばかり配給したって間に合わねぇ。幕府はどんくらいの米用意したんです?」


 「さぁ・・ただ、新選組は市中見廻りを再開するように言われたわ。治安が悪くなっているから」

 山南の答えに沖田は息をつく。


 「そういえば・・からくり技師を名乗ってる坊やの様子はどう?」

 山南の言葉に沖田が答える。

 「おとなしいもんです。逃げる様子もねぇし。どうも屯所が気に入ったんじゃねぇんですか」

 「あらそうなの?」


 山南と沖田の会話を、環と薫は心配そうに聞いている。




 屯所に戻ると、山南はシンのいる部屋に向かった。

 昨日、シンの詮議が中途で終わったためだ。


 部屋に入るとシンは柱にもたれて目をつむっている。


 「あなたいくつなの?」

 山南は部屋に入るなり、いきなり訊いた。

 シンが薄目を開ける。


 「じゅうは・・・いや19」

 答えかけてすぐ、数え年に言いなおす。

 シンは飛び級で進級して大学4年生だが、満年齢で18才である。

 

 「あの2人とはどういう知り合い?」

 薫と環のことである。

 「たいした知り合いでもないですよ。偶然、同じく京の町で迷子になったってだけで」

 「迷子?」


 シンはもう答えない。

 薫や環と口裏を合わせる時間が無かったので、最低限のことしか言えない。


 山南はシンの腕時計に目をやる。

 蓋が閉じられていて文字盤は見えなくなっている。


 「その、腕につけているのもおもちゃなのかしら?」

 山南の言葉で、シンが腕時計にちらりと目をやる。

 「そうですよ」

 「・・・そう」


 山南はしばらく黙っていたが、おもむろに立ち上がって言った。

 「まだ解放するわけにいかないわ。どうやらあなた嘘ついてるみたいだし。あの2人と同じ、ワケありかしら」


 シンは無言で山南を見上げる。


 山南が部屋から出て行くと、シンはあぐらをかいて舌打ちした。

 「・・チッ」




 「沖田くん」

 見廻りの準備をしてる沖田に山南が声をかける。


 屯所の隊士の数が少ないので、見廻りの班を組み直している。


 「ああ、サンナンさん」

 手に持った市内の地図に目を落としたまま、沖田が答える。

 「どうも・・人数が足らないもんで1日じゃ廻り切れねぇや」


 「良い情報が入ったわよ。近藤さんたちが、明日大坂から戻ってくるわ」

 「本当ですかい?」

 沖田が顔を上げる。


 「ええ、ついさっき監察から報告が入ったの。大坂には谷さんが残るらしいわ」

 「・・なるほど」

 七番隊組長の谷は鼻にかけた発言が多く、新選組の隊士たちからあまり好かれていない。


 「あのアカギシンって子、なかなか面白いわ。頭も良さそうだし」

 山南がクスクスと笑い出す。


 「手に竹刀ダコがありましたぜ」

 沖田が素知らぬ顔で言った。

 「ええ、そうね」

 沖田と山南は、シンの親指と人差し指の付け根に固く盛り上がった竹刀ダコを見つけている。


 「そのくせ、刀と呼ばれるものは持ってない」

 山南が薄笑いを浮かべて腕組みをする。

 「なんなのかしらね、いったい」


 「さぁ・・」

 沖田は興味無さ気に、手に持った地図を折りたたんだ。

 「まぁ、敵じゃねぇのかもしれませんが、味方でも無さそうですね」

 「どうかしら」

 沖田の言葉に山南はゆったり笑った。


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